海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

今こそ音楽を!第5章 音楽大学1. 東京藝大「国を超えて相互交流を」

2015/11/27
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第5章:「大学最新カリキュラム編」
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音楽の可能性をさらに掘り下げて
~音楽大学 その1
東京藝大~スーパーグローバル大学創成支援認定校に

日本の高等教育機関の国際競争力を高めるため、昨年よりスーパーグローバル大学創成支援事業が始まった。採択された全国37大学中、音楽・芸術関連では唯一の指定校となった東京藝術大学(グローバル牽引型)。教育方針やカリキュラムに変化はあるのだろうか。同大理事・ピアノ科教授の渡辺健二先生にお話をお伺いした。


日本発音楽家として、海外に出る意義とは
よりグローバルなアーティストを目指して
東京藝大は芸術系大学では唯一、スーパーグローバル大学創成支援校に採択されました。教育方針やカリキュラム等には変化がありますでしょうか。

スーパーグローバル大学指定校として、世界をリードするような芸術家・研究者を育成することが第一の目的です。藝大は創立当初から世界と関係を持ち、グローバルではありましたので、何かが変わるというより、強化される感じですね。世界第一線のアーティストを招聘し、早い段階から本場の教育(特に実技レッスン)に触れられるようにします。海外からの招聘教授をさらに増やして指導体制を2倍にしますので、学生にとっての刺激は倍増するということです。

ピアノ科の招聘教授陣は、今年はジャック・ルヴィエ、ミシェル・ベロフ、ケメネシュ・アンドラーシュの三名で、11月から順次来日し、約1~3週間滞在して、我々と共同で指導して頂きます。(期間中には、教員とピアノ科や他科の招聘教授とのジョイントコンサートも開催)。

海外に音楽家・音源を積極的に発信
「世界で活躍したい」という学生の意識は、以前より高まっているとお感じになりますか?

はい。スーバーグローバルの動きが大学全体に出てきますので、より強く意識するようになりましたね。今までは大学院を休学して留学することが多かったですが、それだけでなく、学部時代に一度留学して、卒業後に再び海外に行くという学生も増えてきています。

また海外大学との演奏交流も増えてきました。昨年は学生数名を韓国に連れていき、韓国芸術綜合学校とのコラボレーションコンサートに出演しましたが、先方のレベルも高く、大変刺激を受けたようです(※)。11月28日には韓国から来日しての演奏会が行われます。

  • 藝大基金(ASAP "Arts Study Abroad Program")が支援。これはスーパーグローバルをきっかけに新設された奨学金で、教員が企画し,学生が主体的に実行する海外での芸術研修にかかわる。全学部・大学院が対象で、単位認定も有り。事前調査及び実績に基づき、可能な範囲の奨学金を支給する。

また国際企画課では昨年から、日本人を海外へ送り出すための企画や、英語プレゼンテーション講座・先輩による体験談・留学相談にも応じています。英語プレゼンテーション講座は大学院生対象で、今年7月には"Introduce Yourself as an Artist"をテーマに実施しました。

さらに、演奏音源も積極的に世界へ発信していきたいと考えています。アップルやアマゾン等でもクラシック分野の音源がダウンロード可能になりますし、恐らく来年からクラシック分野専用チャンネルも登場するので、藝大のチャンネル設置を計画中です。

日本人も長年、クラシック音楽の学びや経験を積み重ねてきました。西洋で生まれ育った若者と同じではないとしても、日本人としての、韓国人としての、中国人としての、ショパンやベートーヴェンを打ち出してもいいのではないかと思います。ヨーロッパの音楽家からも同じような意見を多く聞きます。

海外大学との共同学位も
積極的に海外に出て演奏交流すること、発信することは大事になりますね。ところで美術学部では共同学位などが進んでいるようですが、音楽学部はいかがでしょうか。

2017年秋になると思いますが、リスト音楽院大学院と藝大大学院の共同学位をピアノ科から始める予定です。(藝大生は)1年目は藝大で学び、2年目はリスト音楽院へ留学する形になります。これは日本の音楽大学では初めての試みです。

美術研究科にはグローバルアート共同カリキュラムがありまして、海外から学生10~20人が来日し、藝大生と共同でリサーチや物創りを行い、越後妻有や高松栗林公園など広い範囲でソーシャル・プラクティスを展開しています。音楽ではそのような形は難しいですが、一昨年弦学科生数名がジュネーブ音楽院で合同オーケストラに参加したように、海外から学生がもっと来るようになれば新しい展開ができそうです。附属高校も今年は台湾での演奏会を行いましたが、今後も積極的に海外に出るなど、計画はありますので、実現に向けて取り組んでいきたいですね。

現在、日本で学ぶ外国人留学生はどのくらいいらっしゃいますか?

音楽・美術合わせて160名の外国人留学生がいます。ピアノ科は2名で、私は台湾からの留学生を指導しています。明るく大らかな演奏をする学生で、日本語も半年ほどで習得し、他の門下生ともよく交流しています。藝大の寮に入る留学生も多く(国際交流会館や2014年新設の藝心寮)、地域の方々が「皆で外国人留学生をお世話しよう」と積極的に交流して下さっています。お祭りに呼んで頂いたり、彼らも絵を描いたり、歌やピアノ等の楽器を演奏したり、とても盛り上がっているようですね。

外国人留学生の日本での過ごし方は、日本から海外留学される方の参考にもなりそうです。先生ご自身もハンガリーに留学されていましたよね。

ハンガリーには5年間留学し、その間ずっとホームステイしていました。休日には親戚や友人宅などに連れて行って頂くなど、いまだに家族のように交流しています。ハンガリー語を話し、その環境の中から感じ取るものが多くありました。学校の中での学生同士の付き合いが中心になってしまうのはもったいないので、私の生徒にもホームステイを勧めています。

才能の早期発掘
スーパーグローバルとは直接関係ありませんが、飛び入学も受け入れるようになりましたね。

才能を見極めるのは難しいですが、ハードルを高くして選抜します。124単位という卒業要件は一般学生と変わらないですが、カリキュラムはかなり自由に組めるようにする予定です。今後、特に優秀な学生に対しても同じように対応するか検討中です。


専門をきっちり学んだ上で、幅広い教養を
芸術家も基礎教養が大事
昨今は音楽に限らず、あらゆる分野で教養教育の重要性が高まっています。藝大では才能を最大限に伸ばす環境作りに加えて、この点についてどのように取り組まれていますか?

やはり専門をきちんと学ぶと同時に、幅広い教養をもつことが大事です。まずは様々な分野を広く浅く知ること、そこから興味を持てばまた各自深めてもらうのが望ましいと考えています。

昨年度、芸術大学における教養教育の在り方について提言を行いました。これは、「歴史を識る」「社会を識る」「コミュニケーション力を身につける」「自然を識る」「科学的知識を識る」「他分野の芸術を識る」の6カテゴリから成り立っています。私がセンター長を務める教養教育センターでは、これをベースとしてどう現実的に科目と組み合わせていくか、現在検討中です。また本学だけでなく、芸術・音楽大学全般を対象に、各大学の方針や個性に沿った形で応用できるよう記載してあります。

教養は芸術そのものを深めるためにも必要ですし、キャリアアップしていくと様々な分野の方と話す機会も増えますので、芸術家・音楽家として魅力ある人間であってほしいです。

INDEX

菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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