ピアノステージ

Vol.09-3 Stage+人(9) 外山 啓介さん

2009/02/20
Stage+人(9)

ピティナ・ピアノコンペティションに、過去3回(B・D・E級)出場し、いずれも全国決勝大会で入賞。東京芸術大学在学中から、異例のスケールでデビューを果たし、すでに多くのファンの心をつかむ外山啓介さん(24)。CDジャケットやステージ上に見るクールな印象とはちがい、終始親しみのある笑顔と爽やかな語り口で、デビュー3年目の「今」を語っていただいた。


― デビューから3度目の全国ツアーにむけて、どのような意気込みですか?

3回目の全国ツアーをさせていただけるということに、まず心から幸せだと感じています。どういう演奏をしたいかという思いはいろいろありますが、2年間の経験を重ね、3年目を迎え、"プロとしてどうあるべきか"を考えるようになりました。自分の求めるところ、選曲、曲の突き詰め方、勉強の仕方、どれにおいても、意識の置き方が変わってきたように思います。

― 今回のリサイタルの曲目は、どのように選曲されたのですか。

プログラムを考えるときはいつも、挑戦したい曲をまず1曲決めるんです。今回は、ショパンのスケルツォ4番で、この曲を軸に、プログラムを考えていきました。スケルツォには、あんなに明るい曲想なのに、ふっと陰りが見えたり、いろんな要素がつまっているように思います。また、僕はよく作曲家の伝記を読んで、その作品がどういう時期だったのか、想像力を働かせているのですが、Op.54のこの作品は、たぶんショパンにとって、複雑な時期だったと思います。そんなことを僕なりに追求していきたいですし、お客さんにも一緒に楽しんでいただきたいです。

― コンチェルトの方は、今年はラフマニノフ2番が中心ですね。

僕が初めてコンチェルトを共演させていただいたのが、日本フィルで、特別な思いのあるオーケストラなのですが、今回再び共演させていただくことができ、とても楽しみです。指揮者の藤岡さんとは初めてご一緒させていただきますが、ラフマニノフは色々な楽器のかけあいが随所に出てくるので、どのような音楽が造りだせるのか、今からワクワクしています。
 2番は、大好きな曲の1つです。ラフマニノフのコンチェルトでは、特にリヒテルの演奏が好きです。何かしながらでは、とても聴けない演奏なんです。心を鷲づかみにされるような(笑)。テクニックもすごいし、歌い方もすごい!僕もそんな演奏を、目指していきたいです。


― 昨秋よりドイツに留学されていますが、いかがですか?

実家が北海道なんですが、北ドイツも、寒くて穏やかで、人が優しく、過ごしやすいです。自然が多く、学校も森の中にあります。今はとりあえず、ドイツ語に奮闘しながら、レッスンをこなすので精一杯という感じです。田舎なので、夜に開いているお店もないし、いい意味で他にあまりすることがなくて、ゆっくり時間が流れている感じがして、こういう生活もいいなぁと思っています。

― ハノーファー音楽演劇大学を選んだのは?
― いつからピアニストになろうと?
小学生の時。"ピアニストになりたい"というより、"ピアニストになる"となぜか思っていました。とにかくピアノが好きで、中学1年の夏休みで、6時間の練習が、楽しくて仕方がなかったですね。今考えれば、父親の会社の社宅での練習は、大迷惑だったはず。音楽関係でない両親からは、ピアノをやれともやめろともいわれたことがなく、やりたいときにやりたいことをやっている子どもでした。

― キャーキャーという勢いのファンの声援、届いていますか?
すごくうれしいです。でも、今はもっと理想の音楽に近づきたいという向上心で、結構いっぱいいっぱいです(笑)。

― 最近感動した演奏会は?
演奏会に行くのは昔から大好きですが、特にデビューしてからは、ピアノに限らずよく行きます。人の演奏から刺激を受けたり、影響されたりすることって、悪いことではないと思います。ドイツでは、内田光子さんの演奏に、思うことがいっぱいあって、少しでも近づきたいと思いました。日本では、オペラシティでの佐渡さんの第九も、すごく印象的でした。

― 外山さんにとって、ステージとは?
もちろん、緊張はします。開場前にモニターをみて、ここに出るのか?と思うことってよくあるし、ステージに出たときに、よく出てきたなと思うことも(笑)。でも、その緊張感がいい。自分だけがピアノの音を出して、それを人が聴いてくれるなんて、すごいことだと思います。

― 今後取り組みたい作品は?
せっかくドイツにいっているので、ブラームスの作品ですね。ドイツに行きたいと思ったのも、ブラームスと関係なくはないかもしれません。ドイツのもつ響きや雰囲気は、いいですね。

習いたい先生がいたという、それだけですね。マッティ・ラエカリオ先生とは、1年半前に出会ったのですが、先生の弾く「音」は、底から鳴るような大きな音で、まさに今僕が目指している音なんです。これだけ大きなホールで演奏する機会をいただいているので、ステージの上の傍鳴りだけでなく、ホールの奥の奥まで響かせることが、僕の今の課題なんです。どういうふうに音を飛ばすか、また、遠くでどういうふうに鳴っているかがわかるようになりたいと思っています。
 レッスンで「この曲は、来月日本で演奏させてもらえる曲なんです」とお伝えすると、開口一番、「おめでとう!」とおっしゃってくれるような先生です。「人前で弾くために、私たちは練習し勉強しているんだから、人前で弾けるチャンスがあるのは、ありがたいこと」と、日本を行ったり来たりしている僕を、すごいじゃないか、よかったね、という気持ちで、指導してくださっているんです。


― ピアノ以外では、外山さんの普段の生活は、どのような?

気分転換に、家をよく掃除するんですよ(笑)。嫌なことやイライラしているとき、床を全部拭くんです。すごくすっきりして、心まできれいになって、何か報われた気持ちになるんですね。

― 気持ちの切り替えが上手なんですね。

多分おそろしいくらいに、僕ってポジティブ思考なんです。たとえば、辛いことがあったから、その経験でまた一つ大人になれるかもしれない、とか、嫌なことがあったから、次は良いことがあるんじゃないか、とか。人生って全部なるようになると、僕は思っているので、悩んでも2日くらいですね。「まあいいか、これも自分のためになっているだろう」と。
高校や大学のときは、プロの演奏家になれるのか、なれたとしてもその後やっていけるのか、不安に思ったり、諦めようかなと思ったりした時期もありました。これから20年、30年たって、50歳、60歳になったときに、プロの演奏家として生きていくために、今何をしなければならないか、そういう意味の悩みや考えることもあります。でも、そう悩んだり考えたりすること、それすら楽しいことでもあるんです。こういう曲を演奏したい、とか、次に日本に帰ったときはこのコンチェルトをレパートリーにできていたらいいな、とか、プロとして成長していくために、やりたいことが尽きません。

― 掃除と、人前でのステージが、ポジティブでいることの源ですね。

人に喜んでもらって初めて成立することだと思うので、どんどん上を目指して自分を進化させて行きたいです。今すごく思うことは、「人前で弾かせていただくことは、自分を成長させる機会だ」ということ。だから、これだけの演奏会の機会を作っていただけることに、本当に感謝しています。

― ありがとうございました。次のコンチェルトと夏の全国ツアー、楽しみにしています。

写真:Yuji Hori/取材・文:霜鳥 美和

◆ 今後の予定

(C)満田 聡
2006年11月21日NECコミュニティーコンサート(東京芸術劇場) 現田茂夫氏指揮・日本フィルと、ショパン1番のコンチェルトを共演
〔コンチェルト〕
3/1(日) 東京芸術劇場 日本フィルハーモニー交響楽団
6/28(日)札幌コンサートホールワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
〔リサイタル〕
7/5(日) 山梨 清里高原ハイランドホテル音楽堂
7/12(日) 長野県民文化会館 中ホール
7/14(火) 北海道 奈井江町文化会館
7/18(土) 千葉県文化会館大ホール
7/21(火) 東京 サントリーホール
7/25(土) 大阪 ザ・シンフォニーホール
7/26(日) 宮崎 清武町文化会館半九ホール
8/1(土) 茨城 ノバホール
8/2(日) 愛知県芸術劇場コンサートホール
8/8(土) 島根県民会館
8/19(水) 新潟市音楽文化会館
8/22(土) 秋田 横手市民会館
8/26(水) 熊本県立劇場コンサートホール
8/28(金) 札幌コンサートホール
8/30(日) アクロス福岡シンフォニーホール
外山 啓介

とやまけいすけ◎1984年、札幌市生まれ。5才の時からピアノを始める。 1998年、AOCC海外演奏研修旅行のため渡欧。マリアン・リヴィッキー氏の推薦により、パリ・コルトーホールにて演奏会出演。2004年、第73回日本音楽コンクール第1位。併せて増沢賞、井口賞、野村賞、河合賞、聴衆賞受賞。2005年、ライプツィヒにてEURO MUSIC FESTIVAL&ACADEMY参加。その際、メンデルスゾーンハウスにて行なわれたNational and International Competition Winner's Concertに出演。2006年、東京藝術大学卒業。東京藝術大学大学院修士課程を経て、08年9月よりハノーファー音楽演劇大学に留学。2007年1月、エイベックス・クラシックスよりオールショパンのアルバム「HEROIC」でCDデビュー。2月より、サントリーホール(大ホール)を始め、全国各地で行なわれたデビューリサイタルは完売、新人としては異例のスケールでデビューをした。2008年7月、2ndアルバム「インプレッションズ (AVCL25350)」をリリースと同時に、全国13ヶ所でのリサイタル・ツアーを行ない、東京・サントリーホール、大阪・ザ・シンフォニーホールなどを完売させ、驚異的な動員力は各地で話題となった。2009年6月、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団とショパンのピアノ協奏曲を共演予定、7月-8月には、全国15ヶ所でリサイタル・ツアーを予定している。これまでに、東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団など、多くのオーケストラと共演している。植田克己、ガブリエル・タッキーノ、マッティ・ラエカリオの各氏に師事。繊細で色彩感豊かな独特の音色を持つ外山の演奏は、各方面から注目を浴びており、今後最も活躍が期待される若手ピアニストである。keisuke-toyama.com

Vol.9 INDEX


2009年1月31日発行
Stage+人(7)
アクセスパスの特別企画 ピティナ入賞者によるピアニスト・インタビュー!
クリスチャン・ツィメルマン氏
Stage+人(8)
13歳のピアニスト 一夜で2曲のコンチェルトを共演!
小林 愛実さん
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デビュー3年目 3度目の全国ツアーに挑む
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教育の未来を考える(4)
親が変われば、子どもも変わる~「親学」のすすめ
高橋 史朗先生×江崎 光世先生
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地域創造「音活」のステージ
コンサートとアウトリーチで、生の音楽の楽しさを
今野 尚美&ピアノデュオ ドゥオール(藤井隆史&白水芳枝)
・弾いたあなたへ、聴く特典!「ピティナ・アクセスパス」
春休みピアノトークコンサート祭り(2009/4/5)

ピティナ編集部
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