ピアノステージ

Vol.02-3 宮澤家の3つの教育イデー

2006/11/30

 和やかで笑いの絶えない宮澤家4人家族。ご両親は言わずと知れたピアノ教師、長男の弦さんは東大卒業後ベンチャー企業を立ち上げ、長女のむじかさんはピアニストとして世界各地で活躍中だ。全員が忙しく飛び回っており、家族が揃う機会は年に数回しかないという。そんな貴重な家族団らんの場にお邪魔し、子供の頃の思い出話を交えながら、『宮澤家の教育基本法』をうかがった。

教育イデー1
自立・自尊・自己責任型の人間に育てる=自分で考えさせる

宮沢家

 長男の弦さんが、《自分で考えるクセがついた》のは、小4の時、功行先生に算数の問題を解いてもらったことがきっかけだ。「翌日、帰宅すると『お父さん、全部間違ってたよ』って弦が言うんですよ。僕はうろたえずに、『だから人を頼らずに、自分で考えることが大切なんだ』と言ったんです」(功行先生)。「それからは何事も自分で考えました。考える努力をしていると伸びるし、確実に力になっていくんですね」(弦さん)。長女のむじかさんに対しても、聞きに来るまでピアノを教えずに自分で考えさせた。2カ月間レッスンに来なかった時でも、「主人はものすごく忍耐強く待っていましたね」と、陽子先生。「音楽家ですから自分の意見がありますが、それを押し付けたらこの子の考えが出て来ないですからね」(功行先生)。むじかさんは「必要以上のことは教えられませんでしたね。日本で全てを教え込まれていたら、留学先のパリで戸惑っていたかもしれません」と語る。

教育イデー2
時間、空間にしばられない

 宮澤家では「時間、空間にしばられない」ことを実践してきた。中高の頃、弦さんが「学校を休んで1日中数学をやりたい」と言った時も、功行先生は「学校へ行くよりもやりたいことがあるなら、それをやりなさい」と後押しした。また、「3年保育の幼稚園の時も、主人が『小学校へ行ったらあとは義務教育だし、それなら最後の1年は弦との時間をとりたい』って、幼稚園をやめさせたんですよ(笑)。それで、ノコギリや木を買ってきてボートを作ったり遊んだりして過ごしていましたね」(陽子先生)。そして、空間のほうは、いろいろなところを連れて歩いたそうだ。「《旅と試練》を与えましたね。目的をもった旅をすることはすごく勉強になりますから。試練は、ピティナのコンペティションを受けさせるとかね」と、功行先生。〈必要なこと〉〈必要なとき〉を親がしっかり見極め、行動する。普通に考えればなかなか難しいことだが、宮澤家ではごく自然なことのようだ。

教育イデー3
親は子供の最大のファンであれ

 「父は思ったことをストレートに表現、行動する人です。嘘がありません。母はとても愛情深いですね」と弦さん。一家団欒、食後はいつも会話がはずむという宮澤家。功行先生はこう語る。「励ますのも怒るのも、否定形ではだめなんです」。そして「うちのカミさん(陽子先生)は、二人の子供のファンなんです。失敗しても何をしてもファン! ファンというのは、いい意味でも悪い意味でも厳しい目を持っていますからね。もっとよくなって欲しい...というように否定をしない」。子供に伝えるたった一言、その言い方次第で、子供側の捉え方も印象もがらりと変わる。例えばこうだ。大学受験のとき、弦さんから「万が一浪人してしまったら...」という言葉が出てきた。するとすかさず功行先生は「いいねぇ、もう1年弦ちゃんと一緒に暮らせる」と一言。「その言葉を聞いたときは、嬉しかったですねぇ」と陽子先生も顔をほころばせていた。

宮澤弦さん
子供の頃の弦さん

小さい頃、お箸で指揮者の真似をしていたという弦さん。子供の頃の夢は、料理人になることだった。「ピアノもいい音していたし、料理も普通の味つけじゃない。何をやらせても面白かったですよ」(功行先生)「自分流の世界を確立していましたね」(陽子先生)。暗譜と緊張が苦手なことから、音楽の道は向いていないと自分で判断した。それでも「ステージでの経験は、現在の仕事でプレゼンするときなどに役立っています」とのこと。

宮澤むじかさん
子供の頃のむじかさん

陽子先生が参観日に出かけた時のこと。率先して手を挙げる他の子たちの中で、むじかさんは手を挙げない。「問題がわからないのかしら?って思っていたら、窓の外を見て何か考えているんです。母親はどうしても目先のことが気になってしまって...主人に相談したら、『見方を変えれば、人それぞれの能力があるっていうことだよ』と言われました」。

親として、ピアノ教師として
宮澤功行さん
宮澤陽子さん

<子は親の背中を見て育つ>が、宮澤家を見ているとよくわかる。功行先生はこれまでにピティナの指導者賞を25回も受賞されている。「なまけていたら戴けない賞なんです。音楽かとして真面目に積み重ねることの大切さを示せれば、と思ってきました」。宮澤先生ご夫妻は、親として、そしてピアノ教師として自らが真剣に人生に向き合うことを子供たちに伝えている。また、陽子先生は家族団らんの雰囲気作りを大切にされてきた。「家族団欒が大好きなので、テーブルセッティングやお花をアレンジしたり、キャンドルの灯りなどで、ホッとする空間を作り出すように心がけました。行事の折々には子供たちの好きな料理で、お客様や祖父母などを招いて一緒にお祝いしました」とのこと。子育ての秘訣がここにも垣間見える。

Vol.2 INDEX


2006年11月30日発行
Stage+人(すてーじん)(2)
様々なホールやピアノとの出会いがインスピレーションを生む
関本 昌平さん
ステージが育てる不思議な力(2)
教室の日常に仕掛ける大小さまざまなゴール
ジェーン・バスティン先生
宮澤家の3つの教育イデー
目指すのは「時間・空間を超えた教育」
宮澤功行先生&陽子先生
ピアノのある生活(2)
忙しいほうが、自分自身もピアノも充実しますね
太田健介さん
目指せ、ステージの達人(2)
Q&A~「本番までに準備できることは?」
杉谷昭子先生
ピアノ教養クイズ(1)
「ピアノの歴史と構造」編
岳本恭治さん

ピティナ編集部
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