名曲喫茶モンポウ

第12回 ボルトキエヴィッチを味わう

2009/04/13
第12回ボルトキエヴィッチを味わう
 いらっしゃいませ。カフェ・モンポウにようこそ。
 今日は、ロシア(現ウクライナ)の作曲家、セルゲイ・ボルトキエヴィッチ(1877-1952)の甘くロマンティックな佳曲をご紹介します。

 セルゲイ・ボルトキエヴィッチをご存じですか?主にウィーンで活躍したロシアの作曲家で、ラフマニノフスクリャービンメトネルらと同世代のロシアのコンポーザー=ピアニストの1人に数えられます。
 ボルトキエヴィッチの音楽は、ラフマニノフを彷彿とさせるような濃厚な歌心にあふれたロマンティックなものです。時に、耳触りがよく癖のない音楽作りが微温的と受け取られ、ラフマニノフの亜流のように蔑まれてきましたが、その胸をきゅんとさせるような美しいメロディーは、今なお私たちの心を捉えるだけの魅力を備えています。
 ボルトキエヴィッチはペテルブルクでリャードフに師事したのち、ドイツのライプツィヒ音楽院に留学、その後もドイツに留まってベルリンを拠点に活躍し、現地の音楽院で教鞭もとっていました。そんな中、1914年、第一次世界大戦の勃発が彼の生活を一変させます。敵国ロシア人であったために自宅に軟禁された彼は、ドイツを離れることを余儀なくされ、ロシアに帰国することになります。
 ロシアでは、大戦後、ロシア革命が起き、新しいソ連共産党政権に土地を略奪されてしまいます。1919年、彼はコンスタンティノープル(現イスタンブール)に移住しますが、革命でルーブルが価値を失ったため、このときの所持金はわずか20ドルだったそうです。  コンスタンティノープルではユーゴスラヴィア大使と親しくなり、大使館内の音楽団体の指導を任されるなど平穏な日々を送っていましたが、彼は再びヨーロッパで作曲活動をしたいと切望していました。1922年、大使の協力でユーゴスラヴィアへのヴィザを獲得した彼は、ベオグラード、ソフィア経由でウィーンに移住します。
 彼は、1926年にウィーン市民権を得て、1952年に亡くなるまでウィーンで過ごし、多くの作品を残しました。ラヴェルプロコフィエフらと同様、戦争で右手を失った名ピアニスト、パウル・ヴィットゲンシュタインのために、左手のためのピアノ協奏曲も書いています。1947年には、ウィーンにボルトキエヴィッチ協会も設立されています。
 死後は長らく忘れられた存在でしたが、近年、ウクライナ国内では、チェルニーヒフ交響楽団が積極的に彼の作品を上演するなどし、再評価の機運が高まっているようです。また、フランスの名ピアニスト、シプリアン・カツァリスがCDをリリースするなど積極的に取り上げたことでも、一部のファンに広く知られるようになりました。

 今回ご紹介させていただくのは、前奏曲 Op.33-7と、コンソレーション Op.17-2です。作品として見ると物足りなさを感じる向きもあろうかと思いますが、ここでは、あまり細かいことを考えずに、その甘美なメロディーの世界に浸っていただければ幸いです。皆さんのレパートリーにも加えてみてはいかがでしょうか?

前奏曲 Op.33-7 【 ♪ 試聴する

コンソレーション Op.17-2 【 ♪ 試聴する

(2009年4月6日 ユーロピアノ東京ショールームにて録音 [ベヒシュタイン使用])
演奏・ご案内 ―― カフェ・マスター:内藤 晃
 当カフェのマスター、内藤 晃による公開レッスン&レクチャー「ピアノでオーケストラを」(好評につき増設)が4月18日(土)14:00~、ユーロピアノ東京ショールームにて開催されます。(→ 詳細
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内藤 晃(ないとうあきら)

 栄光学園高校、東京外国語大学卒業。桐朋学園大学指揮教室、ヤルヴィ・アカデミー(エストニア)にて指揮の研鑽を積む。チャリティー、施設慰問等の演奏活動に長年意欲的に取り組み、2006年度、(財)ソロプチミスト日本財団より社会ボランティア賞受賞。外語大在学中、CD「Primavera」(2008年3月)でピアニストとしてデビュー、「レコード芸術」5月号誌上にて特選盤に選出され、「作品の内面と一体化した純粋な表現は聴き手を惹きつけてやまない」(那須田務氏)などと高く評価される。

 現在、ピアノ、指揮、作曲、執筆の各方面で活躍。ピアニストとして、ソロ、アンサンブルの両面で幅広く活動するほか、監訳書にチャールズ・ローゼン著「ベートーヴェンを"読む"―32のピアノソナタ」(道出版)、校訂楽譜に「ヤナーチェク:ピアノ作品集1・2」「シューベルト=リスト:12の歌、水車屋の歌」(ヤマハミュージックメディア)がある。谷口未央監督による映画「仇討ち」(田原拓主演・ソーシャルシネマフェスティバル2012優秀賞受賞作品)、「矢田川のバッハ」(冨樫真主演・ショートストーリーなごや2012入賞作品)の作曲、音楽監督を務める。2013年、楽譜CDセット「マリンバ・フェイバリッツ」(野口道子編著・共同音楽出版社)のピアノ演奏を務め、伴奏譜の編曲にも参画する。横浜市栄区民文化センターリリス・レジデンス・アーティスト。(社)全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)正会員。

 これまでにピアノを城田英子、広瀬宣行、川上昌裕、加藤一郎、デイヴィッド・コレヴァー、ヴィクトル・トイフルマイヤーの各氏に、指揮を紙谷一衛、レオニード・グリンの両氏に、音楽理論を秋山徹也氏に、古楽を渡邊順生氏に、ジャズコンポジションを熱田公紀氏に師事。

ホームページ http://www.akira-naito.com/

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