名曲喫茶モンポウ

第11回 チャイコフスキーの小品を味わう

2009/03/06
第10回チャイコフスキーの小品を味わう
 いらっしゃいませ。カフェ・モンポウにようこそ。
 今日は、チャイコフスキー(1840-1893,ロシア)の、あまり知られていない、美しい小品をご紹介します。
チャイコフスキー
チャイコフスキー
(1840-1893,ロシア)

 チャイコフスキーは、「四季」をはじめ、数多くのピアノ曲を残しましたが、その人気はいまひとつで、「四季」「ドゥムカ」など一部を除いて、ほとんど演奏されることがありません。
 それは、チャイコフスキーの音楽が、概して、管弦楽のひびきで発想されているからです。例えば、有名な「四季」も、ピアノ曲としては演奏効果を欠いた地味な作品ですが、オーケストレーションを施すとしたらどうなるか...を意識しながらタッチを使い分けて演奏すると、途端に、みずみずしい息吹とともに作品が蘇るのです。

 今日は、そんなチャイコフスキーの愛すべき小品を2曲ご紹介します。
 「夜想曲」は、珍しくピアニスティックな美感をも備えており、澄んだ調べが切々と紡がれていく逸品です。最小限の音符による造りが、ピュアな透明感を生み出しています。

「夜想曲」 【 ♪ 試聴する

中間部はあたたかな弦楽合奏になります。

挿入されるスタッカートは、pizzicatoを意識して書かれたものでしょうか。



 「瞑想曲」は、同じ調性の、交響曲第5番第2楽章を彷彿とさせる音楽で、甘美な歌心にあふれています。

「瞑想曲」 【 ♪ 試聴する
「瞑想曲」の冒頭

交響曲第5番第2楽章の冒頭

 特に両者の再現部(交響曲では、ヴァイオリンの旋律にオーボエのオブリガートが重なります)は酷似していると言えます。その意味で、この曲にアプローチするうえで、交響曲第5番のスコアを参照することはきわめて有益だと思います。

「瞑想曲」の再現部


交響曲第5番第2楽章の再現部

 この作品はきわめてポリフォニックに書かれており、各声部に細かく指示された休符や音価の違いなどからも、管弦楽で着想されたことは明らかです。感傷に流されず、悠然としたテンポに乗せて、管楽器の端正な音色、弦楽器の伸びやかでふくらみのある音色を意識的に使い分けながら立体的に弾くと、作曲者の意図に近づけるのではないでしょうか。

(2009年3月2日 ユーロピアノ東京ショールームにて録音 [ベヒシュタイン使用])
演奏・ご案内 ―― カフェ・マスター:内藤 晃
 当カフェのマスター、内藤 晃による公開レッスン&レクチャー「ピアノでオーケストラを」が3月28日(土)14:00~、ユーロピアノ東京ショールームにて開催されます。(→ 詳細
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内藤 晃(ないとうあきら)

 栄光学園高校、東京外国語大学卒業。桐朋学園大学指揮教室、ヤルヴィ・アカデミー(エストニア)にて指揮の研鑽を積む。チャリティー、施設慰問等の演奏活動に長年意欲的に取り組み、2006年度、(財)ソロプチミスト日本財団より社会ボランティア賞受賞。外語大在学中、CD「Primavera」(2008年3月)でピアニストとしてデビュー、「レコード芸術」5月号誌上にて特選盤に選出され、「作品の内面と一体化した純粋な表現は聴き手を惹きつけてやまない」(那須田務氏)などと高く評価される。

 現在、ピアノ、指揮、作曲、執筆の各方面で活躍。ピアニストとして、ソロ、アンサンブルの両面で幅広く活動するほか、監訳書にチャールズ・ローゼン著「ベートーヴェンを"読む"―32のピアノソナタ」(道出版)、校訂楽譜に「ヤナーチェク:ピアノ作品集1・2」「シューベルト=リスト:12の歌、水車屋の歌」(ヤマハミュージックメディア)がある。谷口未央監督による映画「仇討ち」(田原拓主演・ソーシャルシネマフェスティバル2012優秀賞受賞作品)、「矢田川のバッハ」(冨樫真主演・ショートストーリーなごや2012入賞作品)の作曲、音楽監督を務める。2013年、楽譜CDセット「マリンバ・フェイバリッツ」(野口道子編著・共同音楽出版社)のピアノ演奏を務め、伴奏譜の編曲にも参画する。横浜市栄区民文化センターリリス・レジデンス・アーティスト。(社)全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)正会員。

 これまでにピアノを城田英子、広瀬宣行、川上昌裕、加藤一郎、デイヴィッド・コレヴァー、ヴィクトル・トイフルマイヤーの各氏に、指揮を紙谷一衛、レオニード・グリンの両氏に、音楽理論を秋山徹也氏に、古楽を渡邊順生氏に、ジャズコンポジションを熱田公紀氏に師事。

ホームページ http://www.akira-naito.com/

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