海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

10代の音楽祭体験(4)室内楽体験&仲間作り―カーティス音楽院夏季スクール

2012/08/19

音楽祭×大学が提案する10代向けプログラム!

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カーティス音楽院正面

米国の名門カーティス音楽院では今年初めて、高校生を対象にした夏季音楽プログラムが開催された(The Curtis Institute High School Summer Music Program)。期間は7月8日から28日の3週間。今回はそのプログラム・コーディネーターであるエイミー・ヤン先生(Amy Yang)にお話を伺った。ヤン先生も学生時代には様々なフェスティバルに参加していたそうだが、その経験はどう生かされているのだろうか。

―この夏季プログラムは今年初めての試みということですが、プログラムはどのように組まれていますか。

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プログラムコーディネーターで、明るいお姉さん的存在のエイミー・ヤン先生。

音楽が好きな高校生の皆さんに、3週間で何をどこまで体験してもらうのか、音楽のどんな面に触れてもらうのか、その観点から、1週間、1日、1時間ずつ区切ってプログラムを考えました。大規模と小規模なアンサンブル(ピアニストはピアノデュオ)、ソロのレッスンがあります。室内楽のグループは、講師全員でミーティングをして決めました。1週目に取り組む曲を提示し、室内楽の組み合わせを決めます。生徒には毎週1曲ずつ課題を出していますが、2週目以降も同じ曲に取り組む人もいれば、新しい曲に挑戦する子もいます。

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コンサートが行われたレンフェストホール。この建物の上階は立派な学生寮。

―第2週目土曜日に行われた室内楽コンサートで、アレンスキーのピアノ・トリオを演奏したピアノの学生さん(14歳)は今週月曜日に楽譜を渡されて、金曜日に本番を迎えたそうですが、このように早く学ぶことも課題の一つでしょうか?

そうですね。音楽院の進度がどのようなものかを実感してもらうのも一つの案です。今回の受講生の多くはゆったりとしたペースで勉強する人が多いのですが、できる子には少し速いペースで取り組ませています。ジェレミー君はとても学ぶのが早いですね。もちろん、1曲にもっと時間をかけて勉強することもできます。

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セオリーの授業。(c) Curtis Institute of Music

―セオリーの授業もありますね。

カーティス音楽院指揮科学生のケンショウ・ワタナベ先生が、週2回(理論・指揮)担当しています。

―自由時間にはどのようなことをしているのでしょうか。

楽器から離れてリラックスする時間も必要です。今夜はマンセンターで行われるコンサートに行きます。明日はニュージャージのビーチに行きますし、映画、ミニゴルフ・・色々あります。今回パートナーシップを組んでいるジュリアン・クリンスキー・キャンプ(Julian Krinsky Camps and Programs)が課外活動をアレンジしてくれています。レジデンス学生とデイ学生がいまして、レジデンスはこの学生寮内に住み、デイ学生はこの付近に滞在しています。

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オーケストラのレッスン風景。(c) Curtis Institute of Music

―今回は25名が参加されているのですね。米国以外からの参加者もいますか?

米国内の学生が多いですが、カナダ、東京、香港から1名ずつ参加しています。15-18歳の学生が対象ですが、14歳が3名、10歳1名、19歳1名います。

エイミー先生は学生時代、やはり彼らのように色々なアカデミーや音楽祭に参加していましたか?

そうですね。毎夏のように参加していたように思います。自分のことを振り返って考えると、情熱や若さというのはとてもパワフルなものだと思います。今回参加した学生さんのレベルは様々ですが、皆さんに共通しているのは音楽が好きであること。音楽が好きで好きでたまらないこと。それが一番大事ですのでここで様々な音楽体験をしてほしいなと思います。


●ジェレミー君(カナダ・カルガリー出身・14歳)&父親

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ジェレミー君(14歳)とお父様。音楽以外では、歴史、社会科学、数学等、どの教科も好きとのこと。

―この夏季プログラムについていつ頃知りましたか?

お父様:知ったのは数か月前です。もともとカーティス音楽院に興味があり、妻がネットを調べているうちに偶然見つけました。そこで思い切って飛び込んでみたわけです。彼はまだ室内楽をしたことがなかったので、良い体験になっています。

―色々な仲間ができたようですね。

お父様:ええ、ここに参加させた目的の一つは、室内楽を勉強することと、同世代の音楽仲間と知り合い、ソーシャルネットワークを広げることにありましたから本当に良い経験になっています。ピアノ(9名参加)以外にも、ヴァイオリン、チェロ、フルート、サックス、ハープ、ホルン、ファゴット等がいます。

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音楽院前のリッテンハウス広場。

―ジェレミー君にお伺いしますが、ピアノで一番楽しいと感じる瞬間は?

ジェレミー君:素晴らしい音を創り上げることと、1曲1曲を仕上げていくことに面白さを感じます。

―この3週間で取り組んだ曲を教えて頂けますか?

ジェレミー君:モーツァルトの4手のためのピアノソナタ、メンデルスゾーンのアンダンテと変奏、シューベルトのヴァイオリンソナタ、ショパンの協奏曲に取り組んでいます。先日ショパンの協奏曲第2番(1楽章)をコンクールで弾いて、3人の入賞者の中に選んで頂きました。

―アレンスキーのピアノトリオは4日ほどで仕上げたそうですが、この短期間でどのように取り組みましたか。

ジェレミー君:楽節毎にどんな性格なのかを考え、どういう音がいいかを考えてそれを似たような箇所にも応用するようにしています。曲の中にはディナーミク、コントラスト、音の構造が似ている楽節がありますから。

―この3週間で多くのものに触発されたと思います。カナダへ帰ったらどのように今後の勉強に繋げていきたいですか。

室内楽は素晴らしい経験でした。それは今後もぜひ続けたいと思います。

―これからも頑張って下さいね。


<お問い合わせ先>

Office of Summer Programs
Curtis Institute of Music, 1726 Locust Street, Philadelphia PA 19103
(215) 717-3192
summer.programs@curtis.edu
http://summerprograms.curtis.edu/krinsky 


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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