ルイのピアノ生活

第81回 空想力/モーツァルト 幻想曲 kv.397 d-moll

2009/03/27
♪ 演奏
モーツァルト 幻想曲 kv.397 d-moll  動画 動画:(6,42s)
 

今回の曲はモーツァルトのファンタジー(幻想曲)です。英語で"fantasy"は「空想力」という意味があり、音楽で言う「Fantasie」はとても自由な様式で幻想的な雰囲気の曲、ということになります。作曲家にとってもファンタジーを作曲するにはたく さんの空想力が必要だと思いますが、同時に私達弾く側にも空想力を求めている様式でもあります。
・・・今日は少し空想力について書きたいと思います。

私がまだ学生の頃、初めて教えた生徒はイスラエル人の子どもでした。彼はたいへん空想力に富んだ生徒で、思い出すと今でも私の顔がほころびます。彼が初めてレッ スンに来た時にピアノの前に座る代わりに、なんと「僕が弾く前に先ず先生の演奏を1度聴きたいです。」とはっきりと言いました。彼はとてもチビでまだ小学2年生。 なんて生意気な子だっ!!(汗)と私は思いました。でも、僕は頑張って彼に1曲を (半分このやろ~と思いつつ、半分緊張しながら!)弾いてあげると、「まあ、いいでしょう。」と言われました。(喜ぶべきでしょうか?)

その後、彼が私に1曲を弾いてくれました。演奏はドビュッシーの「小さな黒人」でしたが、一言で言うと空想力にあふれた演奏でした!そのあとに彼と演奏について色々話したら、「これは恐竜が出てくるところ・・・ここでワニの登場です」。ピアノは彼にとって別世界に移動できる魔法の楽器でした。彼がピアノを弾き出すと、まるでこの世界にはいないような感じがしました。

子どもたちはファンタジーを持っていますね。何年か前に教えていた女の子がクレメンティのソナチネを弾いていましたがあまり楽しそうでなかったのでレッスンで2人で曲に合わせてお話を作りました。最初のフレーズはどんな感じがするの?と聞いてもなかなか返事が出てこなかったが、少しヒントを上げたら、どんどん彼女からアイデアが出てきました!ここは犬が庭で遊んでいる・・・ここはワンちゃん外へ逃げ出した・・・こうしてソナチネは30分で全く違った演奏になったのでした。

楽譜に色々な強弱やアーティキュレーションが書いてありますが、そこにとらわれず、彼女が自分が好きな演奏を作りました。演奏の外側=「形」を聴くと決して正しいとは言えない演奏でしたが、音楽は彼女にとっての「真実」を語っていました。彼女が自分なりに1音1音の意味を感じて自分を信じて心から素直にピアノを弾いていました。

ある試験でのことですが、ひとりの生徒がすごい空想力を持って弾いていました。演奏の「外側」を聴くと少し変わっているように思えるかも知れませんが、私は純粋に感動しました。演奏で自分の感じた音楽を偽らずにハートからストレートに弾いていました。弾き終わっても「もっと聴きたい!」という印象が残るような、とても芸術的な演奏でした。しかし残念ながら彼女が持っている芸術性は認められなかったようで採点はあまりに低いものでした。

採点を気にしていたかはわかりませんが、彼女は形から入ろうとしないで、音楽の意味を探していました。その結果、少し変わった(自分の個性がかなり強い)演奏になったが、勉強の方向性としてはとても立派な事だと思います。一番残念なのは周りがそれを認めてくれなくて、彼女が結局ピアノを中断してしまったことでしょう。

心が繊細な人は自分を偽ることが苦手です。音楽でも自分が感じていない事を表現する事がなかなかできず、どこか少し不器用な所もあるかも知れません。でも繊細なので、周りが自分の心を認めてくれないとすごく傷つきます。それで、実際ピアノを断念してしまうケースも多いと思います。

空想力は人間にとって貴重な宝物だと思います。空想力を育てるより、空想力をつぶさない事が大事です。そして、その為には相手の考え方がたとえ自分と違っても、その考え方を先ず認める・受け入れる気持ちが必要です。

音楽では保守的なところが多すぎるくらいです。
自分もピアノを教える時、保守的で少し頑固になってしまう時があり、生徒のFANTASYをつぶさないように教えるのは難しいなと感じます。でも音楽を弾く者にとって、FANTASYを持つことは本当は何よりも大切な事だと信じています。

それでは、また!

ルイ・レーリンク

- レッスンビデオ -
僕が弾く時に考えている事を少しでもビデオで皆にお伝えできればという思いから、 今回の曲は演奏の録画・録音と別に「レッスンビデオ」を作りました。 見ていただけると嬉しく思います。
レッスンビデオバナー

ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

【GoogleAdsense】
ホーム > ルイのピアノ生活 > 連載> 第81回 空想力/モ...