ルイのピアノ生活

第71回 ありがとう!ヌキちゃん/スクリャービン:エチュード 作品2-1

2008/09/12
♪ 演奏
スクリャービン:エチュード 作品2-1  動画 動画:(3,51s)
 

8月にうちの猫「ヌキちゃん」が突然亡くなりました。ヌキちゃんはよくピアノの上にジャンプして僕の練習を聴いたりしていましたから音楽が大好きだったのでしょう。 私も練習しながらピアノの上で寝ているヌキちゃんを見るのは大好きでした。でも時々妻と連弾をし始めるとヌキちゃんは家のどこからでもすぐにやってきて、逆三角形のような口で「ニャンニャ~ン!」と鳴いて抗議します。「ピアノをやめて遊んで~!」自分のお気に入りのネズミのおもちゃのところに誘導して行って、ネズミの前に倒れてゴロゴロして私達を遊びに誘います。「はいはい!ま~今日の連弾は無理だ。ヌキと遊ぼう・・」ヌキちゃんは必ず中心に居ました。小さな猫ちゃんなのに、なんという存在感だったのでしょう。居なくなってから家は灯が消えたように静かになってしまいました。急死だったので、最初は信じられずに、嘘、嘘!と泣きながら叫び続けました。いつかは別れが来ると分かっていましたが、まだ若いし(9才)、あと7年、10年ぐらい生きてくれるといいなぁと思っていましたが・・・。ヌキちゃんは私達の宝物、子どものような存在でした。その一番大切なものを亡くし悲しくてたまらないです。涙が枯れるほどたくさん泣きました。

死んでしまったヌキちゃんをベッドの上に乗せて、たくさん撫でたり、匂いを嗅いだり、ピアノを弾いてあげたり、泣いたり、色々思い出したりしながら、24時間一緒に過ごしました。ヌキちゃんのために・・とショパン「別れの曲」を弾いてあげていると、音楽が悲しい自分の心にすうっと入ってきて、優しくより沿って慰めてくれるように感じました。悲しみよりも楽しかった事、幸せだった事を思い出させてくれました。今こんなに悲しいのは幸せだったからなんだね・・ありがとうヌキちゃ ん。・・・すると不思議なことに眠っていたようなヌキちゃんの顔が笑顔になりました。

翌朝、家の近くにある深大寺の動物霊園でお葬式をしました。大好きなネズミのおもちゃと私達からの手紙や写真と一緒にヌキちゃんは天国に行きました。

私はその日地方でコンサートがありました。辛さで食事もノドを通らず歩くのもやっとの状態で新幹線に乗り込み、車内で何度も何度も込み上げてくる涙をこらえるだけで何も出来ず、考えられずにいました。今考えれば演奏できるの?という状態です。ところが会場に着くと、不思議なことがありました。コンサートのお客さん用のプログラムにヌキちゃんの写真が印刷されているではありませんか。今までこんなことは初めてです。本番前にそのプログラムを見つけて「ヌキちゃんがコンサートに一緒に来てくれた。側に居てくれるんだ!」と感じました。お客さんはヌキちゃんの事を知るはずもないのですが、中には涙を流していた人たちがたくさんいました。最後のアンコール曲でヌキちゃんがサ~ッと会場の外へ出て行ってしまったように感じました。

心はまだ悲しみでいっぱいです。膝の上で抱っこしたい。お腹のふわふわの毛に触れ たい。あと一度、ヌキちゃんが毛繕いしているところを遠くから眺めるだけでもいい。それが叶わないことはとても辛いです。心の真中を占めていた存在を突然失くすことはとても難しい事です。船から灯台が見えなくなって、どの方向に行けば良いかわからないような感覚です。これからヌキ無しでどう生きればよいかとても不安です。でも友人や生徒からの優しい言葉に慰められ励まされ、少しづつですが不思議な事に悲しみの中から暖かい気持ちが出てきたように感じています。なぜならヌキちゃんは私達にたくさん幸せを与えてくれかたから。そして形を変えて、まだ居るように感じられるからです。心の中に生き続けているようです。ヌキちゃんの優しさをずっと感じ続けています。ポカポカ暖かい気持ちです。

前にも増して音楽をたくさん聴くようになりました。公園や海にもよく行きます。逆にテレビや映画などなかなか見られないです。現実と触れたくない感じがします。音楽や自然は人間の心を慰めてくれる力があることに改めて気づいて、ありがたくて、感謝の気持ちでまた涙が出てきます。こんなに涙ばっかりしている僕をヌキちゃんはきっと「しょうがないなー」とどこかで優しく見守ってくれているのでしょうね。
ヌキちゃん、幸せな時間をありがとう。これからもよろしく。

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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