海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

エリザベート王妃国際コンクール(6)最終結果・コメント&ファイナル5・6日目

2012/05/27
エリザベート王妃国際コンクール(4)
ファイナル初日・2日目
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約1か月にわたるエリザベート王妃国際コンクール・ヴァイオリン部門は、5月26日をもって幕を閉じました。ファイナル最終日の終演後に、アリエ・ヴァン・リスベス審査員長から結果が発表され、素晴らしいパガニーニの協奏曲を演奏した成田達輝さんが第2位に入賞しました!ここに、成田達輝さん、酒井健治さん、ブリュッセル在住ヴァイオリニスト堀米ゆず子さん(1980年エリザベート王妃優勝)のコメントをご紹介します。

1位 アンドレイ・バラーノフ(ロシア・26才)
2位 成田達輝(日本・20歳)
3位 シン・ヒュンス(韓国・24歳)
4位 エスター・ヨー(韓国・17歳)
5位 ツェン・ユーチェン(台湾・17歳)
6位 アルティオム・シシュコフ(ベラルーシ・28歳)


第2位入賞した成田達輝さんのコメント

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―第2位入賞、おめでとうございます!今の率直な感想をお願いします。

ものすごく長いコンクールでした。1か月がやっと終わったという感じです。

―パガニーニ協奏曲は本当に素晴らしかったです。聴衆からもスタンディングオベーションが出ましたね。

自分がやりたいことは会場で全て出せたことが嬉しかったです。

―ブラームスソナタとパガニーニ協奏曲を組み合わせた理由は?

直感ですね。コンクールでは自分にとって一番よい演奏をしたい、それで自分がよく弾いてよく知っている曲を選びました。

―新曲についてのご感想を一言お願いします。

素晴らしい曲ですね。初めて楽譜を見たときから、「こんなに丁寧に書ける作曲家は日本人しかいないのでは?」と思っていました。でもまさかと思ってしばらく頭の片隅に置いてあったのですが、Chapelle Musicaleの3日目にご本人にお会いした時には驚きました。

―コンクールに限らず、次に目指しているところは?

現代曲の道もあるかなと思います。すごく好きなんです。(いずれ現代曲ばかり集めたCDも考えていますか?)それもいいですね。僕はいつも面白いことをしたいと思っています。

―ありがとうございました。これからますますのご活躍をお祈りしています!

酒井健治さんのコメント新曲

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photo:Yoko Tsunekawa

成田さんはミーティングの際にいくつか質問を受けたのですが、その質問が全て的を射ていました。彼はヴァイオリンのスコアだけでなく、オーケストラのスコアもアナリーゼしていて、それをヴァイオリンのスコアにきっちり書き込んでいました。またG音の聴かせどころも素晴らしかったですね。もともと彼はフランスで勉強されていることもあって、フランスの作曲家がエクリチュール(書法)をいかに大事にするかを分かっていらっしゃることもあり、自分の書いた楽譜を尊重して演奏して下さいました。演奏は12人の個性がそれぞれはっきり出ていて、これはお国柄といってもいかもしれませんね。
※酒井さんはファイナル最終日に審査員長から紹介され、会場から温かい拍手が贈られました。


堀米ゆず子さんのコメント

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photo:Yoko Tsunekawa

(ファイナル演奏後)成田さんは一次は少し粗かったですが、セミファイナルは素晴らしかったですね。歌があるし、安心して聴いていられました。楽器のことを気にしていましたが、今まで聴いた中で一番安定していました。弘法筆を選ばず、ですね。ブラームスのソナタ第3番もテンポが良かったです。またパガニーニ協奏曲をあれだけ自由自在に演奏できること自体も素晴らしいし、それだけでなくよく考えていますね。突っ走らないし、ちょっと呼吸する、ちょっとフレーズを歌う、ちょっと息を抜くといったことが本当にお上手で、もう脱帽です。

(結果発表後)私は1位と思っていましたが僅差での2位だったのでしょう。これからさらに馬力が出るのではないでしょうか。あのパガニーニの協奏曲はとても素晴らしかったですし、それを土台にこれから発展して頂ければと思います。
※堀米ゆず子さんは7月ブリュッセル郊外の城でコンサート&マスタークラスを開催予定


熱狂のうちに幕を閉じたエリザベート王妃国際コンクール。若い才能が激しく火花を散らす中で、名演も生まれました。すでに最終結果は出ましたが、ファイナル5・6日目のリポートをお送りします。

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photo:Yoko Tsunekawa

セミファイナルで伸びやかな才能を見せた17歳の新鋭ツェン・ユーチェン(Tseng Yu-Chien)は、ラヴェルのソナタとブラームスの協奏曲という組み合わせで臨んだ。大ホールに移って音量という点では少し伸び悩んだかもしれないが、それでも多彩な音質と音色の希求、語りかけるような旋律の運び、そして間の使い方には天性のセンスがある。特にブラームス協奏曲のカデンツァでは、ロマンチシズム溢れる旋律を静かに詩を語るように音を紡いでいき、フレーズとフレーズの合間に生まれる一瞬の"間"が、独特のイントネーションを生み出していく。緊張感とエネルギーに満ちた間、あるいはその緊張が一瞬和らぐ間は、それが何らかの意味を持つ場合に人を惹きつける。ラヴェルのソナタは清廉な印象だが、ピチカート一つにも色々な表情を試みる。いずれ洒脱さが出てくると面白いだろう。新曲は各セクションの性格をよく捉えた演奏だった。17歳とは思えぬ才能に会場からスタンディングオベーションが出た。(使用楽器:Guarneri 1733、ピアノ:Daniel Blumenthal)

セミファイナルで雄弁さを見せたアルティオム・シシュコフ(Artiom Shishukov)。ブラームスのソナタ3番は第4楽章までの流れを見据えた上での、何かを予感させるような第1楽章の慎重な出だし。第2楽章は自己と対話するような内省的な音、第3楽章はピアノとの対話が美しくピチカートにも哀愁が漂う。そして抑えてきたエネルギーを放出するように第4楽章でクライマックスを演出した。新曲は冒頭と結尾に特別な音色を配して一貫性があるが、曲が求めるメタモルフォースな音の動きを演出するにはもう少し音の伸びやかさがあれば良かっただろう。チャイコフスキー協奏曲も同じく音程の安定感と音の柔らかい伸びが欲しかったが、繊細な心の動きやふるえが感じられる表現は秀逸。(使用楽器:Guarneri 1673、ピアノ:Dasha Moroz)

ファイナルでも手堅い選曲をしたエスター・ヨー(Esther Yoo)。メンデルスゾーンのソナタもベートーヴェンの協奏曲もきっちりしたフレージングで、テンポも乱れることなく、場馴れしたステージだった。ファイナルの場において普段通りの演奏ができるということも能力の一つだと思う。音が美しく伸びてくるので、オーケストラに埋もれることなく響いてくる。セミファイナルも含めて技術的によく弾けており、音色の作り方も良いので、あとは自分の呼吸で音楽を捉え、色々な可能性を試してみる中で、自然に個性が生まれてくるだろうと思った。(使用楽器:Stradivari 'Prince Obolensky' 1704、ピアノ:Daniel Blumenthal)

ぱつっと切りそろえた前髪が可愛いナンシー・ゾウ(Nancy Zhou)は、プロコフィエフのソナタ第1番という果敢な選曲でファイナルに臨んだ。伸びやかで明朗な音や尖った音など、音のバリエーションがあるのは魅力である。それがソナタ第2楽章や新曲等で生かされていた。シベリウス協奏曲は曲の雄大さを十分感じ取っている。音楽を美しくなぞるのも能力であり、さらに自分の演奏をピアニストやオーケストラによって柔軟に調和させる余裕ができれば、音楽が有機的に発展していくだろうと思った。利発そうな方なので、音楽から何かを見出しながら豊かな音を生かしてほしいと思う。(使用楽器:Antonius & Hieronymus Amati 1607、ピアノ:Jonas Vitaud)

リポート:菅野恵理子(Report: Eriko Sugano)


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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