会員・会友レポート

阪田知樹さん×梅村知世さん・新旧グランプリ対談インタビュー

2011/08/23

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阪田知樹さん(2011年度)×梅村知世さん(2010年度) グランプリまでの道を語る!

8月22日(月)第35回ピティナ・ピアノコンペティション表彰式を終えた直後、今年度グランプリの栄冠に輝いた阪田知樹さん(17)と、昨年度グランプリの梅村知世さん(23)をお迎えし、新旧グランプリ対談インタビューを行いました。


セミファイナル・ファイナルの演奏を振り返って

―この度はグランプリ獲得おめでとうございます!まずは今の感想からお願いします。

阪田知樹さん(以下阪田さん):率直に嬉しいです!賞を取れたことも嬉しいのですが、昨日のコンチェルトの演奏を楽しめたという達成感も大きかったです。私はこれまでコンチェルトを弾いたことがなかったのですが、特級でファイナルに残ることによってその機会を初めて得られたこと、また指揮者の岩村力先生と東京シティフィルハーモニック管弦楽団の団員の皆さんが親切で温かく、伸び伸びと演奏させて頂きました。初めての経験として、良いスタートを切れたかなと思います。

―とても初めてとは思えないコンチェルト演奏でした。セミファイナルのソロ演奏は、ご自分で振り返っていかがでしたか?

阪田さん:今回は、全て自分が好きな曲を組み合わせました。プログラムの形としてうまくいったと思うのですが、4名のファイナリストに選ばれてコンチェルトを弾く機会を頂きたいという気持ちが強すぎて、あまり自分をフリーに出した演奏になれず、それに関しては悔しかったです。また気温が35度を超えた暑い日だったので、暑さで集中力をうまく維持できず、結果的に少し不満が残った部分もあります。

―とはいえ、武満徹『雨の樹・素描2』やラヴェル『夜のガスパール』のスカルボ等、素晴らしかったですね。ここは曲間をほとんど空けずに入っていましたが、どのような意図があったのでしょうか。

阪田さん:武満はお気に入りの1曲で、邦人課題(今年度は自由課題)はこの曲でと決めていました。また曲間をあまり置かずに入ることも、最初から考えていました。武満は神秘的かつ幽玄な世界観で、続くスカルボは怪しげな感じと悪魔的な恐ろしさに通じるものがあります。これは個人的な考えですが、武満本人もドビュッシーやメシアンに影響を受けたと言っていますように、彼の作品にはフランス音楽との近さを感じます。それを聴いている方々にも共有して頂きかったのです。

20110822_ceremony.jpg ―ベートーヴェンのソナタ(第15番「田園」)と対比的でしたね。

阪田さん:田園はD-durで終わり、武満の冒頭は調性をつけるとすればD-durに近い和声で始まります。時代がこんなに違うのにどこかに共通点がある、でも和声は違う。その対比を面白いと自分では感じていました。

―そして最後はラフマニノフのソナタ2番で堂々と締めくくりました。

阪田さん:ラフマニノフは好きな作曲家の一人です。彼の作品は常に悲しみや憂いなどを伴いますが、それは武満やラヴェルのような幽玄の世界よりリアリティある雰囲気を持っています。そのようなイメージでプログラムを作りました。

―リスト協奏曲も含めて、キャラクターの描き分けが明確で興味深く聴かせて頂きました。梅村さんはファイナルの協奏曲を聴かれていかがでしたか?

梅村知世さん(以下梅村さん):素晴らしかったです。阪田君は自分にはないものを持っていて、手も大きいし、指も長いし、細かく難しいパッセージも難なく弾けてしまうので、リストは合っていたと思います。


自分を進化させるために、特級に向けて取り組んだ課題とは?

―今回特級を受けようと決めたのはいつ頃でしょうか。そして本番に向けて、どのように取り組んできましたか?

実は昨年も受けようと思っていたのですが、春にリスト国際コンクールの準備が控えていたため、特級は今年にしました。受けることは以前から決めていたのですが、問題は選曲でした。曲を決めたのは4か月ほど前です。リストのレパートリーは沢山ありましたが、せっかく50分のリサイタルが弾ける特別な機会なので、新しい曲を入れようという発想になりました。今回(全ステージで弾いた曲の中で)3曲以外は全て新しい曲でした。特に、セミファイナルは全て今回初めて取り組んだものです。大変でしたが、それが次のステップになるかなと。沢山の曲をあまり時間かけすぎないで仕上げる、というのが自分を進化させるのに必要かなと思いました。

―今年に入ってステップを5回受けたと伺いました。どのような目的を持って受けたのでしょうか。

阪田さん:特に今回は新しい曲が多かったので、人前で弾く機会を頂きたくてステップを受けました。緊張するタイプなので、まず慣れておきたいと思いました。

―梅村さんは昨年どのようにプログラムを構成されましたか?シューマンの幻想曲や邦人曲など強く印象に残っています。

梅村さん:私も昨年新しい曲ばかりでした。ベートーヴェンのソナタ以外は全て新たに取り組んだものですね。

―それぞれ目的を持ちつつ、新鮮な感覚で取り組まれたようですね。梅村さんは昨年グランプリを獲得されてからの1年間も、新しい学びがあったと思いますがいかがでしょうか。

梅村さん:様々な演奏機会を頂くことができました。特級を受ける前はコンクールのことばかり考えていたのですが、コンサートはお客様がいらっしゃるので皆様に喜んで頂けるプログラムを考えなくてはいけない、その考える機会を頂けたのがありがたく思いました。

―プログラムの組み方が変わったということですね。具体的に工夫した点はありますか?

梅村さん:やはりショパンや多くの方々に受け入れられる曲など、自分が勉強しているドイツ作品とは別に、常に持つようになりました。そういう点では考え方が少し変わりましたね。ショパンのバラードやノクターン、ソナタ、今はプレリュードも勉強しています。


小さい頃からコンペを受け続けて、今がある

―お二人ともA2級(阪田さん)、A1級(梅村さん)からコンペに参加されていますね。「四期」の時代様式の違いをどのように学んできましたか。思い出に残っているエピソードがあれば教えて下さい。

阪田さん:B級でハチャトゥリアン『子供のアルバム』第1巻のスケルツォを選曲した時、この曲はソ連時代の作品なので「自由にしたいけどできない」という雰囲気があるのですが、それがなかなか分からなかったんです。すると母が映画『ライフ・イズ・ビューティフル』のDVDを借りて来て、それで曲の雰囲気がつかめたことがありました。

―極限状況の中でもユーモアや自由な精神を失わない・・参考資料の選択眼が素晴らしいですね。梅村さんは理解を深めるために参考にしたものはありますか?

梅村さん:四期の雰囲気の違いは考えていたと思います。小さい頃なので、できていたかどうかは分かりませんが。今はオペラを観てイメージを膨らませたりすることもあります。

―お二人とも小さい頃から、コンペで邦人課題曲にも触れていますよね。梅村さんの昨年の演奏(中島牧作曲『風』)も、阪田さんの武満徹も説得力ある演奏でした。邦人作品に対してはやはり親しみを感じますか?それぞれどのような距離感で取り組んでいるのでしょうか?

梅村さん:昨年度の邦人課題は新作だったので、音源もありませんし、他の曲より分析に時間をかけたような気がします。『風』はとても良い曲でしたね。

阪田さん:過去2、3回ほど邦人作品に取り組みましたが、基本的にどの作曲家を見る時も、ある一点から全てを対等に見るようにしています。バッハにはバッハの語法が、ショパンやリスト、近現代曲など、それぞれの楽譜の書き方があります。その楽譜の意見を尊重するために、あまり一つにのめり込みすぎないように気を付けています。距離感としては全て同じですが、ただ、「武満は我々日本人の方が分かる」というプライドは持っています。でも自分で選曲する時は、例えばベートーヴェンのソナタのどれが好きか、というのと同じ感覚で見ていると思います。


次なる目標は?

―梅村さんはグランプリになってからの1年、新たに挑戦したことがあれば教えて下さい。

梅村さん:そうですね。海外に行かせて頂いたことで視野が広がりましたし、歴代のグランプリが皆さんご活躍されているので、できるだけ近づいていけたらなと考えていました。また色々な場所で演奏させて頂いたので、その場所ごとに雰囲気やイメージを変えていかないといけないことを学ばせて頂きました。

―新しい人との出会いの中で、印象に残る言葉などはありましたか?

梅村さん:昨年、仲田みずほさん(2009年度グランプリ)も仰ってくれましたが、人との繋がりが本当に大切だと思いました。7月にポーランドに行った時も(※ピティナ正会員Mac Tomoko先生の招待により「ポーランド国際フェスティバル」(ナウェンチェフ)に出演)、色々な先生方にレッスンをして頂く中で、私の深い部分まで見てサポートして下さったのがありがたかったです。

2009yasukoscholarship.jpg ―阪田君は海外で何度か演奏経験があると思いますが、今後はどのような姿勢で臨みたいですか?

今まではコンサートとコンクールの線引きが曖昧でしたが、今回のファイナルではコンクールながら自分のコンサートに来て頂いているような気持ちで演奏させて頂きました。今後もコンサートでプロとして弾いている、そんな感覚を持って臨めたらと思います。と言いますのは、演奏家として演奏する場合には自分の意見や考えが重要で、例えば客席に向かってちょっとお辞儀する、といった一挙手一投足に至るまでコンクールとは違う気がします。同じに見えても心づもりが違う、それを心に留めながら、気を引き締めて臨みたいと思います。(写真は2009年度福田靖子賞奨学金オーディションにて、福田靖子賞を受賞。※2011年春にはニコライ・ペトロフ先生の招待により「クレムリン音楽祭」に出演)

―すでに、次の目標が見えていますか?

はい。具体的には、演奏会を成功させることや国際コンクールで良い結果を出せるように努力すること等色々ありますが、やはり一番力を入れたいのはレパートリーの拡大です。リストやベートーヴェン等に偏重気味だったのですが、ドビュッシーやラヴェルなどフランスものにも積極的に挑戦したいです。また海外ではよく弾かれますが日本ではまだ演奏機会の少ないアルベニスやグラナドス等のスペインもの、あとは編曲作品ですね。私はオペラや交響曲、室内楽など他分野の曲が好きなのですが、ヴィルトォーゾ・ピアニストとして活躍していたリストなどの作曲家を勉強すると、どうしても編曲作品が多くなります。違う楽器の音楽をピアノで弾くというのは、ピアニストの醍醐味の一つかなと思います。
そして演奏会を開く以上は、皆様が聴きたいと思うショパンなども取り組みたいと思います。それと同時にあまり知られていない曲、例えばアルカン等も取り上げられたらと思います。

―演奏家としての使命を、すでに肝に銘じていらっしゃるように思います。では目指しているピアニストを教えて頂けますか?

阪田さん:やはり演奏自体が尊敬されているピアニストとして、ウラディミール・ソフロニツキーをまず挙げたいと思います。あとアルフレッド・コルトーですね。彼らの演奏は楽曲全体を見通して、細部まで緻密に読み込んだ上での即興性や自由さ、自我の発露が感じられる演奏で、素晴らしいと思います。それだけでなく、1950年代以前という時代において、あまり知られてない作品を頻繁に取り上げて一つの金字塔のような演奏をしている。それも見習いたい点の一つです。その意味もあって今回は新曲を並べ、自分で譜読みし仕上げるところまで持っていくことを心がけました。できる限り時間を圧縮して、そういう勉強にもチャレンジしたいと思います。

―ぜひその多彩な才能を伸ばし、国際舞台でも活躍の場を広げて頂きたいと思います。では梅村さんの目指すピアニスト像を教えて頂けますか?

この1年間様々な演奏機会を通して、演奏家としてどうあるべきかを勉強させて頂きました。一つ課題に思ったのは、もっと奥深い部分を勉強したいこと。1年間のお仕事が終わったので(笑)、これから落ち着いてレパートリーを広げ、幅広い視野を持てるように学んでいきたいと思います。昨年セミファイナルで演奏したようなプログラムや、少々マニアックな作品でも聴衆の皆様に訴えかけられるような演奏を目指したいです。それには年数もかかりますが、より緻密に勉強していきたいと思います。

―さらに成長を遂げ、芯の強い梅村さんならでは情感豊かな演奏を期待しています。では最後に、お互いにエールの言葉をお願いします。

梅村さん:本当におめでとうございます。もう既に活躍されているので大丈夫と思いますが、数々の舞台を頑張って下さいね。

阪田さん:梅村さんは同じ系列の大学(東京芸大)の大先輩で、いつも真摯にドイツものに取り組んでいる姿を見て、その素晴らしさを体現する演奏家の道を進んでいるという感じがします。ぜひその道で頑張って下さい。私も頑張ります!

―ありがとうございました。お二人のますますのご活躍をお祈りしています。
◆阪田知樹さん演奏動画(Youtube)
【セミファイナルより】ラヴェル:夜のガスパールより第3曲「スカルボ」
【ファイナルより】リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 第1楽章第2~4楽章
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ピティナ編集部
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