ピアノステージ

Vol.08-2 Stage+人(6) 西村由紀江さん

2008/10/31
Stage+人6
様々なジャンルとのコラボレーションを通して、ピアノの可能性を試していきたい─西村由紀江さん
松浦さんの語りで好きなのは、表現が大げさではないところ。今日の物語でも、激したところは、普通の人は1オクターブくらい高くなったり叫んだりするところを、松浦さんはぐっと抑える。逆に悲しい時は、「あぁ、悲しい!」という感じでなく、静かで、深くて、じーんとくる感じというのが、すごくよくて。私にとって、松浦さんとのコラボレーションは大切なライフワークになっています。(西村談)
西村さんのピアノは、セラピストに優しく接してもらっているよう。気が付くと、元気を回復している。必ずしも元気な曲を聞いたから元気になるものではなく、何か自分の波長が合う音楽に出会うと、"あぁ、こんなに穏やかになれたなぁ"とか"こんなに元気をもらえたなぁ"と。私にとってはそういう音楽家の方ですね。(松浦談)

デビュー22年目を迎えた西村由紀江さん。自らの事務所を立ち上げ、新たなスタートを切った。エッセイ「あなたが輝くとき」の出版、ドラマスペシャル「吉原炎上」の音楽担当、NHK「アーカイブス」のテーマ曲を手がけるなど、ますます多岐にわたって活躍中だ。中でも、今後特に意欲的に取り組んでいきたい活動の1つが、「他ジャンルとのコラボレーション」だと語る。

天井から漏れ降り注がれる昼下がりの光がステージに差し込む、幻想的な空間の中で、聴衆は『光の国の姫』という童話の世界に包まれた。10月11日(土)、代々木上原にある小さなホール「ムジカーザ」。「朗読」と「ピアノ」でつづられた『風をあつめて・第5章』と題するコンサートは、その名のとおり5回目を迎えた。朗読は、西村さんと10年以上のお付き合いという、元FMアナウンサーの松浦このみさん。喜怒哀楽のコントラストを、あえて抑えた落ち着いた語り口は、西村さん自作のやさしいピアノの音色に、とても自然に調和していた。終演後まもなく、お2人からお話を伺った。

ストーリーと語りから、広がる曲想
─ 朗読とピアノ、どのように作っていかれるのでしょうか?

松浦 ある程度の時期に近づいて、本屋さんに行っていろいろ見ていると、何か買ってほしそうな本があるんですね。そういう本を何冊か買って、その中から選んでいます。

西村 わりと早い時間に本はいただくんですけれど、やっぱり2ヶ月ぐらいかけて作曲に取り組みます。ストーリーを読みながら、だんだんイメージを膨らませていく、という感じです。松浦さんからも、曲を挿入する箇所やイメージを伝えていただき、私からも提案させてもらう。お互い、擦り合わせをするんですね。完成する前に、何度かリハーサルをするのですが、自分でも不思議なことに、実際に松浦さんの朗読される声を聴いていると、新たにいろんな曲想が浮かんでくるんですよ。そうそう、今日の公演の2作目のお話は、ちょっとタンゴ風にしてみたんですけど、ああいう曲ってなかなかオリジナルアルバムでは浮かばないもの。自分が意識していなかったところの引き出しを、そっと引っ張ってくれるような...朗読とのコラボレーションは、すごく刺激があって楽しいです。

ピアノと朗読とお客様と、3者で織り成す芸術
─ どのような思いで、このような企画を実施されてきたのでしょうか?

松浦 私の主催するグループの、「朗読と音楽で空間をつくる」というタイトルが全てなんですけれど、お客さんが変われば、その場の空気が変わるんですね。これからの夜の公演も、会場の中はきっと違う雰囲気になると思います。朗読は、映像のない世界ですから、聴いた人が映像を描いてもらって完結するもの。映画ですと、完成したものを見てもらうという感じですよね。朗読では、その場で聴いている方々の呼吸が入ってくるので、それを敏感に感じ取るようにやりたいと思います。お客さんと一体になって作っているような感じですね。お客さんはそういう意識はないかもしれないけれど、こっちは大ありで、すごく影響を受けているんです。

西村 今日のお客様は、ある意味貪欲というか、作品とか私たちの一つ一つの音とか動きを、すごくキャッチして下さるお客様だなぁと思いました。たぶん松浦さんも一緒だと思いますが、自分がいかにテクニックを磨いていいピアノを弾くとか、完璧にこなすか、ということよりも、お客様と接して、何かを感じてもらうということが喜びで、また頑張ろうと思えるんですよね。年々その思いが強くなっています。かつては、ちゃんと最後まで弾けるか、間違えないかということで精一杯だったんですけれども、音楽とか芸術というものは、そうではないんだと改めて感じています。

大人も楽しめる物語の世界
─ 朗読とピアノ、相乗効果のあるすばらしいアンサンブルですね。

西村 今回のような物語は、子どもは子どもなりに楽しめるし、大人は大人で違う楽しみ方ができるところが魅力。物語や絵本って、大人になって改めて読むと、初めてその深さを知ることがあると思います。それを知らないで、「あ、しょせん子どものものだ」と通り過ぎてしまうのは、もったいないですよね。

* * *

 美しい音と語りから、私たちがそれぞれに心の中に描く絵本。声楽でも楽器でもない、ピアノとの「アンサンブル」。お気に入りのストーリー、息の合った語り手を求め、"朗読とピアノでつづる"、自分ならではのピアノステージを作ってみては。

プロフィール
西村由紀江さん
西村由紀江(作曲・ピアノ)
にしむらゆきえ◎幼少より音楽の才能を認められ、ヨーロッパ、アメリカ、東南アジア諸国への演奏旅行に参加し、絶賛を博す。桐朋学園大学ピアノ科に入学と同時にデビュー。年間60本を超えるコンサートで、全国各地を訪れる傍ら、ライフワークとして「学校コンサート」や「病院コンサート」も行っている。今までに30枚を超えるアルバムをリリースする制作活動の他、近年ではNHKテレビ「趣味悠々・西村由紀江のやさしいピアノレッスン」にピアノ講師として 出演し、ピアノの楽しさ、音楽の魅力を、わかりやすく広めたことでも注目を集めた。彼女のふんわりしながらも凛とし た人柄、またそこから紡ぎ出されるピアノの音色は、同世代の女性からの支持も高い。
公式HP:http://www.nishimura-yukie.com/
松浦このみさん
松浦このみ(朗読)
まつうらこのみ◎東京都出身。中央大学文学部史学科卒業。静岡エフエム放送株式会社入社(現K-mix)。アナウンサー、番組パーソナリティ、番組制作を担当。1995年より、朗読と音楽で空間をつくる「gusuto de piro(グスト・デ・ピーロ)」を主宰。音楽と朗読のコラボレーションという、新しいジャンルに挑戦。ラジオ番組をはじめ、ホール、ライブハウス等、公演と活動の場所を広げている。 公式HP:http://www.gusuto-de-piro.com/
(取材・文:霜鳥美和 写真:熊谷聖司)

Vol.8 INDEX


2008年10月31日発行
Stage+人(5)
アクセスパスの新企画 子どもたちの憧れのピアニストインタビュー
横山幸雄さん
Stage+人(6)
様々なジャンルとのコラボレーションを通して、ピアノの可能性を試していきたい
西村由紀江さん
10分でたどる作曲家の生涯(1)
ピアノの詩人「ショパン」編
西村稔
・ピアノピアノのある生活(5)私のステップ遍歴
 岡嶋拓也さん吉岡正人さん菊田美和子さん
・弾いたあなたへ、聴く特典!「ピティナ・アクセスパス一周年」
グランミューズ部門入賞者記念コンサート

ピティナ編集部
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