ピアノステージ

Vol.04-6 ピアノ教養クイズ(2)

2007/06/30
ピアノ教養クイズ

今回は、歴史的な名画をテーマにしたクイズです。ピアノを通じて習得できる、芸術の時代感や様式感をヒントに、名画と同時代の音楽様式を考えてみましょう。

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この4つの名画(1)~(4)
時代の古い順に並べてみましょう。
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バロック様式
 ~振興とのつながり、豪華絢爛、対比効果、動的表現~

 ヨーロッパの教会などで、建築と絵画の境目がわからなくなるような豪華な天井画を目にすることがありますが、(4)も天井画のひとつで、1630年に描かれたバロック天井画の代表作品です。聖人や天使の天を舞う壮大なスケールのダイナミックな構図や華麗すぎる装飾は、見るものを圧倒させる迫力があります。当時の教会では、このような神聖な空間に、バロック期の神聖な音楽を響かせることで、キリスト教の世界に人々を深く引き込んでいったのでしょう。
 J.S.バッハらによって集大成された「バロック音楽」も、スポンサーである王侯や貴族、教会の意向に沿って作曲しているため、大規模で豪華絢爛な曲が多く、「彫刻や絵画等と同様、速度・強弱・音色において対比効果があり、劇的な表現を特徴とした音楽(クルト・ザックス著『バロック音楽』より)とされています。
 「バロック芸術」は、イタリアのフィレンツェが発祥の地で、「信仰」を目に見える形で表現しようとする美術、建築から始まりました。前時代(ルネサンス期)に理想とされていた端正な秩序や調和のある表現よりも、多少バランスを崩しても躍動感あふれる動的表現が好まれ、ある時は激しくある時は穏やかにと、コントラスト豊かな感情の世界が全芸術分野において展開されていきました。


新古典主義
 ~合理的な理性、均整、調和のとれた構成の形式美~

 1784年、フランス革命をひかえた激動の時代に、当代国王のルイ16世から注文を受けて作られたのがダヴィッド作の(3)で、ギリシャ・ローマ時代の古典(特に英雄)を題材にし、古代風の力強さ、簡潔さで、いにしえの道徳的内容(勇気、愛国的忠誠心、犠牲の精神など)を表現した「新古典主義」を代表する作品です。3つのアーチの前で、1人の父親を軸に、武装した強そうな3人の男性に対し、ただ泣くばかりの3人の弱い女性、というシンプルで安定した構図、不自然なまでに明快なポーズで描かれ、動きや情熱的な表現を控えた作風が印象的です。
 この時代の美術様式は「新古典主義」と呼ばれています。新古典主義は、前時代のバロックの大げさな表現やその後のロココの軽薄さを否定し、ギリシャ・ローマの古典を「唯一の美の基準」と仰ぎ、その時代の文化を模範とし、均整、調和がその理想とされ、合理的な理性、強固な倫理観を求めました。
 一方、当時の音楽は、「古典主義音楽」といわれ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらのウィーン古典派の作曲様式は、ヨーロッパほぼ全土で取り入れられるほど、普遍性を帯びていました。音楽の場合は、ギリシャ・ローマの古典を復興しようという意識があったわけではないものの、ソナタ形式の音楽等に、顕著なように、楽曲の合理的な展開、機能和声の確立、均整・調和の取れた構成の形式美に重点が置かれている点は、新古典主義と同じ時代様式を感じることができると思います。


ロマン主義
 ~文学とのつながり、多用な美の基準、自由な形式、ドラマチックな感情表現~

19世紀のヨーロッパでは、シェイクスピア劇が大流行。(1)はシェークスピアの戯曲「ハムレット」より"オフィーリアの死"をテーマにした、1844年のドラクロワの作品です。悲劇のヒロイン、オフィーリアの死の場面(恋人ハムレットに父親を殺され、気がふれたオフィーリアは、花環を枝にかけようとして、花環もろとも川に落ちてしまう場面)は、その後も多くの画家たちのイマジネーションを刺激したようです。 ロマン主義運動は、文学の世界から起こりました。そもそも、ロマンスとは、空想的・冒険的要素の強い物語のこと。見る者の気持ちを高揚するためのドラマチックな表現がもちいられ、題材には、聖書や古代芸術に代わり、時事的な事件や小説のエピソード、また異国の趣向も取り入れられました。また、ギリシャ・ローマ美術が美の唯一の基準という新古典主義の考え方に対し、ロマン主義は多様な美しさがあると主張され、個人の主観や幻想、自然や不合理、といったものが表現されるようになります。 ロマン主義音楽でも、文学的な芸術とのつながりが強くなり、詩と一体となった歌曲、文学や美術と結合したオペラ、音楽外のものを標題とした標題音楽が好まれるようになりました。また形式も、構造的なソナタ形式よりも自由な小品が受け入れられ、和声も大胆で色彩的になり、転調も自由に、リズムも複雑な方向に変化していった点で、絵画のロマン主義化の方向と共通しています。


印象主義
 ~光の動き、変化の質感、不明瞭な輪郭、淡い色調~

最後の(2)は、「印象主義」の名前の由来になった、モネの第1回印象派展出展作品です。大気の揺らぎや、刻々と変化する海面とそこに反射する陽の光の移ろい、陽光による自然界での微妙な色彩の変化など、感覚的で曖昧な作風が、他の絵画にくらべ際立っています。 印象派の美術は、このように、光の動き、変化の質感をいかに絵画で表現するか、に重きをおいています。当時主流だった写実主義などの細かいタッチと異なり、荒々しい筆致が多く、絵画中に明瞭な線や形を欠いた表現となっていること、またそれまでの絵画と比べて絵全体が淡い色調で、色彩に富んでいるも大きな特徴です。それまでの画家たちが主にアトリエの中で絵を描いていたのとは対照的に、好んで屋外に出かけて絵を描きました。 ドビュッシーやラヴェルの印象主義の音楽も、感情を表現したり物語を語るのではなく、気分や雰囲気を喚起しようとするものでした。そのための手法として積極的に用いた全音音階を、結果的に17世紀以来の和声進行を曖昧にし、ちょうど印象派の画風に見られるような、夢見心地のけだるい効果を作品にもたらしています。

回答 (4)→(3)→(1)→(2)
(4)ピエトロ・ダ・コルトーナ作
 『教皇ウルバヌス8世治下の<神の摂理>の勝利』
(3)ジャック・ルイ・ダヴィッド作 『ホラティウス兄弟の誓い』
(2)ウージェーヌ・ドラクロワ作 『オフィーリアの死』
(1)クロード・モネ作 『印象の日の出』

Vol.4 INDEX


2007年6月30日発行
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ピアノ教養クイズ(2)
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ピティナ編集部
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