ピアノの19世紀

12 ピアノ音楽風土記 スペイン その2

2009/07/24

 アルベニスのこのような作風は、スペインのその他の作曲家にも大きな影響を与えました。エンリケ・グラナドス(1867-1916)は、スペイン情緒をより親しめる形で表現しました。彼の代表作はゴヤの絵に題材をとった「ゴイェスカス」です。おそらく欧米の人々がスペイン情緒をもっとも感覚的に理解するのにもっとも貢献した作品といえるでしょう。この作品は最初はピアノのための組曲にまとめられ、その後同名のオペラに改作されました。

 「ゴイェスカス 恋するマホたち」 2部構成
  第1部 愛の言葉、窓辺の語らい、ともしびのファンダンゴ、嘆きあるいはマハと夜鳴きうぐいす
  第2部 愛と死、エピローグ、追加 わら人形 

 「スペイン舞曲集」 1 メヌエット、2 オリエンタル、3 サラバンド、4 ビリャネスカ、5 アンダルーサ 祈り、6 ロンデーリャ・アラゴネーサ、7 アストゥリアーナ、8 バレンシアーナ、9マヅルカ、10 悲しい踊り、11 サンブラ、12 アラベスカ
 この「スペイン舞曲集」はピアノ音楽としてももっとも親しまれているスペイン音楽に数えられます。スペインの大衆化した側面も示しており、第2曲「オリエンタル」は、この曲集でももっとも親しまれている作品ですが、「スペイン」は感傷的にオリエンタルと同化されています。第9曲「マヅルカ」はスペイン舞曲ではありません。それでも、スペイン各地の民俗表現を表現した曲集となっています。

アルベニスグラナドスのあとに登場したのが、マヌエル・デ・ファリャ(1876-1946)です。ファリャはアンダルシア地方のカディスの出身で、カディスはフェニキア人の植民都市で知られています。彼はサルスエラの作曲を手がけ、オペラ「はかない人生」で認められました。ファリャは、バレエ音楽「三角帽子」や、オペラ「ペドレル親方」の作曲家として知られていますが、同時にスペインの音楽学者としての功績も残しています。彼は1939年、スペイン内戦の終結、すなわちフランコ政権の樹立を嫌ってアルゼンチンに移住しました。作品としては交響的印象「スペインの庭の夜」が有名です。彼もまたパリでドビュッシーらの音楽家と交友を結び、ドビュッシーの死を悼んで「クロード・ドビュッシーの墓碑銘のための賛歌」というギター作品を作曲しています。
スペイン・ナショナリズムを明確に表明した作品は歌曲集「スペイン民謡集」で、1ムーア人の衣装、2ムルシア地方のセギディーリャ、3アストゥリアス地方の歌、4ホータ、5子守唄、6歌、7ポーロという構成になっています。これらの作品の中で「ポーロ」はアンダンルシア地方の民謡で、中庸な速度による、手拍子やカスタネットを用いる表現を特色としています。
ピアノ作品では初期の「4つのスペイン小品」(1908年作曲)や、「アンダルシア幻想曲」の名で知られる「ペティカ幻想曲」(1919年作曲)があります。


西原 稔(にしはらみのる)

山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期退学。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18,19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「聖なるイメージの音楽」(以上、音楽之友社)、「ピアノの誕生」(講談社)、「楽聖ベートーヴェンの誕生」(平凡社)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」(講談社)、「音楽史ほんとうの話」、「ブラームス」(音楽の友社)などの著書のほかに、共著・共編で「ベートーヴェン事典」(東京書籍)、翻訳で「魔笛とウィーン」(平凡社)、監訳・共訳で「ルル」、「金色のソナタ」(以上、音楽の友社)「オペラ事典」、「ベートーヴェン事典」(以上、平凡社)などがある。

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