ロンドンレポート

ストリートピアノ・プロジェクトinロンドン ~30台のピアノが街中に!?

2009/08/26
日本語English

---イベント情報---
■名称:Play Me, I'm Yours:
London 2009/
The Street Pianos Project
■アーティスト:Luke Jerram
■期間:2009年6月中旬~7月中旬
■場所:ロンドン市内30か所(地図
■共催:City of London FestivalSing London
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ストリート・ピアノ・プロジェクトinロンドン
photo by Luke Jerram
photo by Luke Jerram
「Play Me, I'm Yours!」と描かれたピアノが、ロンドンの街の至る所に現れる!ある日そんなニュースを目にした。「シティ・オブ・ロンドン・フェスティバル」の期間中の約1か月、30台ものピアノが、ロンドンのショッピング通りや広場、ビジネス街に駅に置かれ、誰でも弾くことができるという。さて、一体どんなことが起こるのだろうか?
◆ 公園で駅で、カラフルなピアノが音を奏でる

ソーホー・スクエア

ある晴れた日に早速ピアノを探しにロンドンの街へ出かけた。まず最初に目指したのはソーホー・スクエア。ロンドンの街の中心部にあり、ショッピング街やレストラン、カフェ、シアター街などに囲まれたエリアにあるちょっとした公園で、ロンドナーの憩いの場だ。ピアノはどこだろう?と思いつつ足を踏み入れてみると、木陰の方から音が聴こえてきた。

見えてきたのは、赤やピンクで「Play Me, I'm Yours!」という文字や絵がペイントしてある茶色いアップライト・ピアノ。カラフルなシャツを着た男性がジャズを奏でている。ピアノの傍に寄って聴き入る人もいれば、ちょっと離れて立って聴いている人、横のベンチに座って膝を打ってのっている人、芝生に腰をおろしてランチを食べながら耳を傾ける人...みな好き好きの格好と距離で、風に乗ってくるピアノの音色に身を委ねている。


ショーが始まる

曲の合間に、傍らで聴いていた人が話しかける。リクエストをしたのだろうか、また別の曲を弾き始めた。「君も弾くかい?」とピアノを譲ると、今度は別の人がビートルズの弾き語りを始めた。公園の横を通り過ぎようとしていた人も中へと足を向け、立ち止まり、一緒に歌いだす。と思うと、大道芸人のような衣装を着たミュージシャンたちが出てきて、周りの人を巻き込んでピアノと歌のショーをやり出した。30分座っているだけでも、1つのピアノの周りを色々な人と音楽が巡っていく。


◆ ストリート・ピアノ・プロジェクトって?

luke:Luke Jerram

「Play Me, I'm Yours!」と名付けられたこのストリート・ピアノ・プロジェクトの仕掛け人はルーク・ジェラムというイギリス人のアーティスト。これは実は、多彩なジャンルで活躍するアーティスト、ルークの芸術作品の1つなのだ。町の中に、ただ、ピアノを置いてみる。そのピアノは誰のものでもない、むしろ「I'm yours(あなたのもの」、日々そこを行き交う人たちのもの。すると、何が起きるか。通りがかった人がピアノで何かを弾き、それをまた通りがかった人が聴き、足を止め、会話が生まれ、コミュニティが生まれる。「空白のキャンバス」とルークが表現するように、そのピアノを誰がどのように使い、何が生まれるかはその人たち次第なのだ。


ピアノに向かうルーク

「都会に住む僕たちは、毎朝バス停で同じ人と顔を合わせても、それがどこの誰か知らないし、話をすることもない。どうして自分の住むコミュニティの人のことを何も知らないままのだろう?」そんな疑問から、このプロジェクトの構想は生まれた。「Play me, I'm yoursは、いつも同じ空間で過ごしながらお互いに知らない人同士が、足を止め、話し出すきっかけを作るためのものなんだ。」とルークは話す。


サンパウロの様子photo by Luke Jerram


突然シング・ロンドン!

ストリート・ピアノ・プロジェクトは、2008年3月にバーミンガムで15台のピアノで始められたのを皮切りに、10月にブラジル・サンパウロ、2009年1月にはオーストリアのシドニーと世界中をツアーしている。シドニー・フェスティバルでは、30台のピアノを通算20万人が弾くなり聴くなりをしたという。今回ロンドンでは、40年以上の歴史を持つ夏のアート・フェスティバル「City of London Festival」と、ロンドンの街を歌でつなげようという一連のイベント「Sing London」と連携する形で実現した。そのため、これらのピアノは関連イベントの拠点としても使われる。リバティの裏のカーナビ―ストリートの入り口に置かれたピアノでたまたま弾き語りをしていた男性に、「Sing Londonの案内でここで歌えるって見てきたの!ヘイ・ジュード弾いてもらえるかしら!?」とリクエストをして一緒に歌っていく姿も見られた。(大人数になったヘイ・ジュードはこちら


◆ どのピアノで何をするかはあなた次第!

プラザ

それぞれのピアノは場所にあわせて様々な色や模様でデコレーションされている。約半数はルークがその場でペイントし、他の半数は地元のアーティストが手がけたそうだ。賑やかなカーナビ―ストリートにはカラフルな海と魚の絵が、テムズ川のミレニアム・ブリッジ横のピアノにはヨットの絵、大英図書館の前にはたくさんの言葉、マーケットにあるピアノにはこのピアノで楽しむ地元の人たちの写真が、プラザ・ショッピングセンターにはイギリスの国旗が大きく描かれたグランドピアノが、近くに病院があるソーホー・スクエアのピアノにはよく見ると心臓のイラストが描かれていた。


カーナビ―・ストリート

これらのピアノはどこから来たのだろうか?30台ものピアノを設置するとなると、コストもかかるはずだ。「このピアノは、ピアノの運搬会社の協力を得て譲ってもらったものなんだよ。そこに集まってきた廃棄用のピアノを壊してしまわずに、町の中に持って来てデコレーションしたんだ。だから、ピアノ代はただ。かかっているのは、運搬費と調律費だけで、それは今回はシティ・オブ・ロンドン・フェスティバルの一環として持ってもらっているんだ。」なるほど、廃棄ピアノもかわいくペイントしてしまえば、お金をかけずに町の中でのシンボル的存在になる。試しにピアノを弾いてみると、確かに調律でどうにもならないくらい、音が出ない鍵盤や一度押すと戻ってこない鍵盤、機能しないペダル...という状態。それでも皆おかまいなしに楽しんで弾いている。むしろ、「このキー、戻ってこないんだよ!」なんていうのも、会話の一つになっている。


ミレニアム・ブリッジ

これらのピアノの楽しみ方は色々。クラシックでもポピュラーでも自分の好きな曲を弾いたり、何を弾いたらいいかわからない人のためには、それぞれのピアノにくっつけられたソング・ブックの楽譜がある。ロンドンに関する歌や、駅のピアノには電車の歌、橋には水の歌など、その場所にちなんだ歌がセレクトされている。さらに、オフィシャルウェブサイトを使って、イベントを企画して時間と場所を告知したり、自分たちが撮影した写真やビデオをアップしたりというインタラクティブな機能も持っている。学校の子どもたちが外に出て音楽を楽しんだり披露する場として使ったり、プロやアマチュアがイベントの告知に使うことも自由だ。中には、8時間でロンドン中の24ものピアノを連弾でマラソンをする、という野心的な試みに挑戦したデュオも。


◆ 誰でも弾けるピアノはコミュニティをつなげるのに最適

大英図書館

ロンドンの街をピアノを探しながら歩いてみると、平日も休日も、イベントが特にない時でもほとんどのピアノがその時誰かに弾かれていた。1人が弾き終わると、すっと誰かがまた来て弾き始める。並んでいるわけでもなく、ふっとタイミングよく近寄った人が弾いているのだ。ある時、大英図書館の前のピアノが誰にも弾かれずひっそりと佇んでいるのを見かけたので、近づいてみた。少し音を出してみると、たちまち家族連れが近づいてきて、子どもが覗き込んできた。「弾いていいよ。」と譲ってみると、ピアノを弾いたことのあるお姉ちゃんが映画のサウンド・トラックを弾き始めた。弾き終わって帰ろうとすると、まだピアノを弾いたことのないような小さい妹がいつの間にかちゃっかりピアノの椅子に座って「私も弾きたい!」と鍵盤をたたいていた。


セント・ポール寺院

ルークに尋ねてみた。「なぜ、他の楽器ではなくてピアノを選んだの?」すると、「ピアノは鍵盤を押せば音が出るから、誰でも簡単に弾けるだろう?だから、突然そこにピアノがあっても、誰でも音が出せる。それに、他の楽器の人が来てアンサンブルしても、みんなで歌っても、ピアノがあれば万能じゃないか。誰でも弾けて、多くの人とシェアできる、コミュニティの人をつなげるのにちょうどいいんだよ。」と語ってくれた。これらのピアノは、イベント終了後、地元の施設などに寄付され、コミュニティに貢献する予定だ。


リバプール・ストリート駅

これまで世界を回ってきたストリートピアノ、地域によって反応は違ったのではないだろうか?「サンパウロに行った時には、ほとんどの人が生でピアノを見たことがなかったから、遠くからもやってきて、本当に喜んで弾いてくれたよ。ロンドンの場合には、実は隠れたピアニスト、っていうのがたくさんいるから、色々な才能が発掘できるし、みなクリエイティブに色々とやってくれるからおもしろいよ。」日本にも来る予定はある?「ぜひ日本にも行きたいと思っているよ。日本の人たちもたくさん弾いてくれるかな?」


◆ 参考リンク

取材・執筆 二子千草


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