ロンドンレポート

ギルドホール音楽院『コネクト』 第5回 ~ファイナル・コンサート!

2009/08/06
ギルドホール『コネクト』
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第5回 バービカン・ホールでファイナル・コンサート!

ギルドホール 第5回
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公演:Urban Sounds London '09
場所:Barbican Concert Hall
日時:2009年7月1日 19:30~
入場:無料、要予約
主催:ギルドホールコネクト
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1.Us: The Looking Game
2.Planet Folk: The Victor's Return Medley
3.Nashaa: Seven Oceans
4.Redshift: The Citadel
5.Morpeth Schools' Urban Playground Band+Globe Primary School Band:Urban Blues
6.Future Band: And it all happened in a little fish pond...
7.World in Motion Drummers: PULSE
8.Finale

春先から初夏にかけて並行して行われていたいくつものワークショップ・グループが、その成果を思う存分発揮する日、ファイナル・コンサートが7月1日にやってきた!

ワークショップで作った音楽のエッセンスを抽出

この日に向け、6月の最後の週末2日間をかけて合同リハーサルが行われた。2月~5月に集まった「Urban Sounds(No.3参照)」「World in Motion(No.4参照)」のそれぞれ3つの月のグループに加え、ロンドン東部の学校を拠点に活動をしていたドラムのグループ「PULSE」「iCan」のメンバーもあわせて100人以上のリハーサルだ。ドラムのプロジェクトは、東ロンドンのいくつかの学校で毎週行っているワークショップの延長から、さらに興味のある子たちによって構成されたバンドである。

まず初日は「Urban Sounds」「World in Motion」、ドラムと3つのプロジェクトに分れ、各リーダーのもとにコンサートに向けた作品作りをする。同じプロジェクトでも、3回全部参加していた子もいれば一部のみの子もいるので、他の月にどんな音楽を作っていたかは知らない。リーダーの指導のもと、それぞれの月の作品を皆で思い出し、そこからエッセンスを持ち寄って8分程の1つの曲に仕上げていく。前に一度作って演奏した作品でも、時間が経ち、違うメンバーや楽器が加わり、さらに大人数のアンサンブルになると、懐かしいメロディも少しずつ雰囲気が変わって聞こえるのがおもしろい。

全員で演奏するフィナーレを作る

リハーサル2日目には、これらの3つのプロジェクトが集まり、お互いの作品を聴きあう。弦・管を中心にしたアンサンブルの子たちは、腰に大きなドラムを下げ、鮮やかなバチさばきとステップで華やかに演奏するドラムの集団の迫力満点の姿に目を見張る。が、みるみるうちに歓声をあげ、生き生きとした顔で見つめ、うずうずしだす。負けられない!と、お互いの演奏でさらに触発されたようだ。

そしてコンサートの最後を飾るフィナーレで全員が演奏する曲を作るべく、それぞれのプロジェクトからさらにモチーフを抽出することに。全体を率いるリーダーは、ジョー。ギルドホール音楽院リーダーシップコースの卒業生で、ワークショップ・リーダーとして5年の経験を持つ。各グループが提案してきた音楽を、巧みにボディ・ラングエージを使って指揮しながら、1つの音楽に組み立てていく。

「いくつかみんなの決まりごとを作ろう。僕がこうやったら、もうすぐやめるっていうしるしだから、よくカウントの合図を見てて。」「このマークを指で作ったら、MelodyのMだと思ってこのメロディを弾く準備をして。」などと、年齢も経験も様々な子たちを相手に、様々なジェスチャーでテンポやボリュームをコントロールし、1つのモチーフから次のモチーフへと誘う。子どもたちは、言葉や紙での説明に従うのではなく、音楽を奏でる中で、「次はどうなるかな、もうそろそろかな?」「おっ、この流れかっこいいな。」とその場で生み出される音楽の流れを常に感じている、そんな感じがする。

最後の最後まで新鮮さを失わない

いよいよ本番の当日。夜の公演にもかかわらず朝から全員でリハーサル。リハーサルといえども、初めてこれだけ大きな2000人収容のホールを貸し切り、舞台で演奏をすることにみんな興奮している。この日はさらに、別の学校を拠点に活動をしているグループや、ギルドホール音楽院が協力して指導しているバービカン・ヤング・オーケストラやLSO(=ロンドン交響楽団)フュージョン・オーケストラの合同チーム、コネクトの卒業生によるグループなども加わり、出演者は総勢約200人にも上った。

各バンドごとに最終リハーサル。座る位置や出入り、ソロの時のマイクとの位置関係、ボリュームのバランスなどをチェック。週末に来れなかった子も参加し、大きなステージで演奏してみると、さらなるアイディアも生まれ、微調整を重ねる。フィナーレでは週末の倍ほどの200人が所狭しと舞台へ上がる。約半数の人たちがこの日初めて聴いた音楽に参加し、週末にいた子やリーダーまでも、今まで聴いたことのないような迫力の音楽を「今作り上げている」ことを生の舞台で感じている。最後の最後まで何が起こるかわからないので、演奏をしながら真剣にリーダーへ意識を集中させている。驚くべき吸収力だ。よりよいものへ変えることへの恐れを感じさせない。その新鮮さと集中力、ライブ感が、このアンサンブルの最大の魅力だろう。

学校の友達や家族もかけつけて


本番が近付くと、子どもたちの家族や一般の観客に加え、子どもたちが通う学校の生徒らしき子たちもたくさん会場に集まってきた。観客の方も、友達や家族の名前をプログラムで見つけ、彼らがどんな音楽をどんな風に演奏するのか、わくわくしながら座っている様子が客席から伝わってくる。「観客に期待されている」「観客が自分たちを真剣に見ている」そう心から信じられる舞台で演奏する子どもたちの心は、どれだけモチベーションがあがっていることであろう。

本番の舞台では、さらにヴィジュアルな効果も加わった。それぞれのバンドのイメージにあった赤や青などの格好いい照明がついたり、色とりどりの輪がステージと客席を動いたり、暗くなったり明るくなったり。お話と音楽作りをした「World in Motion」のステージでは、映像アーティストとのコラボレーションで、風景写真や幾何学模様などのイメージがスクリーンに投影され、音楽と映像の競演に。


子どもたちの衣装も、恐らく子どもたち同士で決めたのだろう、バンドごとに黒いシャツに赤いネクタイ、黒い帽子で決めたり、おそろいのTシャツを着たり、顔にペインティングをしたりと、気合いが入っている。大人数での舞台になるので、大きな舞台転換は1度だけ。前半に演奏する4組は全て舞台上にあがり、座ってスタンバイ。最初は左のバンドが、2曲目は真ん中に座っていた人たちが立ち上がって、最後は右のバンドが、というように代わる代わる演奏をする形。そのため、1曲ごとに出入りで煩わされることもなく、プロのステージさながら非常にスムーズに進行した。

大喝采で本番が終わると、ロビーは満足気な家族のもとへ駆け寄る楽器を持った子どもたち、リーダーや身近で助けてくれた学生、仲良くなった友達と別れを惜しむ子どもたちの姿でにぎわった。小学生のサックス吹きの子は、「大きな舞台でちょっと怖いかなと思ったけど、大丈夫だった!楽しかったよ、また演奏したい!」と言って帰って行った。

ギルドホール音楽院のワークショップ・リーダーたちは、今世界的にこのワークショップのスキルを伝えて活躍している。第1・2回にインタビューをしたグレゴリー氏、第4回のデッタ、第5回のジョーらは昭和音楽大学神戸女学院大学などと提携をして来日している。今後も日本でこうしたワークショップに触れる機会は増えるであろう。

ピアノを習う子の多くは、小さい頃に楽譜を見て弾くことを覚えてしまうため、「何もない所から好きな音を選んで弾く」こと、「音で遊びながら自分の好きな音楽を発見すること」を経験する機会が少ないような気がする。ここで一連の例を見てきたクリエイティブなワークショップは、何もない所から音楽を作る、一見ハードルが高い方法に見えるが、どんな年齢・能力・興味の子も、どんな音楽も受け入れる、むしろ何もハードルを設けず、ただ生まれてくるアイディアを楽しむことなのだと感じた。

ピアノと付き合う長い時間を少しこうした経験にあててみることは、ピアノで音楽を学びつつある子たちにも、そして、子どもの音楽的アイディアを汲み取り伸ばすピアノ指導者たちにとっても、新たな才能を開花させるきっかけとなるのではないだろうか。

取材・執筆 二子千草


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