ロンドンレポート

家族で2倍楽しむBBCプロムス 第1回 ~プロムス・プラス

2009/10/15
家族で2倍楽しむBBCプロムス ~ マルチプル・ピアノ・デー ~ 第1回
日本語英語】 【第1回第2回
満員のロイヤル・アルバート・ホール
満員のロイヤル・アルバート・ホール

ロンドンの夏の音楽の風物詩「BBCプロムス」。7月中旬から約2ヵ月間、ロイヤルアルバートホールを中心に毎日コンサートが行われるBBCプロムスは、世界最大のクラシック音楽の祭典。トップクラスのアーティストたちの音楽を、一流のホールで、気さくなお祭り的な雰囲気の中で楽しめるということから、イギリスはもちろん世界中から聴衆が集まってくる。しかしこれらのコンサート自体の他に、それと同じくらい膨大な数の、初心者から楽しめる無料イベントが毎日開かれていることをご存じであろうか。今回は変貌を続けるBBCプロムスについて、次回は今年のイベントの中から、ファミリー向けに企画された「マルチプル・ピアノ・デー」の様子をレポートしながら、音楽の祭典を2倍も3倍も楽しむ活用法をご紹介したい。

メイン会場ロイヤル・アルバート・ホール外観
─ イベント情報 ─
名称:BBCプロムス(BBC Proms/The Proms
主催:BBC(英国放送協会
期間:2009年7月17日~9月12日(58日間)
会場:メイン会場=ロイヤル・アルバート・ホール
室内楽=カドガン・ホール
プロムス・イン・ザ・パーク(最終夜。ロンドン、グラスゴー、サルフォード、スウォンジー、カウンティ・ダウンの5公園)
プロムス・プラス=英国王立音楽大学王立地理学協会(映画)

BBCプロムスとは?
henry wood:ヘンリー・ウッド
ヘンリー・ウッド

BBCプロムスの前身「ヘンリーウッド・プロムナード・コンサート」が始まったのは今から114年前、1895年8月のこと。当時ロンドンに新しくできたクイーンズ・ホールのマネージャー、ロバート・ニューマンの発案だった。「できるだけ多くの聴衆に音楽を届けるため、馴染みやすいプログラムを取り入れ、堅苦しいしきたりを取り払った廉価なコンサートができないだろうか。」この趣旨に賛同したのが、オルガニスト兼指揮者のヘンリー・ウッド(1869-1944)だった。ヘンリー・ウッドは「最初はポピュラーなものから、徐々に水準を上げながらクラシックや現代音楽の聴衆を育てる」ことを目指し、初年度の49コンサートを皮切りに、約半世紀に亘りほぼ一人で全コンサートを指揮するという偉業を成し遂げた。

この創始者たちの意志は、1927年にBBCに主催が移り、第二次大戦中にクイーンズ・ホールが焼失してロイヤル・アルバート・ホールへ場所を移して以降も変わらず、プロムスのユニークな音楽祭のスタイルを作り上げている。

プロムス33コンサートより
プロムス33コンサートより

1つ目の特徴は、2ヵ月間いう長期間、連日繰り広げられる膨大なコンサートの数である。ロイヤル・アルバート・ホールでは毎夜少なくとも1コンサートが開かれ、時には昼間や深夜のコンサートも加わり、2009年には76、カドガン・ホールの室内楽を含めると100コンサート以上に上った。この期間中、聴きたいと思えば毎日何かやっているという状況だ。(プログラム

会場の外のプログラム一覧
会場の外のプログラム一覧

2つ目はプログラムのバラエティの豊富さである。ヘンリー・ウッドの理念に基づき、有名なクラシック曲から現代曲まで幅広くプログラミングされている。特筆すべきは、必ず毎年初演作品が入るということであろう。ヘンリー・ウッドはエルガーなどイギリス人作曲家や、ドビュッシー、リヒャルト・シュトラウスなど同時代の作曲家の新作の多くをイギリスで初演したと言われる。「レパートリーをできる限り新鮮に保つこと」「発見の感覚を楽しむこと」その伝統は、今でも受け継がれている。さらに現在ではイギリス以外にも世界各地からゲストオケ、ソリスト、指揮者が集い、このバラエティにさらなる色彩を加えている。(アーティスト一覧

会場へ向かう人々
会場へ向かう人々

3つ目の特徴は、「プロムス」つまり「プロムナード(そぞろ歩く)・コンサート」の名前に象徴されるような聴衆のスタイルである。この時ばかりはコンサートの堅苦しい形式を取り払い、気さくな雰囲気を生み出そうと、ドレスコードもなく、ホールのアリーナ(平土間)とギャラリー(天井桟敷)を立ち見に開放した。今はできないが、当初は飲食や喫煙をしながら聴くこともできた。この「プロミング」のチケットは現在でもたった5ポンドで手に入り、1400人まで入れると言う。これはどんな完売コンサートでも、当日並べば誰にでもチャンスがある、ということでもある。人気公演の日にはジーンズ姿の若者も含めホールの外に長蛇の列が見られる。

最後に挙げるのが、メインコンサートの前に行われる数々の無料イベント「プロムス・プラス」の存在である。大きなコンサートをただ聴くだけでなく、当日のコンサートをもっと楽しみ、活用するために、コンサートに関連づけたプレコンサート・トーク、家族向けワークショップ、映画などが、2009年は70以上も開催された。これらはロイヤル・アルバート・ホールの真向かいに位置する英国王立音楽大学内のホールで行われ、メインコンサートの開場1時間前に終わり、そのままコンサートへ向かえるよう構成されている。では「プロムス・プラス」についてもう少し詳しく見てみよう。

プロムス'+'何で楽しむ?
当日のプログラムとチケット
当日のプログラムとチケット

広く一般大衆が楽しめるようにと始められたプロムスは、この115年の間、常に変化を伴ってきた。1960年代に西洋音楽以外の世界の音楽を積極的に取り入れるようになった頃、子供向けに企画されたプログラムも現れてきた。1970年代からはプレコンサート・トークが、1990年代には関連のレクチャーも開催されるようになった。2006年には「プロムス・ファミリー・オーケストラ」のプロジェクトが開始、2008年にはメインコンサートにも1日だけ無料ファミリー・コンサートが加わり、2009年にはダーウィン生誕200年を記念し虫から恐竜までをテーマにしたコンサートが開かれるなど、バラエティも数も近年革新的に伸びてきた分野である。2009年度は次の6つに整備され、合計73の「プロムス・プラス」として毎日少なくとも1つ以上のイベントが開催された。

プロムス・プラスとファミリー・プロムスの冊子
プロムス・プラスとファミリー・プロムスの冊子
(1)
プロムス・イントロ(31回)
当日のコンサートの作曲家、指揮者、ソリスト、楽器、テーマなどに焦点をあて、彼らもしくは専門家(学者や、ダンス音楽&振付家、アルペン・シンフォニー&登山家なども)によるトーク(時に演奏つき)。

(2)
プロムス・フィルム(8)
音楽に関する映画、ドキュメンタリーなどの上映。(『雨に唄えば』『イギリス音楽の誕生』他)

(3)
プロムス・作曲家の肖像(4)
その日のプロムスで初演される作曲家を招き、作品と話を聞く。

プロムス・プラスに参加する子どもたち
プロムス・プラスに参加する子どもたち
(4)
プロムス・文学フェスティバル(16)
作家、哲学者、歴史学者、役者を迎え、同時代の文学など、音楽を取り巻く文化・文学世界を探る。

(5)
ファミリー・ミュージック・イントロ(7)
子どもが家族と一緒に楽しくメインコンサートについて探り、音楽家と出会う。自分の楽器を持参して参加も可能。(7歳以上対象)
7/25(土)イギリスの作曲家をテーマに、ロンドンから惑星まで旅をする。
7/27(月)ダンス音楽をテーマにチェコ、ロシア、ハンガリーの曲を。ダンスシューズ持参OK。
8/8(土)ナショナル・ユース・オーケストラによる10代の子たちが作った曲を演奏。
8/9(日)マルチプル・ピアノ・デー。6人のピアニストで複数のピアノ演奏について探る。
8/10(月)音楽の背後に隠れた伝説、神話、おとぎ話を聴く。
8/30(日)メインコンサートで聴くコンチェルト、展覧会の絵についてのイントロ。
8/31(月)メインコンサートで聴くバレエ音楽などについてのイントロ。
プロムス・ファミリー・オーケストラの様子
プロムス・ファミリー・オーケストラの様子


(6)
プロムス・ファミリー・オーケストラ(5)
子どもから大人まで、能力に関係なく家族が好きな楽器を持ち寄ってオーケストラで一緒に演奏をする。ワークショップとコンサート。(7歳以上対象)

―次回はいよいよ「マルチプル・ピアノ・デー」の様子をレポート!

取材・執筆 二子千草

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