ピアノ連弾 2台ピアノの世界

第13回 ヴラスチミル・レイセクの2台ピアノ作品(上)

2010/03/05

皆さんはチェコの音楽と言えば何を思い浮かべるでしょうか。

まず、ドヴォルザークスメタナの名前は、誰もが挙げることと思います。最近では、ヤナーチェクもすっかり人気作曲家の仲間入りを果たしたようです。ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」は日本でもよく演奏されていますし、先日などは、歌劇「利口な女狐の物語」のパリ・オペラ座での公演の模様が日本のテレビで放映されていたほどです。この三人の作曲家に、20世紀チェコを代表する作曲家ボフスラフ・マルチヌーを加えて、一般に「チェコの四大作曲家」などと言われることがあります。この四人の作曲家がそれぞれにピアノへの関わりも深く、特にピアノデュオの分野にも重要な名作を書いていることは興味深い事実です。

チェコがピアノデュオ作品の宝庫であることは、私たちもかねてより着目してきたところで、2005年10月に開催したコンサート「秋のプラハ」では、古典派の時代にまでさかのぼり、この地方にゆかりのある作曲家・音楽を時代順に取り上げました。古典派からはボヘミア出身の二人の作曲家、クルムフォルツ(またはクルンプホルツ)とデュセック(またはドゥシーク、ソナチネアルバムで有名)の作品を、ロマン派からはR. N. C. ボクサの編曲した「ボヘミア修道士会 愛唱歌集」を、現代曲からはマルチヌーの珠玉の掌編(「三本の手のための小品」と未出版作品「2台のピアノのための即興曲」)を弾き、最後はマルチヌーの名作「2台のピアノのための3つのチェコ舞曲」で締めくくりとしました。ピアノデュオの伝統がチェコで脈々と受け継がれていることを実感したコンサートでした。

その後も私たちは、チェコ音楽には高い関心を寄せ、特にピアノデュオの未知の名曲との出合いを強く念願してきました。それだけに、現代チェコの作曲家ヴラスチミル・レイセクのピアノデュオ作品と出合ったこと、さらには、チェコの方々の御厚意に支えられ、2010年1月16日に「ヴラスチミル・レイセクの世界」というコンサートに結実させることが出来たことは本当に幸運であったと思います。本稿では、作曲家ヴラスチミル・レイセク(Vlastimil Lejsek, 1927- )と、その魅力的な作品群を皆さまにご紹介致します。コンサートにお越しにならなかった方々にも、レイセク氏の存在を広く知っていただく契機となれば幸いです。

ヴラスチミル・レイセク氏は、現代チェコを代表する作曲家・ピアニストとして長く活躍され、82歳の現在も御壮健で活動を続けていらっしゃいます。レイセク氏はチェコのブルノの生まれで、現在も同地にお住まいです。私たちがコンサートの開催を思い立ち、レイセクご夫妻にお知らせをするためにチェコの音楽関係諸機関に問合せを出したところ、幸いにも多くの方々が懇切にご回答を寄せてくださり、レイセク氏が長く教鞭を執られていたヤナーチェク音楽院(ブルノ)に連絡をとることができました。同音楽院のマグダレーナ・スピルコーヴァさんの親身なご尽力により、私たちの企画に対し、レイセクご夫妻からじきじきのご承諾を戴くことが出来ました。さらに、光栄にも、貴重なお写真を御提供下さり、コンサートへのメッセージまでもお寄せ下さったのです。

チェコの人々とのこのような交流を通じ、ブルノという町は、私たちにとって印象深い、忘れられない地名になりました。日本人にはなじみの薄い地名ですが、ブルノは首都プラハに次ぐチェコ第二の都市です。プラハを擁するチェコ西部はボヘミア地方、いっぽう、ブルノを中心とするチェコ東部はモラヴィア地方と呼ばれます。距離的にもウィーンに近いブルノは、古くから成熟した文化の町として知られています。実際、レイセク氏の音楽に接すると、プラハとは異なるブルノ特有の気質がレイセク氏の作風に強い影響を及ぼしていることが感じられます。

ノーベル賞作家・詩人のヤロスラフ・サイフェルトは「この世の美しきものすべて」の中で「1921年の頃プラハは大きな田舎、ブルノは『小さな都会』と言われていた」と記しています。当時からすでにジャズが演奏されるなど最先端の流行がいち早く取り入れられる、音楽の盛んな町であったことがわかります。「存在の耐えられない軽さ」の有名な著者、ミラン・クンデラもまたブルノの生まれで、彼の父親のルードヴィクはヤナーチェクに師事し、のちにヤナーチェク音楽院の院長も務めました。幼少より音楽に親しんだクンデラには、小説だけではなく、「裏切られた遺言」など、音楽に言及した評論もあります。このように、ブルノの音楽的な土壌は非常に豊かなものがあるのです。

東欧を代表する名門、ヤナーチェク音楽院は、その名の通り1882年にヤナーチェクがブルノに創立したオルガン学校が元になっています。いかにも音楽学校らしく、敷地の三方は「ベートーヴェン通り」「モーツァルト通り」「ドヴォルザーク通り」と作曲家の名前を冠した通りに囲まれています。ちなみに、残り一つの通りは「イエズツカー通り」。これは「イエズス会士」を意味する・・・とは、先だってチェコ大使館の日本人職員の方が私たちに御教示下さったことです。いずれにしても、レイセク氏の都会的で洗練された感覚が、ブルノに生まれ育つうちに自然に培われたものであることは確かなことと言えそうです。(文:グループPCC

<ヴラスチミル・レイセクの2台ピアノ作品(下)に続く>


動画
LEJSEK BRAZILIAN DANCES III : ALLEGRO
LEJSEK TOCCATA IN MEMORIAM PROF. FR. SCHAFER -2 PIANOS-
LEJSEK SONATA III : VIVACE -2 PIANOS-

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