海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

ロシアのピアノ教育から学べること(4)イメージを膨らませて―幼児音楽プログラム

2015/07/17
ロシアのピアノ教育から学べること
No.4:イメージを膨らませて
―音楽と身体表現①
~幼児音楽教育プログラム

今年はチャイコフスキー生誕175周年にあたる。それを記念して、チャイコフスキーまたはその作品をテーマに、児童・学生絵画コンテストが開催された。受賞作品はどれも色彩豊かで力作(!)なので、ぜひご覧頂きたい。

バレエやオペラが盛んで、音楽性豊かな演奏家が多いロシアでは、小さい頃から音楽と身体の動きが自然に結びついているように思える。今回その一端を見ることができた。



モスクワ市内中心部にあるプロコフィエフ博物館では、週末に子ども向けの音楽教育プログラムが行われている。この博物館は作曲家が晩年住んだ場所でもあり、書斎が当時のままで残されている。アップライトピアノ、楽譜、机、タイプライター、眼鏡、旅行鞄・・・一つ一つの存在が、確かにそこで作曲家が生きていたことを感じさせる(写真は下欄)。

今回は6月最終日曜日に行われた『シンデレラとガラスの靴』を取材した。参加者は5人のお子さんと赤ちゃん。まず書斎に集まって作曲家のライフスタイルについて説明(解説はすべてロシア語なので詳細が分からず・・残念!)。次はピアノの周りに集まってプロコフィエフの「子供の音楽」から演奏。子どもたちは興味深々な様子で耳を傾けていた。

今度は2階にあるコンサートホールに移動。バレエ『シンデレラ』についての説明のあと、音楽を聴きながら、子どもたちがバレエを踊るように思い思いに身体を動かす。腕を優雅に動かして踊っている女の子や、小さな男の子が先生と手を繋いでダンスをしている姿などはとってもキュート!こうやって女性のリードの仕方を覚えていくのだろうか。(ちなみにロシアで重いスーツケースを持って階段を上ろうとすると、必ず老若問わず男性が手を貸してくれたのが印象的だった)。

そして最後は折り紙で魔法のガラス靴を創るワークショップへ。あらかじめ折り目が書かれてあり、それに沿って折り、色鉛筆で絵を描くと・・女の子憧れのマイ・シューズの出来上がり!ピアノとチェロを習っているという可愛いご姉妹が、手作りの靴を持ってにっこりしてくれた。

同博物館員によれば、「古典的なアートと現代アートとの違いを子どもに理解してもらったり、音楽と詩を組み合わせたり、何かオブジェクトを創ったり、絵を描いたり、バレエを踊ったり、色々な芸術分野を結び付けながら、アート体験をしてもらっています」とのこと。

他の美術館や博物館でも、作品を鑑賞するだけでなく、何かを創ったり踊ったり、身体を動かしながら芸術の世界を体験するワークショップを取り入れている。クリーブランド美術館(米)では、絵画の登場人物がどんな会話をしているのかを想像させる、という面白いアクティビティがある。フランスも音楽・芸術教育プログラムはとても盛んだ(参考:『パリ管の子供プログラム--ロシア音楽のパノラマ』『「感」から「知」に変える音楽の聴き方』

音楽に合わせてのびやかに身体を動かすことから、芸術体験の一歩が始まる。楽器を弾いていても自分の内側から自然に音楽がにじみ出てくる感覚は、このような簡単なアクティビティから始まるのかもしれない。

こちらがプロコフィエフの書斎。手前右にはベヒシュタインのアップライトピアノがある。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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