会員・会友レポート

ピリオド楽器に親しむ 第二回 ~現代のピアノ学習者にとっての有用性

2018/09/21
ピリオド楽器に親しむ
■ 第二回 ~現代のピアノ学習者にとっての有用性

日時:2018年7月20日(金)~22(日)
会場:さいたま市プラザウエスト

フォルテピアノ・アカデミー(2)

前回の記事では、フォルテピアノ・アカデミーに登場した楽器の紹介とフォルテピアノ演奏の特色についてレポートした。今回は、モダン演奏におけるフォルテピアノの有用性とフォルテピアノの今後の普及について考えてみたい。

1.
レッスン風景(2)フォルテピアノからモダンの演奏を見直す

前回は、フォルテピアノとモダン・ピアノの演奏の違いについてまとめたが、今回は、モダン学習者におけるフォルテピアノ演奏の有用性について考えてみたい。

 フォルテピアノの演奏は、普段の自分のモダン・ピアノの演奏を見直す機会にもなり得る。受講生の中には、脱力をしようと腕を過度に動かしてしまう癖を持つ受講者がいた。小倉氏は、その演奏方法ではフォルテピアノで豊かな響きを得ることは出来ないと指摘した。フォルテピアノは、堅牢なつくりを持ち大きな音(その質はさまざまであるが)が出しやすいモダン・ピアノに比べると、鉄骨フレームを持たないため、大きな音を出す際にも繊細さが要求される。身体的な動作がよりダイレクトに音の質を決定する。フォルテピアノの演奏で明らかになった自分の癖を、モダン・ピアノでも矯正し、フォルテピアノのようにより繊細な響きを追求することは、モダンの演奏の質を高めることにもつながるだろう。

ブロードウッドでのレッスン風景 ブロードウッドでのレッスン風景
2.
コンサートフォルテピアノ演奏の愉しみ

開催中の3日間には、会場の鍵盤楽器を使用したコンサートも開催された。初日のオープニングコンサートでは、小倉氏がヴィーン式のフォルテピアノでハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタを、クラヴィコードでC. Ph. E. バッハの〈わがジルバーマン・クラヴィーアとの別れのロンド〉Wq. 66を演奏した。演奏に先立って小倉氏は、各楽器の特徴や、それぞれの楽器と作曲家がいかに密接な関係にあったのかについて語った。作曲家は、所有する楽器からインスピレーションを受けて曲を作る。そのため、作曲家は楽器の性能(音域やダンパー装置)や音色の特色を生かすことのできるような楽曲を作るのだ。その顕著な例として、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ〈幻想曲風ソナタ〉(通称「月光」)Op. 27-2が挙げられる。この曲の冒頭には「ソルディーノ(今日のダンパー)なしで」と書かれている。小倉氏はヴィーン式のヴァルターで、実際に膝レバーでダンパー装置を上げた状態で演奏した。もちろん、現代のピアノでは不協和音で音が濁ってしまうが、フォルテピアノの演奏では音の緩やかな反響とそれらの音が微妙に溶け合い、まさしく幻想的な雰囲気を醸し出す。

2日目はコンサートが2回行われた。ランチタイムには小倉氏の門弟がブロードウッドのスクエア・ピアノを用いて、独奏ソナタと歌曲を披露した。ヴィーン式は軽やかな音色が特徴的だが、イギリス式のピアノは、より重厚な響きに魅力がある。ダンパー装置が付いていながらも、モダン・ピアノとは違って残響音が持続することで得られるその効果は、特に歌曲で歌手の旋律を支える伴奏のバス音に顕著に表れていた。

ブロードウッドの伴奏によるハイドンの声楽曲の演奏 ブロードウッドの伴奏によるハイドンの声楽曲の演奏

夕べには「我こそがピアノの発明者!コンサート」と題され、クリストーフォリ、クラヴィシンバルム、タンゲンテンフリューゲルが演奏された。これら三台の楽器を復元した久保田彰氏をゲストに迎え、楽器を復元する際の苦労や工夫をうかがう。特に、クラヴィシンバルムについては、15世紀の図面は残っているものの、それが実際に作成されたのかは不明で、楽器も現存しない。その図面を解読して復元楽器を製作した久保田氏は、図面通りに作ると、(打弦の場合)弦の張力に耐えられず、鉄骨などの支えがないために楽器はすぐに壊れたのではないか、と推測した。久保田氏の復元モデルには鉄骨が組み込まれているという。

小倉氏、久保田氏の対話からは、楽器の構造や性能に対する理解がフォルテピアノを演奏する際に必要不可欠となるだけではなく、フォルテピアノの演奏を聴くための手助けでもあることが暗に示されたと言える。

小倉氏と久保田氏による楽器の解説 小倉氏と久保田氏による楽器の解説
久保田氏製作のクラヴィシンバルムで「ファエンツァ写本」よりグローリアの演奏 久保田氏製作のクラヴィシンバルムで「ファエンツァ写本」よりグローリアの演奏
3.
フォルテピアノの普及は今後どうなるのか?

近年、フォルテピアノを始めとするピリオド楽器への関心は高まりつつある。それは、ショパン国際ピアノコンクールを主催しているポーランド国立ショパン研究所(NIFC)が来る2018年9月に第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールを開催する運びとなったことにもみることができる。しかしながら、ピリオド楽器の普及はコピー楽器(ピリオド楽器を複製したもの)を含めて考えても容易ではない。そもそも18・19世紀から現存し、演奏可能な楽器の台数は限られて入手が困難なほか、コピー楽器は経験を積んだ職人によって製作されるため、膨大なコストがかかる。メンテナンスにも専門的な知識を要するため、モダン・ピアノのような手軽さはない。加えて、フォルテピアノの演奏経験をもち、指導できる教師の数も限定されている。これらの観点からみれば、フォルテピアノの普及はモダン・ピアノに比べて現実的に難しいといえよう。

では、フォルテピアノの音に親しみ、楽しむ機会を増やすことは本当に不可能なのだろうか。今回のアカデミーはまさに、普段触れることの難しいフォルテピアノを身近に感じさせることに一石を投じたといえよう。楽器、専門家の指導を学習者が自ら手配するとなれば費用も手間もかかるが、それをアカデミーとして開講したことで受講生はフォルテピアノにより気軽に親しむことができる。それに加えて、公開レッスンの聴講やコンサートの際の解説は、聴衆はフォルテピアノ演奏の聴き方や楽しみ方を知る良い機会となった。フォルテピアノの普及は、単にフォルテピアノの演奏者人口を増やすことだけではない。モダン・ピアノの実践者が、自身の演奏を見つめなおす機会にもなるうえ、演奏の聴き方、楽しみ方を知っている聴衆の育成や増加にも重要な意味を持つだろう。

アカデミーのこの新しい試みが回を重ね、日本におけるフォルテピアノの普及の一翼を担う存在となることを願いたい。

執筆:今関汐里


ピティナ編集部
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