ルイのピアノ生活

第34回 ドイツの森/曲:シューマン「ノヴェレッテ」第8番

2006/11/19
♪ 演奏
シューマン「ノヴェレッテ」第8番  動画 前半:(9,34s)  後半:(5,13s)
 

もう大分寒くなりましたね!
私はこの季節が大好きです。木が赤や黄色に染まる紅葉のピークよりも、その葉が枝を離れて落ちる、この季節が大好きです。少し湿った葉っぱを踏みしめて歩く柔らかい感触。ふと見上げると木の上にある枝がとても寂しく見えます。道が黄色くなって。葉が香ります。口からは白い息。手袋をする?まだ?・・秋と冬の間の時期。

子供の頃、家族でよくドイツの田舎に行きました。晩秋のドイツの森の美しさは格別で、まだ寒さも耐え切れない程ではないので散策にはぴったりです。日も落ちて少し薄暗くなると古いレストランに行って、その時期だけの特別なジビエ料理(猪や鹿、キジなどの肉や木の実を使った料理)の食事を愉しんだものです。小さい四角い窓を見ると、真っ黒な木立ちが大きな人影のようにボーっと浮かびさっきまで歩いていた森がとても恐ろしく見えます。でも中はとても温かいです。蒔の暖炉の前で、お父さんが細長いグラスでドイツのビールを楽しんでいる。お母さんはいつも丸い緑のボトルに入ったドイツのフランケンワイン。そんな時決まって、姉と私が飲むのはJohannesbeerensaft(黒すぐりのジュース)でした。冷たかった指先も暖炉の火ですっかり温まり、今はほてって真っ赤になった頬に、冷たくて甘酸っぱい香りはまるでその日一日歩いたご褒美のようでした。少し辛い思い出もありました。一日中外に居て、自然の中をたくさん歩いて・・いい空気を吸って・・美味しい物を食べてからまだ7時か8時頃なのに両親は「もう眠いので寝ましょう!」と言います。それは問題ありませんが、キャンピングカーはスペースの問題上、3人しか泊まれず、父は「教育の為に」、私には外の小さなテントに泊まるように言います。しかしその寒い事!夜中には気温も零下になってしまいます。「寒いけど、強い男になる為だよ」と言われ、父が二十歳の頃軍隊で(オランダでは兵役義務がありました)使っていた薄い寝袋を渡されました。夜7時頃、まだ全然眠くない時間に寒い外にあるテントに行って、湯たんぽを持って、冷たい寝袋に入りました。その頃好きだった音楽、シューマンの歌曲を心の中で歌いつつ、一生懸命眠りにつこうとするのですが、早いから眠れないのか、寒すぎて眠れないのか分からないですが、そのドイツの夜はすごく長く感じました。しかも夜にお姉ちゃんと両親が温かい車中でまだ楽しそうな話をしたり、紅茶を飲んだりしているのが幻影のように見え、寒さと寂しさの中やっとうとうと・・・。朝の霞の中で目を覚まし・・・まだ生きている!と一応安心しますが、時計を見ますとまだ4時半です!湯たんぽも氷のように冷たくなっています。皆がいる中に入ろうとすると・・何故か鍵が閉まっている!トイレに行きたいのに・・・。

あの時は本当に辛かったし、強い男になれたかどうかわかりませんが、毎年のドイツの田舎はすごく良い思い出になってしまいました。今でもピアノを弾きながら、時々思い出します。特にシューマンを弾く時に。

何週間前、ある生徒と部屋が空くまで洗足学園音楽大学のキャンパスの外のベンチに座っていました。(洗足学園音楽大学の綺麗なキャンパスは毎週テレビで見られます!ドラマ「のだめカンタービレ」のロケーションは洗足です)そこで自然からもらえるインスピレーションの事について話しました。毎日鍵盤ばかりを見て練習しますと、よくない事もあるのです。たまには自然のある所に出かけて行って見てください。太陽を浴びて、風を顔に受けて、木の葉っぱが風で踊っているのを見て、空を飛ぶ鳥の動きを見ながら今弾いている曲を頭の中で歌うと、音楽の解釈が変わると思います。というか、音楽にも生命がある事に気づくのです。ある難しいフレーズを毎日指を見ながら練習をしますと、どうしても機械的になる恐れがありますが、外へ出てその同じフレーズを歌って、風に乗せますと、旋律が風と一緒に枝の葉っぱをなでたり、鳥と一緒に浮かんだり・・・音楽を自然に感じられるようになると思います。「ようになる」というより「自然に戻る」と言った方が良いかも知れません。私は自然の中にいると「自分」に戻れるように感じます。都会の溢れるような物に圧倒されることや音に煩わされることも、他の人からの影響も無く、本当に自分が感じている事に戻れると思います。音楽が自然,の一部、もっと大きく宇宙の一部と考えれば、どんな難曲でも「簡単に」又は「自然に」感じられると思います。

私はよく公園へ出かけて自然と、音楽と、戯れます。是非ピアノを勉強している方も、今弾いている曲を自然の中で歌ってみてはどうでしょうか。きっと自分らしい演奏になると思います!

それでは、また!

ルイ・レーリンク



ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

【GoogleAdsense】
ホーム > ルイのピアノ生活 > 連載> 第34回 ドイツの森...