ルイのピアノ生活

第24回 幸せなレッスン室/曲:シューマン「子供の情景」(8-13)

2006/06/13
♪ 演奏
シューマン「子供情景」(8-13)  動画 動画:(8,45s)
 

僕の通っていた音楽院は、アムステルダムの街の中心にありました。あの有名なコンセルトへボー・オーケストラのコンサートホールやレンブラントの作品で知られる国立美術館、ゴッホ美術館にも歩いて数分という自慢の環境。公園もすぐそばで、アムステルダムの中でも、特に芸術的で雰囲気のある一角にありました。音楽院自体がまるで博物館のような、重々しい歴史を感じさせる四階建の大きな古い建物でした。

朝8時になるとひとり、ふたり、と学校の扉の前に並びはじめます。学校が開くのは8時半ごろですが、まじめな生徒たち、どうしても学校で練習したい生徒達が外に並んで練習室を確保するためで、だいたい20人ぐらいの列になります。夏はいいですが、冬はまだ薄暗く、すごい寒さですからかなり大変。みんな半分凍りながら待っていました!でもせっかく予約した部屋も先生の都合ではやくレッスンが始まる時など弾き始め20分で追い出される?事もあり、また「スタートに戻って」並びなおしたり・・でもそこまで一生懸命に取った部屋だと、さすがに練習も真剣!夜も11時まで練習が可能でしたので、一日のほとんどを学校で過ごし家は寝るために帰るだけ、という生徒も多く居たと思います。

僕の生徒の話をきくと、日本の音楽学校もどうやら同じですね。ある高校生の子はなんと毎日朝4時半に起きて学校へ行き、5時半ごろから学校の始まる3時間ぐらいずっとさらっているみたいです!そんなに朝早くから開いている学校もすごいですが、根性で練習に通う子たちも尊敬です・・そのかわり夜は9時頃には眠くなると言っていましたが。

僕の先生のレッスン室があったのは、学校の2階の一番いい場所。中庭に面した静かな部屋で、真ん中に美しいべヒシュタインとスタインウェイ、隅には心地よいふかふかの深い緑色のソファーと先生自身が毎日手入れをしている大きな植物、バッハ やモーツァルト の直筆譜が譜面台にさりげなく飾ってありました。壁にはきれいなパステル色の絵の他、先生自身や生徒たちの演奏会での写真。部屋はいつもきちんと整頓されそこに一歩足を踏み入れると、どこか神聖な?ちょっとした「癒しの間」のような心の落ち着く空間でした。通常レッスンは緊張するものですが、この先生のレッスン室には緊張とは程遠い空気がありました。 先生は、自分のレッスンが無い時は、この部屋を生徒達に開放してくれてここで練習できる時は、まるで部屋の持ち主になったように窓から中庭の緑を眺めながら、すごくいい気分で「演奏」することができる、特別な場所でした。

しかし、こんな幸運なレッスン室ばかりではありません。ある学校を見学した時のこと。そこは練習室も少ないのでしょう、部屋を取れなかった生徒達が廊下にあふれそれぞれの楽器で周りの音をかき消すような、それは大きな音で練習していました。部屋に入ると、床には大きなシミ、壁は一部はがれ、何だか変なにおいがしました。ピアノの状態も最悪で、外側もどうしたらこんな傷がつくのだろうと不思議なほど、ボロボロ。この部屋で練習するとどんな演奏になるのでしょうか。前の先生の部屋の演奏と同じものになるのでしょうか

ピアノに限らず、楽器を奏でるのはとても繊細な事だと思います。楽器に接している時は神経が敏感になっているので、その周りの雰囲気に影響を受けやすいと思います。例えばすごく集中して練習している時、部屋に突然誰かが入って来たり、音が聞こえたりするとすごくびっくりしますね。だから演奏中に目に入るもの、空気、周囲のすべてが大切なのだと思います。水晶をまわりに置いて練習をしているピアニストもいると聴きます。ある著名な先生のレッスン室は、楽譜の山やら灰皿があってなんとなく乱雑でしたが、自分の好きな物に囲まれて独特の雰囲気を出していました。誰もが恵まれた環境で練習できるわけではありませんができるだけ自分が音楽を感じられる状態にする、ということが大事なのだと思います。大切な音楽のために。よい気分で音を出したり聴いたりするために。

僕が主にレッスンする部屋には、巨匠といわれたピアニストや音楽家たちの写真が飾ってあります。練習する時は歴代の大音楽家たちの視線に、ちょっと緊張しながら?弾く事もありますが何だか自分の音楽を見守ってくれているようにも感じます。 さて、生徒さんはどう感じているでしょうか。

それでは、また!

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

【GoogleAdsense】
ホーム > ルイのピアノ生活 > 連載> 第24回 幸せなレッ...