ルイのピアノ生活

第02回 Nocturne/曲:ノクターン第20番「遺作」 

2005/07/19
♪ 演奏
ショパン:ノクターン第20番「遺作」, 嬰ハ短調 動画 動画(4,18s)
 
ショパン/1838年(ドラクロア作)

僕のおじいさんは作曲家、指揮者兼ピアニストでした。
おじいちゃんは僕の生まれる前に亡くなったけれど、子供の頃よくおばあちゃんの家にあそびに行った。
そこには大きなグランドピアノがあった。おじいちゃんが亡くなってから、鍵盤のふたはいつも閉まっていて、「絶対空けちゃだめよ!」とよく言われたが・・・やっぱり言われたら余計に見たいですね! ふたの下にどんな物があるかな?
そして、いつか我慢できなくて、開けました。古い手作りの鍵盤カバーを取ると、その下に黄色くなって、少し曲がった88鍵の象牙の鍵盤がありました!なんと、不思議な物だ。
その時に、おばあちゃんが部屋に入って来た。怒られるっと思ったが、「優しく触れば良い音が出るよ」と言われた。その時にわかりました。ピアノを大好きなペットのようになでれば、ピアノの音も優しくなるんだ!
そして、初めて鍵盤を触ると・・・なんと美しくて魔法みたいな音がピアノから出ました。

30年後でも、私がこの事をよく思い出します。
毎朝、起きてから、パジャマのままで、ピアノの前に座って練習をします。楽譜を見ますと、考えずに指が動いてしまって、ショパン の音楽が出て来ます。
しかし、当たり前になってしまって「ピアノがあってよかった!」
「音を聴けてうれしい!」と気が付かない時もあります。
その時に、おばあちゃんが言ってくれた事を思い出します。
初めて鍵盤を触ってピアノの音を聴いた時の感動を、毎朝思い出そうとしています。おばあちゃんはきっとピアノに優しく接する事と一緒に、物を大切にする心を伝えたかったのでしょう。

「大切」という気持ちでピアノを見て、音を聴くと心の中は感謝の気持ちでいっぱいになります。ピアノが部屋に置いてある事は当たり前の事ではないですよね。ピアノの音を聴く事ができるのも、当たり前の事ではありません。でも、それを忘れる時もありますね。

タンポポ

外を歩きますと、当たり前にあるから、その存在に気が付かない物がたくさんあります。
例えば道端にある「タンポポ」をよく見ますと、なんともかわいらしいですね。その色と形、香りや美しさは本当に感動的です。
しかし、毎日見ますから、感動の気持ちは段々どこかに行ってしまいます。

芸術では、当たり前にある物、シンプルのもの美しさをもう一度発見して、その美しさを表現する事が多いです。
ものすごい美しい夕暮れより、水の上に小さな漁船の絵。大自然の中の立派な滝より、小さなお花の絵。美人の絵より、夫の帰りを待って、窓の外を見つめている奥さんの絵。

今日、このページに入れたショパンのノクターン の旋律を聴いて見ましょう。
最初は:ド・シ・ラ・ソ・ファ・ソで始まる。なんとシンプルで美しい旋律。とてもショパンの気持ちの入っているメロディだ。
なかなか言葉で言えなかった気持ちを込めているのでしょうか。

音楽も同じです。

カメラの発明者:フランスのダゲール:
パリの風景(写真)
"Boulevard du Temple"/1838年

このノクターンは遺作となっていますが、1830年作曲された曲です。
ショパンが19歳の時に書いたが、彼はあまり良い作品と思わなかったので、ショパンが生きている間に出版されなかった。

1830年の時に、ショパンの国ポーランドは侵略されて、ロシアとプロシア(独)とオーストリアに分けられた。その3つの帝国は、ポーランドの文化を壊そうとしていた。芸術家や音楽家や作家は暗殺された事もあって、ポーランド語は禁じられていました。
ショパンは、その大変な状況から逃げて海外に行った。
この曲は、外国にいる、若い10代の少年のショパンの気持ちを語っていると思います。さびしい気持ち、ホームシックな気持ちや、怒りや不安の気持ちなどがこの曲の中に込められている。
ピアノに座って、母国のポーランドが恋しくなったショパンが、外の誰も知らない町パリの風景を見ながらこの曲を考えていたかしら?

この「手に届かない物を欲しがる」という気持ちはとてもロマン派らしいテーマです。「会えない人会いたい・・行けない所に行きたい・・戻れない時に戻りたい」。
シューマン の子供の情景 にある「夢」(トロイメライ)の曲:無邪気の気持ちを持っていた子供頃に戻りたい大人の願い・・
もう一生会えない好きな女性に、あともう一度会える夢を見ているリスト の「愛の夢」 の曲に、このロマン派の気持ちがたくさん入っています。
そして、作曲家たちは音楽を使ってこのとても辛い現実から逃げていた。
夢の別世界の方に・・・

人の前で演奏をする事が嫌いだったショパンの気持ち少しわかりますね。大きな声で皆に伝えるより、自分の心に語りかけたかったのでしょうか?大声で派手な事を言うより、小さな声で、タンポポのような小さい事を言っています。ショパンの全ての「夜想曲」はこの親密な気持ちを表しています。

ピアノって素晴らしい楽器です。人間の気持ちを大切するように、ピアノも大切にしますと、音楽がその気持ちに答えてくれる。素晴らしい物がピアノから絶対に出て来ます!
おばあちゃん、ありがとう!

それでは、また!

ルイ・レーリンク


皆さんも、楽しく気持ちよくピアノを弾いて下さい。少し辛い時でも、きっとどこかに「インスピレーション」を見つける事ができます。意外な所から出てくる事もありますので、楽しみして下さい。

今回このビデオに使った「ベヒシュタイン」というピアノの音は、弾いてからふわっと楽器から離れて、部屋の中に気持ちよく響いたり、他の音と混ざったりして、まるでピアノで絵を描いているみたい。これで、ドビュッシーがベヒシュタインが大好きだったのは良く分かります。


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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