ルイのピアノ生活

第01回 インスピレーション/ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」

2005/07/05
♪ 演奏
ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」動画 動画(2,59s)
 
グレゴリウス法王

面白い伝説があります。

クラシック音楽の元になっている、中世の時に書かれた聖歌は、グレゴリウス法王が全部作ったという伝説があります。神様から送られた鳩(聖霊)が法王様を訪ねてきて、彼の右肩に座って、全部の旋律をグレゴリウスの耳に囁く。この神様からもらった旋律が教会の聖歌になって、クラシック音楽の元になりました。バッハ 、モーツァルト やベートーヴェン などの音楽の中にも、よくこの神様の「声」を聴く事ができます。彼らも、作曲をしていた時に、このように神様から「インスピレーション」をもらっていたかしら?

作曲家たちだけではなく・・・

ピアノを弾くのにも「インスピレーション」が必要な時があります。私にとって、ピアノを弾く時に、音を出す前にその音を想像するのはとても大事です。他の楽器と違って、音を作らずに、鍵盤を押せば音が出てくるので、ピアノは最も機械的な演奏になりやすい楽器です。だから、例えば先生は、はじめてのレッスンで生徒に「楽譜に♪ドと書いてあるから、この鍵盤を押しましょう」と言うより、♪ドを弾く前に「どんな風に弾きましょう・・大きく・小さく・悲しく・元気に」など、音をイメージさせると、機械的な♪ドではなくて、人間的なドになります。このように、自分の気持ちを込めて弾けば(一音でもいいです)、ピアノの表現の可能性が段々広がって来て、音楽はどんどん楽しくなってくる。人間の心(子供も!)はとても深い物ですので、口でも言えない事をピアノで表現できるようになる。音楽は上手・下手、正しい・間違いじゃなくて、自分の気持ちを込めて弾けば、本当の芸術になります。

ルノアール

私は絵を見るのがとても好きです。

そして、今回ここで紹介する曲、ドビュッシー の「亜麻色の髪の乙女」 という曲を、絵を見ながら弾くのが大好きです。このタイトルは、いろいろ考えさせてくれないですか?どんな女の子か?彼女は何をしているか?どこにいるか?答えより、質問の方が多いでしょう?でも、これはとてもドビュッシーらしいですよね。はっきりしたイメージより、何かの印象を与えてくれる。当時の絵から「インスピレーション」はもらえるでしょうか。この2人の少女の顔は見えません。悲しい顔をしているでしょうか?幸せな顔をしているでしょうか?何をしているかな?どこにいるかな?はっきり分からないですよね。しかし、雰囲気が伝わってくるよね。こんなふうに考えながらピアノを弾くのは、上手に・間違えないで弾くより、ずっと楽しいと思います。ピアノを使って別世界に入り込んで、美しい物を探したり、見たり、まるで旅のようです。

私の故郷は、オランダのアムステルダムです。そして、僕が行っていた音大は、色々な素晴らしい美術館に囲まられている。アムステルダム国立美術館、ゴッホ美術館、アムステルダム私立美術館など。ピアノの練習より、美術館に行って、色々なの絵を見るのは大好きだった!例えば:「りんご」・・・画家によって、描き方は様々。画家の見方や表現仕方によって、同じ「りんご」でも、色々な表し方があります。ピアノ演奏も同じだと思います。同じ楽譜でも、様々な表し方があります。子供にお父さんを描いてもらった時、お父さんの髪の毛が紫色だ!失敗だ!と言っている人はあんまりいないと思う。お父さんを見て、子供が自由に、好きなように、楽しく絵を描きます。そうすると、自分らしい絵になります。しかし、音楽になると、いきなり変わりますよね。正しく、ちゃんと、しっかり弾かないと:だめ!

ルノアール

素晴らしい芸術の作品には、立体感があります。見る角度によって、見える物が変わります。毎回違う物が見えてくるから、いくら見ても飽きません。奥が深い作品ですので!音楽も表面だけを見ますと1つの見方しかないです。1つしか見えてくる物が無い。この「基準」から離れますと、失敗と思われてしまう。素晴らしい作品を残したルノアールのような印象派の画家たちも、当時の「基準」から離れていたので、評論家たちに「描けない」と言われていた!

「基準」から離れるには、インスピレーションが必要です。皆が見ている物と違って、自分しか見えない物を探しましょう。ピアノという楽器は世界を広げるためにあります。ピアノは、冒険するアラジンの「魔法のじゅうたん」。きっと色々な場所へ連れて行ってくれますよ。

結局、芸術にとって「結果」はどうでもいいじゃないかな・・・。美しい物を見て、感動するのが、一番だと思います。だからこそ、私は日本や日本の文化が大好きです。

グレゴリウス法王に尋ねて来た、鳩の形になった、神様の聖霊は時々こちらにも来てほしいな!鳩が私たちの耳に何を囁くかな・・・・・?

それでは、また!

ルイ・レーリンク


皆さんも、楽しく気持ちよくピアノを弾いて下さい。少し辛い時でも、きっとどこかに「インスピレーション」を見つける事ができます。意外な所から出てくる事もありますので、楽しみして下さい。

今回このビデオに使った「ベヒシュタイン」というピアノの音は、弾いてからふわっと楽器から離れて、部屋の中に気持ちよく響いたり、他の音と混ざったりして、まるでピアノで絵を描いているみたい。これで、ドビュッシーがベヒシュタインが大好きだったのは良く分かります。






ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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