海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

ヴァン・クライバーン国際コンクール(18)ファイナル結果発表&優勝者コメント

2013/06/10
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第14回ヴァン・クライバーン国際コンクール、ついに最終結果発表の時が訪れた。授賞式開式前にはヴァン・クライバーンのチャイコフスキー国際コンクール優勝時の映像が流れ、その後関係者による挨拶に続いて、いよいよ発表へ!結果は以下の通り。photo: The Cliburn

●金メダル:ワディム・ホロデンコ(右・Vadym Kholodenko, 26, Ukraine)
●銀メダル:ベアトリーチェ・ラナ(中央・Beatrice Rana, 20, Italy)
●クリスタルメダル:ショーン・チェン(左・Sean Chen, 24, United States)
●ファイナリスト(入選・アルファベット順):フェイフェイ・ドン、ニキタ・ムンドヤンツ、阪田知樹

●その他、セミファイナルまでの各賞
室内楽賞:ワディム・ホロデンコ
新曲課題曲賞:ワディム・ホロデンコ
ジョン・ジョルダーノ審査員長特別賞:スティーブン・リン(Steven Lin, 24)
審査員特別賞:アレッサンドロ・デルジャヴァン(Alessandro Deljavan, 26, Italy)
審査員特別賞:クレア・ファンチ(Clarie Huangci)
聴衆賞:ベアトリーチェ・ラナ(Beatrice Rana)


優勝したワディム・ホロデンコさんは、予選からファイナルまで聴衆に大人気で、彼がステージに登場するだけで聴衆が沸くというのが定番になっていた。会場でも彼の優勝が告げられると、一際大きな拍手喝采で迎えられた。

なお授賞式後はレセプションが行われ、2週間強にわたるコンクールが盛大に締めくくられた。最年少とは思えぬほど堂々としたステージを披露してくれた阪田知樹さんを含め、ファイナリスト6名とも最後の最後まで持てる力を出し切ったことに、あらためて拍手を贈りたい。また惜しくも入賞やファイナル進出を逃した中にも、大変素晴らしい才能を持つピアニストが何名もいた。これからもっと伸びそうだという才能も。これを機に、さらに成長と飛躍を続けてほしいと思う。


●優勝者コメント ー ワディム・ホロデンコさん

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見事に優勝を遂げたホロデンコさんは、なんとダラスに飛んでくる1日前にモスクワ音楽院修士課程を卒業したそうだ。そんなお祝い事が重なった彼は、「優勝できてとても嬉しいです。ファイナリストは皆さん素晴らしいピアニストで、それぞれ最善を尽くしたと思います」と、ステージで競演を繰り広げた他の5名を讃えた。

ここでまとめて、予選からファイナルまでの選曲について伺った。
「予選Iで弾いたラフマニノフ・ソナタ第1番はそれほど知られていませんが、素晴らしい曲なので、ぜひ知ってほしいと思って選びました。アダムズはミニマリズムが好きなので。予選IIではペトルーシュカを弾きましたが、これはテクニックを見せつける曲ではなく、まさにバレエ音楽だと感じてもらうように弾くことが私の目標でした。ベートーヴェンに関しては、今年ウクライナでソナタ全32曲を弾いたんです。セミファイナルのリスト超絶技巧練習曲は全曲を聴いて頂いて、これがテクニックだけでなく、音楽としても素晴らしいことを感じて頂きたいと思いました。

ファイナルのプロコフィエフ協奏曲第3番は、私がとても好きな曲です。モーツァルト協奏曲21番のカデンツァは自作で、モーツァルト自身のカデンツァがない場合、あるいは他の作曲家によるカデンツァがあっても満足できない場合は、自分で作曲しています。アイディアとしては、バロック時代のフーガや対位法を踏まえています。特に作曲を勉強したわけではないのですが、カデンツァはピアニストにとって作曲を経験できる、わずかで貴重なチャンスだと思うのです」。

これから3年間のマネジメント契約が結ばれるが、もし自由に演奏曲目を選べるとしたら何を弾きたい?の質問には、

「メトネルのピアノ協奏曲第2番。素晴らしい音楽です!」

ホロデンコさんはその飄々とした風情の中に、静かな闘志が宿る。これからクライバーンコンクール覇者として世界を廻ることになるが、多彩なプログラムと卓越した演奏で世界中を魅了してくれるだろう。


ところでコンクールは結果が全てではなく、今どんな教育がトレンドなのか、若い才能が芽を出すにはどうしたらよいのか、どのように曲を選び、勉強すればよいのかなど、多くを学べる場でもある。この後も引き続き審査員インタビューなどをお伝えしたい。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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