海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

選曲から分かるパーソナリティ― エリーザベト王妃国際コンクール(2)

2010/05/21

現在ファイナリストは?

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来週5月24日(月)から始まるファイナルに向けて、現在ファイナリスト12名はla Chapelle Musical Reine Elisabeth(エリーザベト王妃音楽教会)にて、新曲課題のピアノ協奏曲に取り組んでいます。携帯やPCなどの連絡手段は全て絶たれ、まさに文字通り、たった一人で新曲に対峙することになります。(*右写真は、予選・セミファイナルが行われた音楽院)

 

セミ・ファイナルでは、50分プログラムを2つ用意!

100520_program.gifさてそんな彼らが通過したセミ・ファイナル。5月10日?15日に行われた審査では、新曲1曲を含む50分のリサイタルとモーツァルト協奏曲が課題でした。多くの個性派ピアニストによる印象深い演奏が繰り広げられました。(写真は約150ページのコンクールプログラム。ずっしり重い!)

実はこのリサイタル・プログラムは、今年より2公演分用意することが義務づけられています。プログラム1か2かを審査員一人一人が選び、各自の演奏29時間前に本人に告げられます。例えば月曜日の午後3時から弾く演奏者は、前日の日曜朝10時に事務局に足を運び、どちらのプログラムか確認の上、書類にサインします。

このため両プログラムとも同等のクオリティに高めておく必要があり、大変ハードな準備が要求されます。選曲内容は1・2プロとも類似している参加者もあれば、全く異なる曲を並べて幅広いレパートリーと独創性をアピールする参加者もいました。

 

選曲から何が見えるのか?審査員、コンクール事務局長に聞く

 では、審査員はどうプログラムを評価しているのでしょうか?ご自身も演奏会で興味深いプログラムを組むアンヌ・ケフェレック先生(Prof.Anne Queffélec)にお伺いしました。
「選曲はとても重要な要素ですね。どのようにバランスよく、様々な形式の音楽で構成しているのか、どのような曲に価値を置いているのか、どの曲が特によく弾けるのか。全体のバランスも見ています。例えばラフマニノフを沢山と少しの小品といったプログラム構成はどうでしょうか・・。このようなコンクールでは、やはり全ての時代様式をバランスよく入れた方が良いと思います。それから、雰囲気のバランスも大事ですね」。

 

100520_sato.gifまた今年からこの課題に改まった理由を、コンクール事務局長ミッシェル・エティエンヌ・ヴァン・ネステ氏(Mr. Michel-Etienne Van Neste)にお伺いしました。
 「毎回コンクール終了後に審査員意見交換会を開くのですが、コンクール芸術委員からもご意見を頂く機会があり、3年前にこのリサイタル・プログラムに関する提案が出されました。(セミ・ファイナルの)リサイタルでその音楽家の全人格を表現してもらうのが面白いのではないかと。選曲の内容を見るだけでも、そのピアニストの知性や音楽家としてのパーソナリティが十分わかります。このコンクールは真の音楽家を生み出すことが目的なのですが、このセミ・ファイナル課題を通して、各ピアニストの質や感性が浮き彫りになります。またベートーヴェンやプロコフィエフのソナタといった大曲は、彼らが音楽をどう理解し、構築しているかを知る糸口になりますね。」

ではプログラムはどう選ばれているのでしょうか。「一次予選の演奏を踏まえた上で、今度はこちらの曲をきいてみたいと審査員が判断した方が採用されます。例えば一次予選でロマン派の華麗な曲が多い場合は、今度は古典を聴かせてもらおう、とか。一人の演奏者につき一人の審査員が選びますが、他の審査員にもそれでよいかご判断を仰ぎます。」

 

まさにプログラムはパーソナリティの象徴。聴衆の間でも「このピアニストは、1と2のどちらを指定されるのか、我々はどちらを聴きたいか?」と、毎日話題に上っていました。

「どのような曲を選び、組合せているのか」を2つの角度から知ることで、そのピアニストの音楽家としてのあり方を知る― これもセミ・ファイナルの醍醐味の一つです。(写真:日本人ファイナリスト佐藤卓史さんのプログラム)

 

<参考>予選の独創的な選曲・演奏が話題となった、デニス・コジュキンのセミファイナルプログラム

●プログラム1 *こちらが採用
新曲(ファシャンプ):"Back to the Sound"/ベートーヴェン:ソナタ31番/シューマン:交響的練習曲、リスト:巡礼の年第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」よりタランテラ

●プログラム2
新曲(ファシャンプ):"Back to the Sound"/ベートーヴェン:ソナタ31番/ソレール:ソナタ75、78、84、87/プロコフィエフ:ソナタ5番


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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