会員・会友レポート

スイス・ルガノ=アルゲリッチ音楽祭/恒川洋子さん

2007/06/01

Progetto Martha Argerich
「プロジェット・マルタ・アルゲリッチ」

リポート◎恒川洋子(ベルギー在住ジャーナリスト)

スイスのルガノ湖畔で行われたルガノ音楽祭。6年前から始まった「Progetto Martha Argerich」はアルゲリッチを中心に、息のあったアーティスト仲間が集まり、ともに音楽を楽しむ催し物。毎日のようにアルゲリッチの名演を堪能できるだけでなく、女史の新しい曲への挑戦、若手アーティストとの共演なども楽しめる。今年は6月9日?26日まで開催され、その様子をベルギー在住ジャーナリスト恒川洋子さんにリポートして頂いた。

円熟の極み、マルタ・アルゲリッチ/Alix LAVEAU ( bsi.ch )

遊び心と真面目さと~音楽祭を支える芸術パトロンは


ルガノ湖畔。

アルゲリッチと仲間達による豪華な共演。ヴィヴァルディ作曲『四季』を4台8手にアレンジ。/Alix LAVEAU ( bsi.ch )
スポンサーであるBSI銀行の音楽祭責任者のChantal Riboni女史。Gysi氏の右腕として活躍。

ルガノは、ミラノから約七十キロ離れたスイスのルガノ湖畔(イタリア語圏)に位置する。 街の雰囲気や人々の気質はイタリアとスイスを程よくミックスし、バランスがとれた印象を受ける。

そんな遊び心と真面目さの両面を兼ね備えているのがこの音楽祭の大パトロン、BSI銀行である。
 同行のChief Executive OfficerであるAlfredo Gysi氏自身、この上ない芸術愛好家。フルートを演奏する他、現代アートの大コレクターでもある。「トータル・アート」を集結したこの銀行の内装は、なんと金庫も含め各階それぞれ毎のアーティストによるデザインで彩られ、美術館のような空間である!ここまでこだわりをもつGysi氏は、この音楽祭の他にも、スキーの名所サン・モリッツでカラヤンが愛したある教会でコンサートを行ったり(今年は12月27, 28, 30日、Eglise au Bois, St. Moritz/ BSI Winter Festival, tel +41- 81-839-88-11, fax+41-81-830-88-11, www.bsi.ch)、Renaud Capucon氏が音楽ディレクターを務める"BSI MONACO MUSIC MASTERS, Banque BSI et l'Academie de Musique Fondation Prince Rainier III"というモナコでのマスタークラスを全面的にサポートしたりしている。

 来年度から新しくチェロ、声学、ピアノのマスタークラスも決定。そこで選ばれた優秀な生徒には、その後奨学金やコンサートのサポートもあるようだ。「できる限り才能のある若いアーティストをサポートしたい」と強くその趣旨をアピールした。


アルゲリッチの新しい取り組み、若手アーティストとの共演も

今年で六年目を迎えるこのプロジェット・マルタ・アルゲリッチ・ルガノ音楽祭。


ルノー・カプソン、アルゲリッチ、ミッシャ・マイスキーの豪華トリオ。


酒井茜さん(左)。

 この音楽祭のうまみは、ほぼ毎晩マルタ・アルゲリッチ女史の演奏が聴けることだけにとどまらず、彼女自身のチャレンジ、つまり新しい曲への取り組みや、若手のアーティストが集まる室内楽の数々の演奏を楽しめるところにもある。この若手のアーティスト達にとっては、リハーサルで一緒に過ごす時間はもちろんのこと、お互いの意見交換やちょっとした雑談がそれ以上に大事だとNicholas Angerich氏は話してくれた。そんな中で新しいプロジェクトも多々生まれるそうだ。

リハーサルが午後からはじまり、夜のコンサートではお互いの演奏を聴きに足を運び、その後アルゲリッチ女史を先頭にみんなで夕食をとり、そして真夜中からまたリハーサルをするというスケジュールのようだ。日本からも、海老彰子さんと酒井茜さんが参加(酒井さんはこのルガノの室内楽で共演しているバイオリンのGeza Hosszu-Legocky氏と7月に日本でコンサートの予定)。


ニコラ・アンゲリッシュ氏。

5月に開催されたエリザベト王妃国際コンクールにて3位に入賞したピエモンテジさん。

プログラムは、アルゲリッチ女史と音楽監督のCarlo Piccardi氏、そしてアーティスト達が話し合って決めていく。時には体調不良や怪我によるやむを得ないプログラム変更もあるが、さすがにプロ、それも心の通うアーティスト達が集まっているだけあって、全く動揺することなく何事もなくコンサートは行われる。

 誰が弾いても同じ演奏料、例えアルゲリッチ女史が弾こうとつい先ほどデビューした若者が弾こうと。

 新顔と言えばこの音楽祭が始まる一週間前にエリザベート王妃国際ピアノコンクールで三位を受賞したばかりのFrancesco Piemontesi氏のブラームス/FAEソナタのスケルツォ (1853)を聴くことができた。「三位受賞後の演奏は変わったと思いますか?」「気持ちよく弾くことができ大満足です。」と答えてくれた。


個性的なプログラムを、個性ある会場で楽しむ

見事な壁画に歴史的の重みを感じるサン・ロッコ教会。

ハム!ハム!ハム!。美食家が多いルガノで舌鼓を。

コンサート会場は湖畔に面した国際会議場のPalazzo dei Congressi 、壁画の素晴らしいChiesa di S. ROCCO 、そして見事な音響のRTSI(Radiotelevisione Svissera Italiana)ラジオ局のオディトリアム。

 このラジオ局では生演奏の録音も行われ、数々の名演奏や珍しい選曲が残されている(EMI盤)。例えば今回のアルゲリッチ女史とルノー・キャピュソン氏のバルトークのソナタ第一番やNicholas Angerich氏等によるエルンスト・フォン・ドホナーニのピアノ五重奏曲第一番などは普段聴くことのない選曲と言えよう。

 是非湖畔のお散歩がてら素晴らしいアーティストに囲まれてのギュッと詰まった18日間の音楽祭に出かけてみては?

「湖の 魚も一緒に コンチェルト」

詳しくは www.rtsi.ch/argerich
BSI/Monaco Music Masters
Academie de Musique Rainier III : 1, Bd. Albert 1er, 98000 Monaco tel: (377)93-15-28-91


ピティナ編集部
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