会員・会友レポート

<連載>上海の初等音楽教育 第2回/牛田敦さん

2005/05/05

中国のピアノブーム、その土台を支えるものは?
第2回「上海音楽院教授 鄭曙星先生インタビュー」

 「上海の魂」と呼ばれる上海音楽院教授「鄭曙星」先生は、上海音楽学院の附属中学校(小学4年から高校3年生)、大学、大学院で教鞭をとられた後、上海音楽学院のピアノ学部の学部長を経て、現在は上海だけでなく中国の音楽教育界のトップとしてその発展に尽力されている。


上海音楽院名誉教授
鄭曙星先生

─ 先生は、国内および国際コンクールで賞をとられたたくさんの生徒を、本当に小さい頃から直接教えておられます。賞をとれるほどになるまでの道程を見据えたとき、導入期からソナチネアルバムを弾くぐらいの子供を教育する時期に心がけておられることを教えていただけますか?

 初めてピアノにさわる最初の一音から、脱力した状態で指が立つように子供を導いていきます。緊張すると何もできません。押し付けたり、ふらふらしたりしないようにもします。歩く(弾く)前に立つことができるように、指を安定させます。後になって脱力させようとしても、時間ばかりかかってしまって、うまくいかないことが多いのです。建物の土台がぐらぐらしては上にどんな立派な装飾をこらした建物を建てても倒れてしまうのと同じです。

─ ピアノをはじめた子供たちの目標はまず、脱力した状態で指が立つようになることですね。

 そうです。指が立つようになって、それから、歩いたり(ゆっくりと弾いたり)、走ったり(早く弾いたり)できるように、指の独立を促していきます。
ピアノを弾くには、指だけでなく腕も必ず使います。必要であれば、背中、腰、身体全体の力を出す必要があります。しかし、緊張してはいけません。脱力しなければいけませんが、弛緩してもいけないのです。この矛盾の統一をうまく導いていかなければなりません。演奏は、脱力すると、音質、音色がはっきりとし、音量が大きく出るようになります。一瞬のタッチによって音が響くことを生徒に徐々に理解させます。

─ 脱力した状態で指がたつようにするためには、どのように教えるのですか?

 子供によって、指が立つようになる時期はちがいます。脱力すると指が立たなくなったり、指の形に気をとられ指を立てることに意識がいってしまい、緊張して脱力できなくなる子供が多いんですよ。言葉で脱力を言いすぎると、子供はどんどん緊張していきます(笑)。リラックスしなければという緊張ですね。手が緊張している初心者は、こういった心理的緊張感からくることが多いので、教えるとき、子供の心理状態を注意しなければなりません。
脱力をさがすには、音楽のなかできれいな音を自分で探させ、簡単な曲の1つ1つの音をきれいに美しくだすように導いていきます。表情に注意したり、きれいに弾くことを学ぶと子供は緊張を忘れ、自然に脱力した状態で弾くことができるようになります。これが、脱力をさがす一番いい方法だと思います。
生活の中からたくさんの例を挙げて脱力を教えることもあります。布巾でデスクを拭かせ、力を入れたりゆるめたりを繰り返させます。歩くときも緊張したままでは歩くことも走ることもぎこちなくなってしまうことをみせます。
自分の心をピアノの音と一体化させ、作曲家と会話しているように、ベートーヴェンを弾けばベートーヴェンと会話している......というようなことで心理的緊張を取り除くこともできます。
いずれにせよ、脱力した状態で指を立たせるようにするには教師の導きが大切ですね。

─ きれいで美しい音を、どうやって生徒に探させるのですか。

 「聴く」ことを主にします。私は生徒に、響きのない音、押しつけた音を聴かせ、これらは良くないと指摘します。
次に、美しい音をだしたいという欲求を子供に育んでから、模倣させ、子供自身に「響きのある音」を実際に体感させます。はっきりと響く音は、脱力された状態でだすことができ、鐘の音のように空気の中で回転し振動していくことを子供に見つけさせます。なかなか自分で美しい音がだせないときもありますが、続けていれば必ずできます。
そして、子供に実践させてから、どうやって動作を行うのか具体的な方法を教えます。まず子供に大体の手の様子を感じさせます。指を落として、腕で指を動かし、アップダウンして、彼らに気持ちよさを感じさせるのです。
美しい音の感覚を持つことができると、自然に技術の上達をもたらしますし、上達のスピードもどんどん速くなります。音楽がきれいに聞こえることを生徒の心に印象づけることを目標にすると、生徒は頑張って練習するようになります(笑)。

リポート◎牛田敦(上海在住・支持会員)


※連載第3回目以降は、中国ピアノ教育界への欧米の影響、上海の音楽事情、中国からなぜ人材が輩出するか、などに迫る。

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ピティナ編集部
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