会員・会友レポート

<連載>上海の初等音楽教育 第1回/牛田敦さん

2005/05/05

第1回「中国のピアノブーム、その土台を支えるものは?」

中国のピアノ学習人口は、一説によると5000万人だそうだ。1990年代に始まったピアノブームは、ユンディ・リやラン・ラン等のスター登場によって、今さらに熱気を帯びている。昨今の国際コンクールでも、中国人の層の厚さやレベルの高さには目を見張る。自然な姿勢、高度なテクニック、本人に合った選曲、際立つ個性―幼少期からの積み重ねが重要であることを再認識させられる。
現在、北京、上海、シンセンの三大都市において、各音楽院が牽引役となって高度な音楽教育が実施されている。今回は、その前段階となる「初等音楽教育」に焦点を当てて、レポートして頂く。レポーターは上海在住の牛田敦氏(当協会支持会員)。ご子息の智大さんは、今年3月幼稚園児対象のコンクールで優勝したばかり。現在は、上海音楽院名誉教授にピアノを習っているそうだ。「上海の魂」と言われるその先生の教えは、至って基本に忠実。さて、それは・・・・・?

テレビ局主催、幼稚園児対象のコンクールに1,700名が参加!


牛田智大くん

審査員の先生、司会者、年中の部上位入賞者と。

決勝戦にて。
シャボン玉の演出が中国らしい!?

2005年4月、中国上海市において上海音楽学院および東方少儿頻道(上海市のテレビ局)が主催する「第2回上海市琴童幼儿鋼琴電視大賽」が開催された。上海市全域から約1,700名(外国籍2名を含む)の幼稚園児が参加し、年少・年中・年長の部ごとに審査され、牛田智大(5歳)が年中の部で優勝した。コンクールの模様は、5月から6月にかけてドキュメンタリ・シリーズで中国全土に向け放映される。

 審査は、予選、本選いづれも非公開で、決戦のみ別室で視聴できた。課題曲はなく、自由曲2曲で行われ、年少がPTNAのA2からA1級、年中がA1からB級、年長がA1級からC級レベルが選曲されていた。年少、年中、年長とあがるごとに、演奏のレベルが確実にあがっていき、この年代の子供たちの1年の成長がとても大きいことが伺えた。弾き始めの集中力、音を聴こうとする姿勢、そして気迫は全員に共通しており、曲の難易度にかかわらずよく響くクリアな音で演奏していた子に高得点があがっていた。

 今回のコンクール入賞者には上海音楽学院付属小学校への入学資格が得られるとの情報がある。本来、付属小への正規入学は小学4年生以降であるので、最近はより幼いうち、小学校前から、競争と選抜を通して、才能を発掘し養成しようという動きがあるのかもしれない。私どもは、上海にきて5年になるが、智大を通じて上海の就学前児に対する初期教育を経験したのでその様子を紹介したい。


まず母親がピアノを習う、その心は?


2歳の時に師事した陳融楽先生


上海音楽院名誉教授の鄭曙星先生と。

2歳のとき師事した上海音楽学院出身の陳融楽先生は、まず母親に教え、それをみていた子どもが興味をもつのを確認してから子供への指導をはじめられた。子供がどんなに稚拙に弾いても誉めちぎられ、表現を使い分けることや移調することを遊びながら指導された。

 半年後、陳先生のご紹介で、門下生からたくさんの国内外コンクール入賞者が輩出しておられる上海音楽学院名誉教授の鄭曙星先生に師事した。入門時に「テクニックは教えれば身につくが、音楽性はもってうまれたもの」とおっしゃられ、音楽性を特にチェックされた。

 レッスンでは、弾き始めとフレーズごとの腕の使い方からはじまり、集中して音を聴くこと、先生の出すよく響くクリアな音を真似して弾くこと、その音をつなげるレガートが順に要求されるようになった。「正しい音の響きがでていれば自然に脱力が伴い、指の形も成長するにつれ正しくなる。指の形から入ると、力が入ってしまい、あとで脱力させようと思ってもなかなかできない。」と繰り返された。

レッスンの95%が「音の響き」のチェック

 「子供が小さいうちはたくさんの曲を弾かせる。常に新鮮な新しい曲をたくさん与え、譜読みと練習そして暗譜をたくさんさせることが大事。スケール・アルペジオをたくさんする。ハノンのようなものは子供には退屈だからさせない。」とおっしゃり、スタカートや付点が用いられている小曲からはじまり、バイエル、ツェルニー第一過程練習曲、ツェルニー30番練習曲、ソナチネをメインに、トンプソン、カバレスキー、ブルクミュラー、グリーグ、チャイコフスキー等の曲集から曲を選ばれた。肩や腕に力が入ってくるとスローなやさしい曲を宿題にだし、響きのない音を弾きだすとバッハをかならず宿題にだされた。いずれの曲も、美しい曲で、新しい曲をもらうのを子供が楽しみにするよう導いてくださった。

 曲想は間違っていなければそれほど要求は多くなく、レッスンの95%が音の響きのチェックに費やされる。レッスンは基本的に子供に対してなされるが、親の理解、やる気を促すことにも力が注がれ、親が家でフォローすることが前提とされる。

 子供の成長にしたがってどのような指導がなされていくか、さらにご紹介していきたい。

リポート◎牛田敦(上海在住・支持会員)


※連載第2回目以降は、「上海の魂」といわれる鄭先生のインタビュー、中国ピアノ教育界への欧米の影響、上海の音楽事情、中国からなぜ人材が輩出するか、などに迫る。

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ピティナ編集部
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