知りたい!みんなの「譜読み」

第1回:そもそも「譜読み」って何?

2016/04/15
第1回 そもそも「譜読み」って何?

新しい曲との出会いは、いつだってワクワクします。前に弾いていたものよりも難しい曲を弾くことになったりしたら、どこか誇らしい気持ちになりますよね。さて、初めての曲を弾く時には「譜読み」が必要です。では「譜読み」という言葉、どんな時に使われているでしょう?

少し例を挙げてみましょう。

  • 「来週までにこの曲譜読みしてきてね」と先生から新曲をもらったとき
  • 「まだ譜読み終わってない!明日レッスンなのにどうしよう!」といった友達同士の会話で
  • 他の楽器の人とのリハーサル前、「まだ譜読みが終わってない」と焦っているとき...

他にもたくさんの状況があると思いますが、「譜読み」は、ピアノを弾く人の日常に寄り添い、時には重くのしかかってくる(!?)言葉です。しかし、そんな当たり前に口にする「譜読み」は、とてもあいまいな言葉のようなのです。

先日実施したアンケートによれば、多くの方が「譜読み」とは「作品から音楽を読み取り、再現すること」であると考えています。

それは以下のような結果からも見て取れます。

質問「譜読みが終わる条件は?」への回答
グラフ

「譜読みが終わる条件」に対する最も多い回答は「曲を一通り弾ける」ことでしたが、その内容はさまざまです。コメントを読むと、代表的なのは二通りです。

  1. 音の間違いや発想記号といった指示の取りこぼしはあっても一曲を通して弾ける (ほぼイン・テンポで)
  2. 音符、強弱、フレージングなどあらゆる要素を取りこぼさず弾ける (テンポはどんなにゆっくりでもよい)

特に「2」は、アンケートで二番目に回答の多かった「テンポも含め、楽譜に書いてある音・記号等の情報をすべて演奏に反映できる」という回答に近く、「一通り」という概念が非常に曖昧であることがわかります。

ここで先生によって「譜読み」についての考え方が大きく異なることを示す、対照的な例をご紹介します。

ある程度の「完成」を希望、想定する先生 学生のとき、「あなたの譜読みに付き合う気はありません。今日は帰りなさい」とレッスン室を追い出された
「譜読み」の出来は生徒のレヴェルによってさまざまと考えている先生 弾けるようにしてあげるのが先生の仕事だと思っているので、弾けるようにしてから来てとは言わない

生徒が「譜読み」をするときのアプローチもさまざまです。例えば曲をもらった次のレッスンまでに行うことは、概ね以下の4タイプに分かれています。

  1. 音とリズムを取って弾く
  2. 聴き覚えでなんとなく弾く
  3. 片手ずつ弾けるようにしていく
  4. 楽譜に書かれた要素を全て反映して演奏し、自分の解釈も含めて弾く

ピアノを弾く方が曲を仕上げる際のアプローチには多くの手段がありますが、今回はアンケートの結果も踏まえ、以下のような5段階があるとします。

  1. 初見
  2. 譜読み
  3. 練習
  4. 暗譜
  5. 完成(本番、もしくは先生からマルをもらう)

この段階を踏まえつつ、頂いたコメントを見ると、「初見~練習」の部分が非常に曖昧になっていました。

また、「譜面を読むことが苦手なので聴き覚えで弾いてしまう」方が、意外と多いこともわかりました。このタイプの方は、弾けるようになった段階でほとんど「暗譜」も完了しています。演奏する以上、もちろん耳からの情報というのも大切ですが、果たして譜面を「読まず」に「聴いて」弾くことは、「譜読み」に含めることができるのでしょうか。

ここまで「譜読み」について、楽譜を見て「弾く」ことを前提に検討してきましたが、「ただ楽譜を眺めてきただけで持ってくる生徒がいた」というエピソードもお寄せいただきました。一口に「眺める」といっても色々な意味を含んでいますし、実際に音を鳴らさなくても、和声や構造分析をするといった「読み込む」ことは、演奏においてとても重要です。ここで、同じ「読む」でも、「譜読み」と「分析」は同じなのか、それとも全然違うものなのか?という新たな疑問も出てきます。

ピアノを弾く人にとって身近な「譜読み」ですが、調査の結果、新たな疑問も出てきました。そこでこの連載では、追加アンケートや「譜読みマイスター」の先生方へのインタビューを通じ、普段の素朴な疑問や通り過ぎていたアレコレを考え直して、身近だけどどこかぼんやりした「譜読み」について、皆さまと考えていきたいと思います。


長井進之介
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業及び音楽情報・社会コース修了を経て、同大学大学院器楽専攻(伴奏)修了。同大学院博士後期課程音楽学領域に在学中。主な研究対象はF. リストの歌曲作品。ドイツ・カールスルーエ音楽大学に協定留学。ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州財団給費奨学生。DAAD(ドイツ学術交流会)「ISK(語学研修奨学金)」奨学生。アリオン音楽財団2007年度<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞受賞(史上最年少)。伴奏を中心とした演奏活動、複数の音楽雑誌への毎月の寄稿、CDライナーノーツの執筆及び翻訳を行う。
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