レッスン室拝見

第24回 稲垣千賀子先生

2006/06/01

稲垣先生の詳しい
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兵庫県在住、ピティナ評議員で宝塚支部長もなさっている稲垣千賀子先生のレッスン室は、閑寂な住宅街にあります。レッスン室はぬいぐるみがいっぱいの可愛い可愛い お部屋、あったかーい雰囲気でホッとする空間です。部屋には、スタインウェイと練習用のピアノが2台、コンクールシーズンになると3台のピアノが朝から夜 の12時近くまでフル活動をします。 「感じる気持ち」を育てる稲垣先生のレッスン室をご紹介します。

《INDEX》
1.レッスン風景から2.関本昌平くんと出会って
3.今も広がる活動の輪4.感じる心を大切に
生徒を伸ばす!ピアノレッスン大研究:稲垣千賀子先生


1.レッスン風景から

まずは稲垣先生のレッスンをご紹介。先生は、ご自宅でのレッスンのほか、近隣の楽器店での講座(積極的にというわけではないけれど、頼まれたら断れない...というのが先生らしいところです)や公開の勉強会などで教えていらっしゃいます。月1回ペースで実施している勉強会には、遠く愛知・山口・滋賀・九州からいらっしゃる指導者の方や生徒さんも!稲垣先生のまわりには、いつも「もっと勉強しよう!」という意欲が溢れています。

♪生徒さんのお母様から♪

娘が稲垣先生にお世話になって3年半になろうとしています。レッスンでは、1曲が作品として仕上がるのにどれほどの情熱とエネルギーが注がれているか、言葉では伝えきれません。マジックのような、魔法にでもかかったのか、どんどん変わっていく演奏。自分の気持ちを演奏に表現することの難しさの中、最大限に娘の心の中を引き出して下さいます。
あの手、この手、押したり引いたり、稲垣先生のレッスンに終わりはありません。
音に色をつける、頭と耳で弾く、体の中からのエネルギー、音から音への空間を感じる心、聞いて下さる人へのメッセージ、と色々、課題は山積みです。
それを1つ1つ丁寧に指導して下さいます。厳しい中にいつも温かく溢れる愛情一杯で、私自身、人として母として、稲垣先生のレッスンを通して勉強させていただいております。先生と先生の素晴らしい音楽の世界に出会い、娘が将来の夢に向かって進むことを導いて頂き、感謝するとともに、幸せをかみしめています。

さっそく稲垣先生の勉強会から。今日は、バロック音楽を勉強しはじめたかいちくんをモデルにレッスンです。

◆バロック音楽の気品を身につけよう
ビデオ1(WMV 3分19秒)

◆「響き」を大切にした音作り~フィンガーレガート
ビデオ2(WMV 2分25秒)

◆グランドピアノの機能を活かして
ビデオ3(WMV 2分21秒)


◎稲垣先生のメッセージ

とても純粋で、涙もろい稲垣先生。勉強会では毎回、生徒さんとの体験談やコンクール・ステップで出かけた先での思い出を交えて、音楽の魅力を語ってくださいます。


◆ステップで出かけた先で...~人生がにじみ出る音楽の魅力
ビデオ4(WMV 2分59秒)

◆悪戦苦闘している男の子のお話
ビデオ5(WMV 3分39秒)




2.関本昌平くんと出会って

稲垣先生といえば、今、日本でもっとも期待される若手ピアニスト、関本昌平さん(2003年度特級グランプリ、2005年ショパンコンクール第4位)を育てた恩師として、その師弟愛はよく知られるところです。関本くんとの出会いが稲垣先生にもたらしたものとは?

青山音楽賞の授賞式にて

─ 関本くん、ショパンコンクール入賞、デビューリサイタル開催と、大活躍ですね。見守る先生のご心境は?

I:ワルシャワでの昌平君の頑張りに涙した昨年!そして今年は、彼のコンサートを追っかけています。でも、どんなに素晴らしく弾いてくれても、いつもいつも私の心臓はパクパク、ハラハラ!私の中では、どんなに大きくなっても、アゴヒゲを生やすようになっても昔のままなんです。

昌平君とはピティナのコンペでいうとB級からG級、中学卒業までいっしょに頑張りました。コンペの会場では、よくお母さんに間違われたものでした(笑)。あるとき、九州に審査で伺ったとき際には、「関本君のお母さんがどうして審査員席にいるのだろう?」と不思議に思われたこともありました。いつも彼の舞台では私がそばにつきっきりで、お水やハンカチを差し出したりと、何かと世話を焼いたのを覚えています。


─ 関本くんが東京に出ると決まったときのお別れコンサートは感動的でしたよね!


特級グランプリ受賞!
関本君、二宮裕子先生と

I:不思議なことに、コンペの時から、彼の行くところにはいつも何人かの人が聞きにいらしていました。彼独特の魅力が伝わっていたのだと思います。中学を卒業して、東京の高校に進学し、二宮裕子先生につくことが決まると、当然のごとく「地元で初リサイタルを!」という声があがり、これが「お別れコンサート」となりましたが、このときの様子は忘れられません。
コンサートは大盛況で、満席でも足りずに、ホールに特別のお許しを得て、舞台にまで椅子を並べてピアノを取り囲みました。そのうえ、学校のクラスメートは、通路や一番後ろの床に座り込み。一曲一曲終わるごとに、待ち構えていたように「しょうへい~!」の声援!どんなに感動的なコンサートだったか、ご想像いただけると思います。本当に幸せでした。



関本君の飛び入り参加で
「脱力」の見本を体験!

─ 関本くんとの出会いが先生にもたらしたものは?

I:今でも、昌平君と一緒に音づくりをした曲が流れてきますと、ハッとします。昨今、指導者もちょうど良いときに成長させていただけるものだとつくづく思わせていただきます。私も昌平君と一緒にたくさんのことを学ばせていただきました。「生徒さんの体を通して、先生も一緒に勉強をしましょうね」と若い先生方にお話をさせていただいていますのは、私の心から出た言葉なのです。「生徒と一緒に成長する」、このことを教えてくれたのが昌平君だったんです。




3.今も広がる活動の輪

忙しいレッスンの合間に、「音楽の心」を伝えようと、審査員・アドバイザーはもちろんのこと、ピティナ評議員、ステップアドバイザー派遣委員、宝塚支部長としても献身的に活動をなさっている稲垣先生。何が稲垣先生を動かすのでしょうか?

─ 宝塚支部の活動も、コンペ・ステップにとどまらず、活発な勉強会や地域活動に広がっていますね。


支部の先生方で開く
地域の実年音楽教室も開催

I:ピティナ北摂支部から分離をしました私たち宝塚支部も、もう若い世代の先生方が増えてきています。ずいぶん長い間支部長をさせていただいています。楽器店にはない、先生方ばかりの支部独特の特徴を生かして、ここまで皆さんと共に歩んでまいりました。何にも一人ではできないこのような頼りない私を先生方が支えてくださいましたことは、大変ラッキーだったと思いますし、幸せだと感謝させていただいています。これからは、少しずつ若い先生方にバトンタッチができますよう、恥ずかしくない先輩になれますように精進して参りたいと思っております。


─ 審査・アドバイスでも全国をまわっていただいています。


横浜金沢、大人のステップにて
優しくアドバイス

I:一年間いろいろなコンクールの審査やステップのアドバイザーをさせていただいて特に嬉しく感じておりますことは、各地の先生や生徒さんたちとふれあいが出来ることです。どんな方たちとお会いできるのだろう、どんな演奏にめぐりあえるのだろうとワクワクします。 審査に行かせていただいたことがきっかけで、ホームページを通していろいろな質問に答えたり、励ましのメールをしていますうちに心がどんどん開いていく喜びは何ものにも代えがたい喜びを味わっています。ピアノを通して、いろいろな方々とのふれあい、なんと素敵な出来事でしょう!




4.感じる心を大切に

─ 最後に、先生がご指導の上で大切になさっていること、これから伝えていきたいことをお聞かせください。

I:最近は、美しいものを美しいと感じる子供たちが少なくなってきているのを感じます。それは、美しいものを感じる体験が身のまわりからなくなっているからだと思います。私にこういった体験の大切さを教えてくれたのは母でした。母は、たとえば夜に「"月の道"を見に行きましょう」と散歩に連れ出して、自然の美しさを感じることの素晴らしさを私に教えてくれました。

感じる素地がきちんとあれば、演奏するときも自然と心の中から出てくるものなんです。ですから、子供たちに、私なりに経験してきた「美しさを感じる気持ち」を伝えていきたいと思いますね。

コンクールでも、私は子供たちに、結果ではなく「帰ったら、応援してくれたお父さん・お母さんにありがとうって言えるかな?」と問いかけます。支えてくれる人に感謝の気持ちを持って、たとえ結果は伴わなくても、「今があるから次がある」と思えるように導いてあげることが必要です。
人と人とのつながりを大切にし、今後も、技術ではなく気持ちを伝えていきたいと思っています。


【取材を終えて】

 稲垣先生と私の出会いのきっかけは、10年くらい前になるでしょうか、クリスマスコンサートでの関本昌平君(当時中1)のショパンの「葬送」ソナタを聞き、鳥肌がたつぐらいの衝撃を受け涙したことからでした。

 すっかりファンになった私は、稲垣先生からお借りしました彼のD級のコンペのビデオを毎日見ては幸せの世界にいました。今まで上手な演奏はたくさん聞いてきましたが、こんなに人をひきつけることの出来る演奏にであったのは初めてで、昌平君の弾いたピアノ曲を私の生徒とも取り組んでみたりして昌平君の世界に触れようとの日々でした。ちょうどそのとき、先生から、「私の生徒も今その曲をやり始めたので、よかったらレッスン見に来られます?」とのお誘いいただき、本当に軽い気持ちで生徒をつれてお邪魔させていただいたのです。

 その時の事は今でも思い出すたびに涙がでるほど忘れられられない衝撃な出来事でした。
先生とのレッスンによって生徒の演奏がどんどん良くなっていき、私が悪戦苦闘をしていたこともいとも簡単にやさしくコロッと変えて下さる様子を見て、ため息、感動。 「この曲ね、昌平君ともこうしてレッスンしたのよ、こういう風にして仕上げていったのよ」と。
私は思いました。「昌平君は確かにすごい。けれど、この先生あっての昌平君なのだ」と。

 先生はいつも言っておられます。「いつもいつも勉強ですよ。どんな条件の生徒も全力投球で育てなければ!上手な子を教えるのは簡単だけれど、手がかかる生徒であればあるほど、どう育てられるか私の課題であり、その生徒が勉強する機会を与えてくれているんです」と。稲垣先生のところでレッスンされておられる生徒さんは、決して特別に選りすぐられた子供たちではありません。ごく普通のピアノ大好きな子供たちが、稲垣先生と一緒になって、音作り・音楽作りをし、そしてみんなみんな素敵な演奏ができる"ミニ昌平君"になっていきます。

 稲垣先生にめぐり合えた方たち(生徒も、父兄の方も、指導者も)は本当に幸せだなと思います。私は稲垣先生は指導者としても、人間としてもこれ以上の指導者はいないと思っています。素敵な世界、稲垣ワールドに乾杯!

取材・執筆:稲垣千賀子先生ホームページ「みんなで作ろう音の世界」管理人
※ホームページでは、稲垣先生からのメッセージや活動紹介のほか、掲示板で投稿や質問も受付けています。


ピティナ編集部
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