ピアノとコーチング

第11回 若きピアニストへのコーチング

2007/12/18

私のクライアントには、ピアノの先生、音大生、ピアニスト、経営者、医師、ビジネスマンなどがいます。 現在、プロのピアニストへのコーチングへは、10代から40代までの5人。
私は、ピアニスト本人のメンタル、考え方に特化して、まだ使われていない能力や可能性が最高最大に発揮できるようお手伝いをしています。

コーチのお仕事って何?
どんなことをしてくれるの?
といったご質問にお答えすべく、今月は、現在コーチング中のピアニスト、加納裕生野さんとのセッションの一部をご紹介いたします。

第一印象は、ほんわかしていて、ピュアな感じ。目がキラキラと輝いているのが印象的でした。ロイヤルアカデミーでも、トップレベルの成績をキープしているという噂の加納さんは、卒業後の進路について悩み、コーチングを依頼してきました。
「アカデミーを卒業したら、どんな仕事をしたい?何か、具体的にある?」
私はストレートに聞いてみました。
「あの・・・仕事っていうよりも、まだ、勉強したいというか・・・」
「何で?」
えっ?と詰まる加納さん。
「じゃあ、1年後よりも、ずっとずっと先を見てみましょうか。
 大きな夢ってある?やってみたいこと・・・憧れ。もし、その夢が100%叶うとしたら・・・」
「あ!あるんです。実は私、音楽学校を作りたいんです!」
「へェ~。面白い!どんな学校を作りたいの?」
加納さんは生き生きと語りだしました。ピアノだけでなく、室内楽やリトミック、絵画や工作、演劇、ダンスなど好きなことをリンクしながら学べる学校。しかも帰国した留学生達が中心となって、学んだことを活かしてその国の言葉を使って指導します。また、日本に住む外国人の子どもたちにも、その国の言葉を使ったレッスンで、安心して学べる環境をつくってあげたい・・・・

「なるほど。日本初の画期的な学校になりそうですね」
「はい!つくりたいんです。私!」胸をはずませ、目を輝かせます。

彼女のビジョンがはっきりわかった私は、質問の矛先を変えてみました。
「いいですね。先ほどよりも声が前に出て、生き生きとしていますよ。さて、その学校、いつ頃つくりたいの?」
「ううん。30代には・・・無理かなあ」
ちょっと弱気になります。
「では、30代までその準備をするとしましょう。20代の今、何をしておく必要がある?」
私は、間を置かず、ハイスピードで質問をすることにしました。
「練習かな?」
「何のために?」
「上手になって・・」
「学校を作るために、なぜ上手になるいつ必要があるんですか?」
「ああ、そうか。・・・でも、まず、有名にならないと・・」
「なぜ?」
「演奏を通じて私を知ってもらうしか手がないし・・・」
「何を知ってもらいたいの?」
「私という人間。まず、私の演奏を聞いてもらって、私という人間を信頼してもらう」
「さらに?」
「有名になれば、演奏活動を通じてコネクションが出来るし、学校設立のための協力者や賛同してくれるスポンサーを見つけることも早まると思う」
「なるほど。そして?」
「知り合った人たちから学校経営や指導についてのノウハウも学んでいく!」

どんどん熱くなって、一生懸命答える加納さん。
もう1度、何の目的で学校を作りたいのかを違った角度から確認します。
「加納さんが、学校を経営したいという心の奥底には何があるの?」
「もっと自由に芸術を学べる場を供給したいから」

一呼吸置いて、私の言葉でまとめて返し、もう1度確認します。
「留学で広がった視野と知識を活かし、日本で新しい学びの場を作る。音楽教育を通じて、日本人だけでなく、日本に住む外国人にも貢献したいのですね。
 私には、そのように取れたけれど、あっていますか?」
「はい!そうなんです」
ふ~っと大きなため息をつく加納さん。自分の考えが整理されて、満足そうです。
しかし、さらに質問を進める私。
「熱意を感じました。では、そのために、何からはじめますか?」
「え?」
「そうです。学校経営者となるために有名な演奏家になって、みんなの信頼を得る。そんな加納さんが、スタートすべきことです」
・・・・・長い沈黙の末、答えが出ました。
「この1年で、10回のコンサートを実現します!出来ないかも知れないけれど、目標立ててやれるだけやります」
爽やかな決意をかみ締めるように答えるのでした。
「と、いうことは、今日から学生ではなく、ピアニストと捉えてバックアップしてよいのですね」
「ハイ!よろしくお願いします」

その後、練習する意味がはっきりした加納さんは、卒業後の進路についてもゆとりを持ってじっくり考えることができ、可能性の広がる答えが見付かり出しました。

あれから6ヶ月。
加納さんは、セッションの中で、自分の強み、優位感覚、コミュニケーションのタイプを把握し、客観的に自分を見つめなおしています。それを練習や演奏につなげ、実に見事な成果を出し始めています。1年で10回コンサートの目標が、既に13回の実現です。12月には3回のコンサート、さらに春までに4回も!なんと、目標200%達成です。
膨大な曲目を抱える今は、タイムマネジメント、優先順位を考え、どのようにベストコンディションで演奏するかについてコーチング続行中です。

彼女の強みは、表現豊かな音の美しさと作曲家の言葉を指先で綴れること。
まるで、物語のページをめくり、読み進めるような演奏は、聴く人をワクワクさせます。時折り、物語から絵が飛び出して来て、びっくりさせられることも、嬉しいサプライズ。可愛らしさと大人っぽさがミックスした不思議さは、1度聴いたら忘れられません。
12月と5月には帰国コンサートもあります。
皆さんも応援してくださいね。


■小林美緒(Vn)&加納裕生野(Pf)デュオリサイタル 2007
 12月21日(金)19:00 名古屋市千種文化小劇場 (名古屋)
 12月24日(月)14:00 代官山ヒルサイドプラザホール (東京)
 12月29日(土)14:00 兵庫県立芸術文化センター小ホール (兵庫)

■加納裕生野 ドビュッシー・リサイタル 2008
 5月8日(木)19:00 杉並公会堂小ホール (東京)
 5月11日(日)15:00 宗次ホール (名古屋)

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