ピアノとコーチング

第07回 「メンタル・セルフマネジメント術」

2007/08/06

人は皆、成長したいと願います。
しかし、「成長したい」と言いながら、快適な空間に身を置き、誘惑に負けて楽をしている人、土俵に上がらない人は多いものです。
自分に必要な試練を見つけてそれに立ち向かい、乗り越えてこそ、人は成長し力をつけるのです。

今月は、まだまだ続くコンペの最前線で、試練に立ち向かっているみなさんに贈るプレゼント。
テーマは「メンタル・セルフマネジメント術」です。

今や、根性論や精神論だけで本番を乗り切るのは、旧式のやり方です。
21世紀を生きるプロのスポーツ選手や人前でプレゼンテーションする政治家、経営者は、大脳生理学や心理学、行動科学、コーチング、NLP(神経言語プログラミング)のスキルから自分にあった方法を取り入れて、完璧なパフォーマンスを実現させています。
今回は、失敗した自分と成功している自分をビジュアライズして、なりたい姿になるためにどうしたらよいかを本人に考えさせる方法をお伝えします。


(1) 失敗している自分をビジュアライズする

まず、生徒さんに質問します。
先生「Aちゃん。コンペの時、大失敗している自分をイメージして、どんな様子が見えてきたか教えてくれる?」
A「え~!大失敗?あのね。前の子がすっごく上手で、私はもうだめだって思ってる。怖いって思いながら弾き出したら、音がぜんぜん出せなくなって・・・ああ、もうやだ~早く帰りたいって思ったとたん、テンポがどんどん速くなって、指が転んで、いっぱい間違えちゃって・・・」
先生「わあ~、大変だ。・・・でも、もっとすごい大チョンボってある?」
A「途中で止まっちゃうの。やり直すところがわからなくなって、逃げ出したい」
先生「今、どんな気持ちがしている? 体の状態はどう?」
A「思い浮かべただけなのに、着ているドレスがとっても重たく感じられて、本当に泣きたくなってきた。手がこんなに冷たくなっちゃった。胸もドキドキしているよ」

Aちゃんの手は、氷のように冷たくじっとりと汗ばみ、Tシャツの上からでもドキドキしているのがわかります。

先生「そんなAちゃんを見て、みんな、なんて言ってる? どう、思っているだろう」
A「お母さん、あ~あ。やっちゃったって、がっかりして怒ってる。先生もがっかりしている。もっとうまく弾けた子達のこれからのレッスンのことだけ考えてる。」
先生「(間をあけて、静かに)もしAちゃんが、先生のかわりに何か自分にアドバイスするとしたらなんて言ってあげる?」

Aちゃんは、一生懸命考えて話し始めました。

A 「うん。まずは、泣かなくって偉かったねって言うの。そして、さっきは、前の子の演奏を真剣に聞いて左右されちゃったから、今度からは待っている間は、指で耳栓しながら自分の曲のことだけ考えてごらんって・・・・」

さすがAちゃん。耳栓のアイデアは大人ではなかなか思いつきません。


(2)成功している自分をビジュアライズする

ではここで、Aちゃんに深呼吸をしてもらい、ちょっとだけ気分転換。

先生「(明るい声で)Aちゃん。今度は、大成功しているAちゃんをイメージしてみよう!どんな演奏をしているの?その時の気持ちや、体の状態も聞かせて!」

Aちゃんは、ドキドキはしているけれど、自信に満ち溢れ、指も体も自由に動き、スムーズな演奏をしている姿を語ります。
曲の世界に浸ることができた私。もっと弾いていたい・・・
思い切り自分を出している・・・
そんな私を見て、先生もお客さんもみんなニコニコしている。

このあたりから、Aちゃんの瞳は輝きだし、声も弾み、モチベーションがアップしているのを感じることができます。想像するだけで、脳は反応し、体も心も変化を起こします。
白紙の画用紙に大きく成功している未来の姿を描いて、現実に成功している自分が見えるまで、具体的に聞き出してあげましょう。

先生「Aちゃんが先生だったら、そんなAちゃんを見て、なんて言う?」
A「やっぱりできたねって。やればできるってニコニコして言ってる」
先生「そうだよね。よかったね。(間を置く)
ねえ、Aちゃんは、失敗したAちゃんとやればできるAちゃんと、どっちのAちゃんに成りたい?」 A「成功しているほう!」


(3)練習の計画を練る

先生「そうね。やればできるって先生も信じているし、応援するよ。本番まで何日ある?」
A「2週間もある」
先生「そうだよね。2週間しかじゃなくて、2週間もって考えられるところがすばらしいね。じゃあ、何をやればうまくいくと思う?」

Aちゃんの話す具体的な練習方法と練習スケジュールを聞きながら、先生は無駄を省き、足りないところを補足し、アドバイスを付け加えます。自分自身で見つけたより良い方法を実践することで、自己自信を高めていきます。
試練は苦しいもの。
先生や親は、軽やかに乗り切れるための方法を沢山持っていたいものですね。



今回のお薦めの本です。
中でも「声楽家のための本番力」は、ボリウムのある実用書で、ピアノの先生方にも読んでいただきたいお薦めの一冊です。
パフォーマンス心理学者と声楽指導者の書いたこの本は、最高のパフォーマンスを引き出すための具体的なテクニックと事例を沢山あげています。
わたしもクライアントであるピアニスト、ピアノの先生に使ってみたところ、驚くほどの成果が出ました。

○声楽家のための本番力 シャーリー・エモンズ/アルマ・トマス著 曾ちはる訳  音楽之友社
○苦手意識は捨てられる 梅本和比呂   中径出版
○自己プロデユース40の方法  田中京  講談社
○イチローのメンタル  豊田一成  アイオーエム
○とっておきのぴあれん手帳vol.1(大人用) 青木理恵・保科陽子  共同音楽出版社
○とっておきのぴあれんキッズvol.2(子供用) 青木理恵       共同音楽出版社
56~57ページ目標カード、61ページえんそう前のおまじないのページ
アマゾンのサイト

○ピアノとコーチング第1回 「本番に緊張して実力が出し切れない」 加藤麗子先生


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