ショパンコンクールレポート

ショパン国際コンクール第4日目・午前

2010/10/07

ショパン国際コンクール4日目。ワルシャワは本日も晴天!会場も聴衆が増え、ほとんど空席がなくなってきた。本日を含めて60名のピアニストを聞いたが、今日もまた驚くべき演奏が登場した。まず午前の部から。


101006_zuber.gif今回は個性的なピアニストが多い中、正統派のピアニストが登場した。米国のエリック・ズベー(Eric Zuber)は磨かれた質の良い音で、安定かつ美麗なショパンを演奏する。エチュードop.10-1は深い良質な音でダイナミックに、op.25-6も卒がない。ノクターンop.27-2は特別なことをしなくても、楽譜に忠実に、深く美しく響く音で弾くと魅力的な演奏に仕上がる、という良い例だろう。スケルツォ2番op.31も安心して聞いていられる。中間部も美しく、多少和音などが乱れた箇所があったが、全体は美しく完成されている。(使用ピアノ:スタインウェイ) 

「自分の言いたいことが伝わるか心配でしたが、今日は楽しんで演奏することができました。聴衆の皆さんも一人一人のアーティストを尊重してくれていると思います」。写真:エリック・ズベーさんと、スタインウェイ社のゲリー氏。


101006_jitsukawa.jpg同じく正統派の實川風さんは幻想曲から。安定充実した音で始まる序奏で曲全体の空気を作り、落ち着いた語り口で第1テーマを呈示する。転調を十分に意識した音色の変化、フェルマータの効果などが音楽の中で生かされ、端正な中に幻想性を感じさせた。特にレント・ソステヌートへの入りは緊張と静謐さに満ちていて感動する。エチュードop.25-7はp、ppの音に静かな説得力が宿る。軽快なエチュードop.25-4を挟んだ後、革命エチュードop.10-12はもう少し怒りや悲哀などの表情が強調されてもよいかもしれない。(使用ピアノ:スタインウェイ) photo© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina

 

101006_miyazaki.jpg一方、宮崎翔太さんはエチュードから。op.25-11、op.10-11は緊張したためかミスタッチや音の抜けが実に惜しい。しかし溢れる叙情性はノクターンop.27-2、幻想曲に発揮される。幻想曲は冒頭から神秘に満ち、歌心に満ちた中間部からテーマ再現部に入る一音は、長い沈黙を一瞬で破るような衝撃がある。最後までそのテンションが持続し、緊張感を孕んだドラマティックなコーダで締めくくられた。演奏には独特の華を感じさせる。(使用ピアノ:カワイ) photo© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina


101006_jia.jpg中国のジュリアン・ズィチャオ・ジア(Julian Zhi Chao Jia)も面白いピアニスト。肩に力が入っているのか音はあまり深くないが、個性的な解釈で意外性がある。ノクターンop.9-3ではルバートの必然性に?の箇所もあったが、エチュードop.10-4は独特のフレージング、またop.10-2は内声を強調、スケルツォ4番op.54は多彩な音を配してテーマの変奏を印象づけ、正統派とは正反対ながら、最後まで飽きさせない演奏だった。(使用ピアノ:スタインウェイ)photo© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina


ロシアのデニス・エヴツヒン(Denis Evstuhin)のエチュードop.25-10はロシア風の濃厚な味付け、op.25-11では、中低音域の迫力ある音がダイナミズムを生む。エチュードop.25-7やスケルツォ1番op.20は朗々と高らかに歌い上げるが、少し古風にも感じた。(使用ピアノ:スタインウェイ)

韓国のスン・ジェ・キム(Sung-Jae Kim)は慎重で内省的である。ノクターンop.27-2の沈思黙考した空気、バラード1番op.23も静かな序奏から呈示部へ、その空気がおよそ全体を支配していた。(使用ピアノ:ヤマハ)

グルジアのマミコン・ナカペトフ(Mamikon Nakhapetov)は自然な音楽の運びではあるが、エチュードop.25-7では突如濃厚な表現が混じったり、エチュードop.10-10では和音などが全て均質に聞こえて旋律が目立たない箇所など、あまり整理されていない内容ではあった。ほかにエチュードop.10-4、バラード3番op.47を演奏。(使用ピアノ:スタインウェイ)

アルメニアのルシーン・ハチャトリアン(Lusine Khachatryan)は自然な歌心を持っている。バラード1番op.23では最後疲れたのかミスが惜しかった。(使用ピアノ:スタインウェイ) 

 

101006_yamada.gif写真:實川風さんの恩師・山田千代子先生。2階から演奏をじっと見守り、演奏後はほっとした表情に。


ピティナ編集部
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