ショパンコンクールレポート

ショパン国際コンクール第3日目・午前

2010/10/06

快晴に恵まれたワルシャワ。コンクール3日目も多くの聴衆がつめかけ、会場の熱気もどんどんヒートアップ!今日もまた実力派が続々登場した。まずは午前から。

 

101005_bozhanov.gifまずブルガリアのエフゲニ・ボジャノフ(Evgeni Bozhanov)は、鬼気迫る演奏を聴かせてくれた。ノクターンop.62-1は耳元で囁くような音で始まる。独特のフレージングで細かい表情をつけながら音楽が進んでいく。夜の光と闇の対比といった様子で、響かせる音と鎮める音を交差させながら曲想を変化させ、夢幻の世界へ誘う。エチュードop.10-11は、美しく響くやや硬質な上声と、温かみある中低音域の内声の音質が、効果的に組み合わさって印象深い。黒鍵エチュードop.10-5は軽やかに。続くバラードop.47は幻想的な空気に包まれていた。第1テーマ最後のカデンツの響きが消えないうちに第2テーマにすっと入り、そのまま聴衆を別世界へ誘う。華やかな再現部を経て堂々と曲が締めくくられた。素晴らしくインスピレーション溢れる演奏に、聴衆から拍手喝采が贈られた。(使用ピアノ:ヤマハ)
「このコンクールは一次予選から他とは違う雰囲気で、とても大変です。まあ自分にとっては、毎日が違う日ですけどね」。


101005_osaki.jpg前回ファイナリストの大崎結真さんは、5年経ち、さらに成熟した演奏を披露した。しっとりした黒のドレスで登場。バラード第1番op.23は序奏から第1テーマに入る間をたっぷりあけ、慎重さを持って始まる。あまりアジタートせずエネルギーを溜めながら、後半のpresto con fuocoで満を持して一気にエネルギーが解き放たれる。音も生気を帯び、緊張感に満ちたコーダで堂々と締めくくられた。続くノクターンop.27-2は自然なフレージングが美しい。エチュードop.10-2はさーっと吹き抜ける冬の風のような表現で、静かな余韻が残る。op.10-4もよどみなく素晴らしい演奏で、清潔な気品を感じる。(使用ピアノ:スタインウェイ) 写真© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina


101005_Masson.gifフランスのギョーム・マッソン(Guillaume Masson)はまずエチュードop.10-6を薫り高い音で始める。内声の扱いや音質の変化にセンスを感じさせる。エチュードop.10-10はアーティキュレーションの変化を個性的に表現に結びつける。バラード1番op.23の序奏はフォルテの指示だが、重みと静けさを持って始まる。その後はたたみかけるようにテーマが呈示・展開されていくが、感情を大げさに起伏させることなく、一本の線上を歩いているような無駄のない冷静な作り。その線は全てコーダへと向かっていた。(使用ピアノ:カワイ)
「5年前ワルシャワでコンクール決勝を聴いて、ぜひ今回受けたいと思っていました。8歳でピアノを始め、初めてインパクトを受けたのがショパンでした。私にとって特別な作曲家です。今日弾いたバラード1番は深い愛がテーマで、ずっと昔から弾いている曲です」


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プラハ留学7年目の後藤絵里さんは、大きく音楽を捉えるのが特徴。微細なニュアンスがもう少し出るとよいと思われたが、堂々としたノクターンop.27-2を披露した。バラード3番op.47はその特徴が生かされ、大きく物語を紡いでいく。華やかな展開部から一息にコーダへ至る音楽の運びは魅力的。(使用ピアノ:スタインウェイ)
 「初めてのステージで緊張して心残りはありますが、私のしたいことは出来たと思います。ショパンコンクールは小さい頃からの夢でした。前回受けられなかったので、今回ラストチャンスだと思って臨みました」


ワイ=チン・レイチェル・チュン(Wai-Ching Rachel Cheung)は、エチュードop.10-8, op.25-6にテクニック不足から生じるぎこちなさが見られた。しかしエチュードop.25-7は悠然とした語り口で、濃厚に歌上げる。バラード4番op.52はノクターン同様、歌い方がやや大振りな傾向ながら、テーマが次第に重みを増して展開し、説得力を感じさせる。

 

その他、テクニック的には一定の水準を超えているものの、表現するにはやや不足している参加者も。地元ポーランドのジョアンナ・ロジェフスカ(Joanna Różewska)は、ノクターンop.55-2では歌い方がやや硬いが、甘美さを追求し、穢れない美しさは感じられる。エチュードop.10-8はテンポをやや落とし、各パッセージに表情をつけようと試みた。控えめに始まったバラード1番op.23は、展開部で少し乱れながらも最後までまとめ、地元ワルシャワの聴衆から温かい拍手が贈られた。

ポーランド・シリアのファレス・マレク・バスマディ(Fares Marek Basmadji)もややテクニック不足がエチュードop.10-10に見られたがop.10-8はうまくまとめた。ノクターンop.55-2、舟歌も所々に叙情性が見られ、全体としては過不足ない形でまとめた。

イスラエルのイシャイ・シャエル(Ishay Shaer)のエチュードop.25-6、25-11はいずれも練習曲の域を出ない。エチュードop.25-7、バラード4番op.52は音の濁りがやや多く、構成も雑然とした印象が残った。


ピティナ編集部
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