名曲喫茶モンポウ

第20回 フィビフを味わう

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2013/08/12
第20回 フィビフを味わう
 いらっしゃいませ。カフェ・モンポウにようこそ。
 今日は、チェコの作曲家、ズデニェク・フィビフ(1850-1900,チェコ)のあたたかいピアノ小品集「気分、印象、思い出」をご紹介します。
ズデニェク・フィビフ(1850-1900,チェコ)
ズデニェク・フィビフ(1850-1900,チェコ)

 フィビフはスメタナ(1824-84)、ドヴォルジャーク(1841-1904)と並んでチェコ国民楽派の草創期を築いた19世紀の作曲家です。
 19世紀、オーストリア支配下の東欧では、スラヴ民族の連帯をめざした汎スラヴ主義が勃興し、楽壇でも、民族意識を鼓舞するような国民楽派の音楽が現れてきました。そのなかで、民族的素材との音楽上の立ち位置の違いをめぐって、楽曲の標題性(チェコの民話、歴史など)を重視したスメタナら「進歩派」と、作曲語法のうえでも積極的に民謡や民族舞踊を取り入れたドヴォルジャークら「保守派」の論争が起こり、フィビフは前者に同調してスメタナの後継者と目されていました。両者の出自の違い―ドイツ語を話す裕福な家庭に生まれたスメタナフィビフと、チェコ語を話す庶民の家庭に生まれたドヴォルジャーク―も作風に影響していると思われます。
 ライプツィヒやマンハイムで学んだフィビフの音楽は、メンデルスゾーンシューマンらドイツ・ロマン派の香りが色濃く、聴感上はドヴォルジャークスメタナほどチェコ的でないため、チェコの聴衆からもいまひとつ顧みられてこなかった面が否めません。しかし、実際には、弦楽四重奏曲のスケルツォ楽章にはじめてポルカを導入したほか、スメタナの連作交響詩「わが祖国」(1874-79)の霊感のもととなった交響詩「ザーボイ、スラヴォイとルジェク」(1873)(第1曲「ヴィシェフラド」に引用がある)、ドヴォルジャークの物語風交響詩を先取りした「トマンと森のニンフ」(1874-75)などの作品で、チェコ音楽史上さまざまな先駆的役割を果たしており、チェコ楽壇におけるきわめて重要な作曲家のひとりと言えます。
 フィビフのプライヴェートはなかなか壮絶で、1873年に最初に結婚した妻ルージェナとは死別し、2人の間に生まれた双子も相次いで亡くなっています。その後、フィビフは、亡き妻ルージェナの願いを聞き入れ、ルージェナの姉ベッティと再婚しますが、そんな中、18歳年下の教え子アネシュカ・シュルツォヴァーとの間に恋が芽生え、50歳で急逝するまでのほぼ10年間親密な関係となります。たとえ不倫関係にあったにせよ、この恋愛が、どれだけ暖かい炎をフィビフの心に灯したか、想像に難くありません。
 今日は、フィビフの代表的なピアノ曲集「気分、印象、思い出」から3曲弾いてみます。これは、アネシュカと過ごした幸せな日々をピアノで日記のように綴った、きわめて私的な小品集で、暖かい幸福感が横溢しています。作品は、「気分」「印象」「思い出」の3つのグループに分けて出版されており、Op.41、44、47、57があります。今日ご紹介させていただくのは、いずれもOp.41に収められている曲です。
 Op.41は1892-94年に書かれ、「気分」(第1番~第44番)、「印象」第1部(第45番~第85番)、「印象」第2部(第86番~第125番)、「思い出」(第126番~171番)の全171曲から成ります。

 第139番 変ニ長調は「思い出」に収められたもので、「ジョフィーン島の夕べ」の副題を持ち、この曲集の中で最も名高い1曲です。ジョフィーン島はアネシュカの住まいのあったヴルタヴァ(モルダウ)川の島で、フィビフは、ここでアネシュカとともに見た美しい黄昏を甘い旋律で綴りました。この印象的な旋律は、管弦楽のための牧歌「黄昏」Op.39にも用いられているほか、ヤン・クーベリックによってヴァイオリンにも編曲され、「詩曲」として有名になりました。

◆ 第139番 変ニ長調「ジョフィーン島の夕べ」 【 ♪ 試聴する
譜例 フィビヒ:詩曲 Poeme(ヤン・クーベリック編曲)より(参考)

 第44番 変ロ長調は「気分」に収められたもので、「オペラ《嵐》のための下書き」と記され、自作のオペラ《嵐》(原作:シェイクスピア「テンペスト」)と共通した楽想が登場します。「気分」の中の第38番~第44番は、さまざまな衣装を着たアネシュカの描写になっており、この曲は、そこでは、「すみれ色のドレスを着たアネシュカ」となっています。優雅でロマンティックな旋律です。

◆ 第44番 変ロ長調「すみれ色のドレスを着たアネシュカ」【 ♪ 試聴する
譜例 オペラ「嵐」第2幕 フェルナンドのアリアより

 第4番 ト短調も「気分」に収められたものですが、これは副題を持ちません。アネシュカの抱きしめたくなるような寝顔を描写した作品群の中の1曲で、神秘的な風情が漂います。

◆ 第4番 ト短調 【 ♪ 試聴する
譜例

 いずれも、メンデルスゾーンシューマンを思わせる、ドイツロマン派的な作風になっています。

  「気分、印象、思い出」は、短い楽想を書き留めたスケッチブックのようなもので、曲の出来もさまざまですが、中にはとても魅力的な楽想を湛えた佳曲がいくつもあります。この中から佳曲を「発掘」するのもとても楽しいひとときです。

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内藤 晃(ないとうあきら)

 栄光学園高校、東京外国語大学卒業。桐朋学園大学指揮教室、ヤルヴィ・アカデミー(エストニア)にて指揮の研鑽を積む。チャリティー、施設慰問等の演奏活動に長年意欲的に取り組み、2006年度、(財)ソロプチミスト日本財団より社会ボランティア賞受賞。外語大在学中、CD「Primavera」(2008年3月)でピアニストとしてデビュー、「レコード芸術」5月号誌上にて特選盤に選出され、「作品の内面と一体化した純粋な表現は聴き手を惹きつけてやまない」(那須田務氏)などと高く評価される。

 現在、ピアノ、指揮、作曲、執筆の各方面で活躍。ピアニストとして、ソロ、アンサンブルの両面で幅広く活動するほか、監訳書にチャールズ・ローゼン著「ベートーヴェンを"読む"―32のピアノソナタ」(道出版)、校訂楽譜に「ヤナーチェク:ピアノ作品集1・2」「シューベルト=リスト:12の歌、水車屋の歌」(ヤマハミュージックメディア)がある。谷口未央監督による映画「仇討ち」(田原拓主演・ソーシャルシネマフェスティバル2012優秀賞受賞作品)、「矢田川のバッハ」(冨樫真主演・ショートストーリーなごや2012入賞作品)の作曲、音楽監督を務める。2013年、楽譜CDセット「マリンバ・フェイバリッツ」(野口道子編著・共同音楽出版社)のピアノ演奏を務め、伴奏譜の編曲にも参画する。横浜市栄区民文化センターリリス・レジデンス・アーティスト。(社)全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)正会員。

 これまでにピアノを城田英子、広瀬宣行、川上昌裕、加藤一郎、デイヴィッド・コレヴァー、ヴィクトル・トイフルマイヤーの各氏に、指揮を紙谷一衛、レオニード・グリンの両氏に、音楽理論を秋山徹也氏に、古楽を渡邊順生氏に、ジャズコンポジションを熱田公紀氏に師事。

ホームページ http://www.akira-naito.com/

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