海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

チャイコフスキー国際コンクール(3)Imagination(想像力)はどこから生まれるのか

2015/07/01

前回優勝者のダニール・トリフォノフ(2011年チャイコフスキー1位、2011年ルービンシュタイン1位、2010年ショパン3位等)、アレクサンダー・コブリン(2009年ヴァン・クライバーン1位)、コンスタンティン・リフシッツなど、優れたピアニストを数多く育てているタチアナ・ゼリクマン先生(グネーシン音楽院教授)。今回は生徒の一人ニコライ・メドベージェフが詩的な優れた演奏で二次予選に進んだ。才能ある子供たちの指導にも長年関わっているゼリクマン先生に、幼少期にどのようなアプローチが大事か、またメドベージェフさんには想像力の源泉を伺った。

生徒と一緒に音楽を---タチアナ・ゼリクマン先生

子供がもつすべての感覚を伸ばしてあげることが大事です。音楽家を育てること、音楽的な子どもを育てることが重要だと私は思っています。それには異なる様式に対する理解、異なる音を出せることも必要ですね。色々なコンクールを見ていると、小さい子どもがまだ音楽が成熟しきっていないうちに賞を獲ることがありますが、スポーツのような演奏には疑問を感じます。子どもはどうしても速く弾きたがることがありますが、音楽とテクニックが融合していることが大事です。

私も音楽家ですので、レッスンでは彼らと一緒に音楽をします。その音楽が何を語っているのか、何が書かれているのか、どのように解釈するのか、どう音を出すべきなのか・・・それらを一緒に探します。そして、それを表現するためにテクニックが必要になります。たとえばチャイコフスキーの易しい小品でも、小さい子どもなりに良く弾くことが大事ですね。必ずしも大人のように感じたりする必要はありませんけれど。

何より、子どもの頃から質の高い、良い音楽に触れさせることが大事です。私が好んでいるのは、バッハなどのバロック、モーツァルト、シューマン、チャイコフスキー、グリーグなども子どもが弾ける素晴らしい曲があります。最初に触れる音楽が、彼らの音楽的な嗜好や文化を育てます。音楽家になるには、何が良い音楽なのかを知ることが大事です。

そして音楽にはそれぞれ求める音があります。異なる音楽は、異なる色彩の音を求めます。ただ一つの"美しい音"はありません。音楽が我々を導いてくれます。たとえばプロコフィエフなどは、美しくない音を求めることもあります。声楽家も全然声質が違います。どんな音を求めているのか、それは解釈から引き出されるものです。そしてテクニックがなければそれを十分に表現できません。すべてを融合させることが大事です。

オペラをよく聴いています---ニコライ・メドベージェフさん(Nikolay Medvedev)

5歳でピアノを始め、最初の先生には15年間習い、それからモスクワに来てグネーシン音楽院で学んでいます。最初の先生は厳しいけれどとても優しい先生で、自分の音楽的な能力をすべて呼び覚ましてくれたと思います。テクニックに関しても厳しかったですね。バッハや、チェルニー、クレメンティ、モシュコフスキ等のエチュードで勉強しました。

初めて音楽の世界に目覚めたのはチャイコフスキー『子供のアルバム』、ハイドンのピアノ協奏曲第11番ニ長調ですね。今はモーツァルト、チャイコフスキー、リヒャルト・シュトラウス、ラヴェル、プロコフィエフなどが好きです。オペラも好きで、実はピアノ曲よりもよく聴くくらいです。(マリア・カラス、ナタリー・デュセイ、ディアナ・ダムラウ等)。

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現在グネーシン音楽院大学院でゼリクマン先生に学び、アシスタントも務めているニコライさん。ゼリクマン先生曰く「彼は私のクラスに来た当初から、読譜も早く、ヴィルトゥオーゾ的な曲も幅広く弾くことができました。音楽的知識も豊富でしたし、テンペラメントもあり、とてもアーティスティックな人」という。その想像力の源泉はオペラ。声楽家との共演も多いそうだ。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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