わくわくポピュラーガイド

第28回 ピアニスターHIROSHIさん

2014/04/11
連載28回目のゲストは、エンターテイメント性の高い演奏とユニークなアレンジが人気の、
ピアニスターHIROSHIさんです!!
ピアニスターHIROSHIさん(ピアニスト/作・編曲家)

意外な一面。
15年以上収集している、かわいいベアちゃんたち!


本名・吉田 洋(よしだひろし)◎東京都出身。1986年、東京芸術大学楽理科卒。在学中よりリチャード・クレイダーマン曲集や月刊キーボードマガジン、ショパン等の音楽雑誌において執筆・編曲活動を開始。クラシックからロック、ポップス、はたまた演歌までジャンルの垣根を越えた幅広いスタイルをこなせるピアニスト/キーボーディストとして活躍し、卒業後はピアノ教育研究家・大村典子氏とのコンビによる公開セミナーや共同執筆も手がける。従来の堅苦しいピアノ音楽会のイメージを打ち破るユニークかつ、エンターテイメント性の高いライブ活動を展開。2001. 第43回日本レコード大賞企画賞受賞。月刊ピアノ連載(1998~2012)。当協会正会員。

クラシックにもコードを!

HIROSHIさんといえば、ピアノ指導に携わる者にとっては、大村典子氏とのコンビで共同制作されたピアノ曲集や、月刊ピアノで長く連載されていた奇想天外なアレンジがまず思い出されます。私も20年以上に渡り、レッスンや発表会で活用させていただいておりますが、きょうもいくつか持参してみました。

こんなにたくさん!お買い上げいただき(笑)ありがとうございます。「ピアノふぇすてぃばる」(絶版)シリーズなどは、これ丸ごと1冊でコンサートができるように配列されていますが、当時画期的だったのは、ショパンやサティの作品にもコードネームをつけたことでした。そのことで、「クラシックにもコードはありますよ」と言いたかったんです。
「ポピュラーはコードがわからないと弾けない」「クラシックにはコードは関係ない」という発想もありますが、実はそうではなくて、「コードがわかっていれば、響きを理解できて応用が効く」ということなんですね。

同感です。「クラシックにこそコードを」というのは、ぜひ広めていきたいですね。コードがわかれば、曲の構成もよくわかり、大きく曲を眺められますから。

でも、僕はコードは奥手だったんですよ。
大学在学中に、音楽雑誌の曲の校正を頼まれるようになり、そこで必要に迫られてきちんと勉強した次第です。

独自のキャラクターを確立!ロック少年がピアニスターになるまで

そうでしたか。そもそものピアノとの関わりを教えてください。

ピアノを習いだしたのは5歳の頃でした。
昭和40年代頃といえば・・・同世代の方はおわかりかと思いますが、女の子がいるお家はどんなに無理をしても、アップライトの上に「ガラスケースに入ったフランス人形」が置いてあって(笑)そして「衛兵の格好をしたはたき」があったんですね(爆)。
当時ご近所からピアノが聞こえてくると、僕はそのお宅に上がりこんでいろいろ探り弾きせてもらっていたらしいんです。それがあんまり度重なるので、親がご近所に申し訳ないということで、個人のピアノ教室に入れてくれたんです。絶対音感もいつのまにか身についてたようで、初めからなぜか、ピアノの音が「ドレドレ」と聴こえてましたね。それで「ピアノはおしゃべりする」と思ってて、みんなもそうだと思ってました。

その頃は、練習はお好きでしたか?

ええ。練習というより、ピアノが好きで好きで、宿題も一度に10曲くらいみていくし、他にもレッスン前後の子の曲を耳で覚えて弾いてみたり、歌謡曲なんかも勝手に弾いてましたね。
ただ、曲が難しくなってくると話は別で・・・僕は地道な努力がホントに苦手な人間なので、初見で弾けない曲はキライだったんです(笑)小学6年の頃に『軍隊ポロネーズ』あたりになり、さすがにこれはちゃんと練習しないと弾けない、という状況になりまして、当時流行のポピュラーミュージックの方が楽しくなったこともあり、クラシックのレッスンは中1くらいからお休みしました。

その後は、バンド活動が中心になったのですね?

勉強も頑張り進学校に受かってからは、「もう学科の勉強はたくさん」と思っていたので(笑)高校時代はロック系のバンド活動に明け暮れました。その頃、僕はコードネームを知らなかったのですが、耳から入ってくる音は楽譜を書かなくても大体わかるので、不自由はなかったですね。

そこから、急に芸大受験となったのは?

受験期になり、さすがにこのままでは皆さまに合せる顔がない、と思いまして、周りが東大を目指す中、芸大なら格好がつくかな(笑)
という不純な動機で受験を決意しました。ピアノもそこから再開し、ピアノの先生には「今からですか?!」と呆れられましたが、楽理科に明るい方だったので、和声学など他の先生も紹介してくださり、まさかの現役合格となりました。

そこからまたバンド活動と、執筆活動も忙しくなったのですね?

そのとおりで、在学中はなぜか美術部との交流が多く、そこでのバンド活動と、音楽雑誌の連載も月50ページとか依頼がくるようになり・・・結局卒業までは6年かかってしまいました(笑)。

その分、音楽業界でのキャリアもしっかり積まれたわけですね(笑)。
この頃はご本名でアレンジされていたそうですが、ピアニスターと名乗るようになったのは?

テレビに出演するようになってからですね。マネージャーが打ち上げの際に何気なく言った一言で決まったのですが、"ピアニスター"というからには責任もありますし、以前お世話になった先生にクラシックピアノのレッスンをまた受けるようになりました。エチュードも全てやり直して、自分の足りないところもわかってくると、「ツェルニーも美しい」と思うようになりましたね。今でも研鑚を積んでいるところです。

奇想天外!なタイトル&アレンジが生まれる過程
紹介楽譜
ピアニスターHIROSHIのザッツ・ピアノ・エンターテイメント!
ヤマハミュージックメディア
続・ピアニスターHIROSHIのザッツ・ピアノ・エンターテイメント!
ヤマハミュージックメディア

そういえば、ツェルニーやブルクミュラーを題材にしたアレンジもたくさん拝見した記憶があります。ところで、昨年出版された「ザッツ・ピアノ・エンターテイメント!」も、アイデア満載ですね。

これは、1998年から『月刊ピアノ』に10年以上連載してきたアレンジをまとめて、そこにメドレーなどもプラスしたものなんです。膨大な数のアレンジを2冊分に集約する作業は大変なものでしたが、皆さんにいろいろなシーンで活用していただければ嬉しいですね。

この曲集では、『 "セーラームーンライト"ソナタ嬰ハ短調』『世界にひとつだけの花のワルツ』『見上げてショパン?!夜の星を』等々・・斬新なタイトルに思わず引き込まれますが、これはどうやって考えるのですか?

"パロディ"をアレンジする際は、まずどちらの曲もよく知られていることが条件です。そうでないと、ひねっても誰もわからないでしょ。たとえば、『月光ソナタ』を1曲目にと思った段階で、「ムーン」だから・・・『セーラームーン』『荒城の月』とか候補が出ますよね。でも、『ベートーヴェン風セーラームーン』では今ひとつ面白くない。ここでパッとタイトルが閃けば採用、浮かばなければどんなにいいアレンジでもボツにする、というのをポリシーにしています。

それは潔いような、もったいないような・・でもタイトルは大 事ですよね。この中の『ハッピーバースデイ』変奏曲も、『ソナチ ネ風』『華麗なる円舞曲風』など、2巻併せて12種類のバリエーシ ョンがあり、発表会などでも大いに使えそうです。

ありがとうございます。他では滅多に"お耳"にかかれない(笑)、奇抜なパロディー変奏になってますので、思う存分お楽しみください。ただ、真面目にキチンと弾きすぎると面白くなくなるので、その点お気をつけて。

課題曲のアドバイス

では、ここでステップ課題曲のアドバイスをお願いします。

ステップ課題曲
発展2
フレンド・ライク・ミー (「アラジン」より)

こういうタイプの曲は、真面目に譜読みから入るのではなく、まず原曲を聴いてサウンドのイメージをつかむことが大事です。
この曲の一番のポイントは"ビート感"なので、頭の中で「ツーツック」というジャズのドラム(ハイハット)を思い浮かべるとよいと思います。といってもなかなか想像できないでしょうが、機会があれば、ぜひバンドにキーボードなどで参加してみると、ビート感も変わってきますし、頭の中にドラムも鳴ると思いますよ。

また、と書いてあると、往々にして阿波踊り風にハネすぎてしまいがちです。ペダルはあまり使わず、左手はウッドベースになったつもりで。そしてこの曲は実は速いんですね(実演♪)。一音も間違えずに、いかにも勉強してきましたという感じではなく、曲の雰囲気をつかんで自由に表現していただきたいですね。

「楽譜どおりに弾く」ことに慣れてきた方にとって、「自由に」と言われると戸惑うことが多いと思いますが・・・

ポピュラーに限らずクラシックにしても、たとえば、リストの『ハンガリア・ラプソディー』などは即興の記録なんですね。弾く度に違ったものの、ある形を記録したにすぎないと思うので、こういう曲はそれぞれの身体に合せて変えて弾いてよいと思いますよ。

"エンターテイメント"としてのピアノ演奏

そのためにも、コードを理解しておくと自由度が増しそうですね。HIROSHIさんの、「従来の枠にとらわれない、"エンターテイメント"としてのピアノ演奏」とは、どのようなものでしょうか?

最近よく、学校の音楽鑑賞会の仕事もさせていただくんですが、そこではまず『英雄ポロネーズ』を弾くんですね。「これから7分くらいの曲を弾きますので、寝たい人は寝ててください」と前置きしておいて、途中でわざと弾きながらグルッと客席を見渡すと、笑いが起こり、手を振ってくれる子もいる。
そこで演奏後に、「ショパンを聴きながら笑ったり手を振ったのは、あなたたちが初めてですよ。でもいいんです。クラシックだって発表当時は新作だったわけで、そこではエンターテイメントだったんですから。いい曲で、皆さんの心に響いたから200年も残ってきた。
咳払いしちゃいけないなんて思わずに、楽しんでください」なんてことをお話させていただくんですよ。

来る5月9日にも、正にエンターテイメント性を追求したリサイタルが開催されますね。この聴き所(見所)を少し教えていただけますか?


(チラシクリックで拡大)

東京文化会館大ホールでの16回目のリサイタルとなりますが、ショパンやバラキレフなどの曲はそのまま演奏し、その他客席からのリクエストによる題名しりとり即興メドレー、ガーシュインメドレー、HIROSHI特選パロディー集など盛沢山の内容となっています。そして、皆さんご期待の衣装!
このチラシは、昨年の、着物をモチーフとした衣装なんですよ。

それは本当に楽しみな内容ですね。最後に今後の抱負をお聞かせください。

今までそれなりの音楽経験を積んできましたが、「エンターテイメントとしてのピアノ演奏のあり方」を追求するとともに、「パフォーマンスするための心得」や、「効果的なピアノアレンジのポイント」などを、皆さんに少しでも伝えていければと思いますね。

今後も、楽しいコンサートや公開セミナーなど大いに期待しております。 本日はお忙しいところありがとうございました。


主な著作
「鍵盤フィットネス」 CD 付(リットーミュージック)
「ピアノ・アゲイン全2巻」(ショパン)
「かんたん作曲講座」 CDブック(ナツメ社)
「ピアニストのための弱点補強トレーニング」 CD 付(リットーミュージック)
「ザッツ・ピアノエンターテイメント」(ヤマハミュージックメディア)
他多数。

CD

アルバム
「展覧会のエッ!?」

アルバム
「新動物の謝肉祭」

シングル
「ごめんね」
(以上、キングレコード)他

主なテレビ
出演番組
テレビ東京系「タモリの音楽は世界だ!」「誰でもピカソ」
フジテレビ系「平成教育委員会」「笑っていいとも!」
テレビ朝日系「新・題名のない音楽会」「徹子の部屋」他多数。
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ピティナ編集部
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