2015ショパンコンクールレポート

ショパン国際コンクール(14)ショパンのユーモアと鋭い観察力

2015/10/14

ショパンの遊び心とは?

二次予選では遊び心のあるワルツやロンドの演奏を多く聴くことができた。実際、ショパン自身も遊び心溢れる人で、物まねはまさに得意芸だった(参考:『ショパンの眼、ショパンへ注がれる眼』)。青年期の作品には、対象に対する鋭い観察眼と愛情がこもっている。(写真はフィルハーモニーホール内に展示されているカリカチュア)

「ショパンは物まね、人まねの才能でわたしたちをびっくりさせることがあります。―彼のこの才能は最高度のものです。はしゃいでいる時は、途方もない人物の役を引き受けて、次の間に消えたかと思うと、しばらくして、驚くほど変装して出てくるので、彼だとわからないくらいです・・・。」1842年12月パリ、弟子ヨーゼフ・フィルチより彼の両親へ(『ショパンの手紙』p312)

どうやらこれはショパンに限ったことではないらしい。ポーランド人は意外にユーモア好きのようで、ワルシャワにはカリカチュア博物館がある。カリカチュアとは滑稽・風刺という意味。ちょうど2015年度カリカチュアコンクールの入賞作品が展示されていた。全世界51か国から2222作品の応募があったとか。

ブラックジョークではなく、温かみと親しみあるのがポーランド風だろう。フィルハーモニーホールに飾ってあるアーティストのカリカチュアにも親しみを感じるし、ショパンコンクール歴代審査員も漫画家の手によって描かれてきた。というか、厳格な印象のコンクールという場で、審査員のカリカチュアを書き残していることが面白い。また2010年度にはショパンコンクールにちなんでショパンのスマイル選手権も同時開催され、こちらは全世界52か国から1413作品の応募があったそうだ。入賞作品には、MOZARTの"ART"よろしく、CHOPINの文字列に"HOP"を見出した作品などもある!


一瞬で本質をつかむ力が、創作にもたらしたもの

一瞬で本質をつかむ鋭い観察力とユニークな視点があったからこそ、ショパンは即興演奏を得意とし、また前奏曲Op.28やマズルカのように短くても鋭いメッセージ性をもつ作品が生まれたのかもしれない。ただ物まねとは違い、作曲は自ら全てを創り出なければならない世界である。ショパンは瞬間的に得たインスピレーションを何日もかけて磨き上げ、作品に仕上げていった。その様子を弟子のフィルチが書き綴っている。

「ある日ショパンがジョルジュ・サンドの宅で即興演奏するのをききました。ショパンがこういうようにして作曲するのを聴くのは不思議なようです。彼の霊感は非常に直感的で、完成されています。何のためらいもなく、はじめからそのように出来ているかのようにひきます。だがそれを譜に書き下ろす段になると、もとの楽想をすみずみまで詳細につかみ直して、数日にわたる精神的な緊張をもって必死の苦悶をつづけています。一つのフレーズをひっきりなしに変えたり、手を入れたりし、狂人のように歩き回っています。なんという不思議な底の知れぬ人物でしょう!」(1842年3月パリ、弟子ヨーゼフ・フィルチより彼の両親へ)

明日から始まる第三次予選では、ソナタOp.35、Op.58、または前奏曲Op.28、そしてマズルカが課題となる。前奏曲の1曲1曲はどのように描写されるのだろうか、とても楽しみである。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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