【実施レポ】2019/05/24 藤井 一興先生セミナー(表参道)

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2019/06/10
藤井一興ピアノ研究セミナーvol.8バッハ平均律・ショパンエチュード全曲シリーズ調性による色彩とファンタジー⑥
文・山本美芽(音楽ライター)

日時:2019年5月24日(金)10:30-12:30
会場:カワイ表参道コンサートサロンパウゼ
主催:ピティナ表参道スマイルステーション
代表:三輪昌代

2019年5月24日(金)にカワイ表参道コンサートサロンパウゼにて藤井 一興先生をお招きし、「藤井一興ピアノ研究セミナーvol.8バッハ平均律・ショパンエチュード全曲シリーズ調性による色彩とファンタジー⑥」を開催いたしました。

今回は、下記の2曲を取り上げました。

1. イ短調... バッハ/平均律BWV889(第2巻20番)、ショパン/エチュードop.25-4、op.25-11
2. ホ短調... バッハ/平均律BWV855(第1巻10番)、BWV879(第2巻10番)、ショパン/エチュードop.25-5

 バッハを敬愛していたショパンは平均律クラヴィーア曲集から多大なる影響を受け、生涯のバイブルとして演奏し続けていました。バッハ平均律とショパンエチュード全曲を調性毎にとりあげるこのセミナーも6回目。毎回欠かさず受講しているうちに、バッハとショパンの関連が非常に自然なものであり、取り組むべき課題というよりは時代を超越したクラシックのなかの名曲中の名曲として、聞く側もとらえ方が熟成されてきた感じがあります。 

今回はイ短調とホ短調。平均律2巻の20番のイ短調は、半音階の下降がとても印象的だというお話から、同じイ短調の「木枯らしのエチュード」も半音階の下降があることへとつながり、こうして比べるとあまりにわかりやすい共通点にため息がでるほどです。フーガはプレリュードとの音色を差をつけて。パイプオルガンにはたくさんの音色がありますが、3声部の弾き分けのイメージで、この箇所は具体的にどの音色で、というお話も弾くときのイメージを豊かにしてくれます。そして藤井先生の弾きはじめた『木枯らし』の輝かしく美しいこと、それはもう衝撃的なものでした。しばらくメモをとるのも忘れて聴き入ってしまいます。途中でレクチャーがあり、どこで音色を変えるのか、または手の小さな日本人ならではの指づかい、ペダリングの工夫、脱力の際に気を付ける手の具体的な箇所なども惜しげなく伝授くださいました。

 ホ短調は、まず平均律1巻10番。プレリュードは雨の日に聴いたらぴったりきそうなメランコリックな雰囲気ではじまり、藤井先生の清らかな音色が心に沁みます。そして後半プレストになってからは「天から降ってくるような」という先生の言葉どおりの神々しい美しさ。フーガはやはり下降する半音階から開始。ショパンエチュードの作品10では、小刻みに震わせるような右ペダル、親指の付け根を楽にすること、右手が浮かび上がりながらハーモニー全体が共鳴して聴こえるようなバランスのつくりかたなど、実際の音を聴きながらだと腑に落ちることばかりでした。途中、「人間の声のような」「心にぐさっとくるような」というような藤井先生の何気ない言葉のひとつひとつに先生がフランスで修業し、その後長年探求してきた深いものが感じられます。

 楽譜の版についてのお話もありました。藤井先生が子どもの頃に弾いていた版と現代の研究を反映した信頼できる版では、驚くほど音が変わっているものがあるとか。ショパンだけでなく、バッハの平均律でもそうなのだそうです。バッハの中で声部をつなげる真ん中のサスティンペダルの使い方もお話があり、かなり目から鱗の衝撃的なものでした。現代のピアノをうまく使いこなす、最新の楽譜の研究成果を利用する。伝統を受け継ぐことも大切にしながら、自分で判断して歌や響きや流れを作っていく。その様子にじかに触れているうちに、藤井先生がイメージや勉強したことを音にしていくプロセスがちらっと見えたような気もしました。

 帰宅してから、この日のお題とは別のバッハのプレリュードを練習していたとき、藤井先生がショパンエチュードでおっしゃっていたことがふと浮かび、それをヒントに弾き方を変えてみたら、「これだ」というバランスで音が出ました。これがピアニストの音に学ぶ本当の意味なのだとため息が出るような経験でした。

この日のセミナーの様子は、DVDに収録されて販売されます。希望者は表参道スマイルステーションまでご連絡ください。

 次回藤井先生のセミナーは2020年1月31日(金)、藤井先生の愛弟子の三輪昌代先生によるブルクミュラーコンクールとバッハコンクールの課題曲をレクチャーするセミナーは9月26日(木)、いずれも表参道のカワイコンサートサロンパウゼにて開催の予定です。

文・山本美芽(音楽ライター/ピアノ教本研究家)



藤井一興

藤井 一興 (ピアニスト)
ピアノを安川加壽子、井上二葉、辛島輝治、萩原智子、作曲を長谷川良夫、南弘明の各氏に師事。東京芸術大学 3 年在学中、フランス政府給費留学生として渡仏。パリ・コンセルヴァトワールにて作曲科、ピアノ伴奏科ともに一等賞で卒業。パリ、エコール・ノルマルにてピアノ科を高等演奏家資格第一位で卒業。その間、作曲をオリヴィエ・メシアン、ピアノをイヴォンヌ・ロリオ、マリア・クルチォ、ピアノ伴奏をアンリエット・ピュイグ=ロジェの各氏に師事。

1976年 オリヴィエ・メシアン国際コンクール第 2 位( 1 位なし)
1979年 パリのブラジル・ピアノ曲コンクール第 1 位
1980年 クロード・カーン国際コンクール第 1 位
    モンツァ"リサ・サラ・ガロ"国際コンクール第 1 位
    第1回日本国際ピアノ・コンクール第 4 位( 1 位と 3 位なし)
1981年 マリア・カナルス国際コンクール第 2 位( 1 位なし)
    及びスペイン音楽賞
    サンジェルマン・アン・レイエ市
    現代音楽国際ピアノ・コンクール第 1 位
1982年 パロマ・オシェア サンタンデール国際ピアノコンクール入賞
    第 3 回グローバル音楽奨励賞
    第 10 回京都音楽賞実践部門賞

世界各地、日本国内にてリサイタル、室内楽、コンチェルトの他、フランス国営放送局を始めとするヨーロッパ各地の放送局や日本のNHK等で多くの録音、録画など幅広い活動を行っている。 レコード・CDではメシアンのラ・フォヴェットゥ・デ・ジャルダンやイゴール・マルケヴィッチ作品集、武満徹作品集などを続々とリリース。また、作曲家としても、フランス文化省から委嘱を受け、その作品が演奏会や国際フェスティバルで演奏・録音されている。その他、世界初のフォーレのピアノ全集の校訂を担当し、 1 - 5 巻(全 5 巻完結)を春秋社より出版している。
現在、東邦音楽大学大学院大学教授、東邦音楽総合芸術研究所教授、桐朋学園大学特任教授、東京芸術大学講師。

オフィシャルサイト




三輪昌代

三輪 昌代
東京音楽大学ピアノ科卒業。プラハアカデミー修了。尚美コンセルヴァトワールディプロマ修了。ケルン国立音楽大学マスタークラス修了。イエルク・デームスマスタークラス修了。第42回日仏協会フランス音楽コンクール第1位。フランス大使館よりフランス大使賞。併せて毎日放送賞を受賞。第36回ピテイナピアノコンペティショングランミューズA2カテゴリー第1位。第15回長江杯国際音楽コンクール第1位。その他多くのコンクールで上位入賞。第39回家永ピアノオーディション合格。サントリーホール、オペラシティホール、東京芸術劇場、上野文化会館、すみだトリフォニーホール、ザ.フェニックスホールにてコンサート出演。イタリア、ドイツ、ウイーン、プラハにてソロリサイタル、ピアノコンチェルト、室内楽に出演。音楽誌ムジカノーヴァ、ショパン、音楽現代にて好評を博す。
ピアノを藤井一興、青柳いずみ子、秋山徹也、樋口紀美子、酒匂淳、クヴイータ.ビリンスカ、ゲラルド.ファウス、ユージン.インディーチに師事。室内楽をヨゼフ.ハーラ、ダナ.ブラコヴアに師事。声楽を坂本紀夫、鹿野道夫に師事。
現在、「世田谷代田2台ピアノによるレッスン教室」を主宰し、後進育成を行い、コンクール審査やアドバイザーを務め、又日本、海外で演奏活動を行う。
全日本ピアノ指導者協会正会員。
「表参道スマイルステーション」代表。日本フォーレ協会会員。 及川音楽事務所所属ピアニスト。 日本ソルフェージュ研究協議会正会員、日本コミュニケーション能力認定協会コミュニケーション能力1級認定。




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山本美芽

やまもと・みめ◎音楽ライター、ピアノ教本研究家。東京学芸大学大学院教育学研究科音楽教育専攻修了。中学校(音楽)、養護学校にて教諭と勤務したのち、執筆活動をはじめる。ピアノ指導者としても大学在学中から現在までレッスンを行う。「ムジカノーヴァ」「ジャズジャパン」等の音楽専門誌にて、国内外の一流アーティストに多数取材。「もっと知りたいピアノ教本」(大半を執筆、音楽之友社)「21世紀へのチェルニー」(単著、ショパン)などを執筆、ピアノ教本についての研究をライフワークとして続ける。中村菊子「レッスンのハンドブック」の中で一部を取材執筆、呉暁「練習しないで上達する」において文章作成などを担当し、多くのピアノ教本の著者・訳者に直接取材した経験を持つ。  2006年―2010年の間、夫の転勤のためアメリカ・カリフォルニア州在住。カリフォルニア州立シエラカレッジにて単位取得。アメリカのピアノ教本事情を研究。帰国後、2013年より著書「自分の音、聴いてる?」(春秋社)をテーマにしたセミナー、また音楽指導者のためのライティングセミナーを全国各地で行う。音楽教育学の知識と、音楽ライターとしてプロの音楽家・教育者との膨大なインタビュー経験、自分自身のピアノ指導・子育て経験、ピアノ学習、全国のピアノ指導者との密接な交流から得た現場発の問題点など、理論と実践を融合しながらピアノ教育が進むべき道を先導している。  2012年よりピアノを多喜靖美氏に師事。室内楽を多喜靖美、松本裕子の両氏に師事。2015年より「ピアノ教本、かしこく選ぼう」セミナーを全国で行う。あわせて指導者向けの「ライティングセミナー」、参加者が実際に弾き合いながら学ぶ「ひきあいセミナー」なども開催中。オフィシャルサイト http://www.mimeyama.com
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