2.セミナー活用法

学習効果を上げる ピアノセミナー活用法
学習テーマの選び方

「勉強しなくてはならないことがたくさんありすぎて、何から手をつけてよいかわからない間に、日々のレッスンに追われてしまう」という若手指導者もいれば、「これまで何とかレッスンをこなしてきた。今さらどんな勉強をすべきかピンとこない」という指導者もいることだろう。学習テーマの選び方について考えていきたい。

自己分析のすすめ

江崎光世先生

「ただ漠然とやみくもに手当たり次第に受講するのも、興味のある分野ばかりを受講するのも、何もしないよりは良いことです。ただ、学習効率を上げていくには、まず、"現在の自分に補うべきスキル"と"未来に向けて伸ばすべきスキル"を自己分析し、現在の自分を知るところから始めてみるとよいでしょう」と、江崎光世先生はアドバイスする。
「もちろん、全てのスキルに完璧を求める必要はないですし、年代や地域によっても身に付ける優先順位は異なるでしょう。特に若い先生は、与えられて学んだ期間が長いので、それを打破する必要があります。ご自身なりに得手不得手を把握し学習計画を立てることで、目的意識を持ってセミナーを活用することができると思います」

そこで、「指導者」「音楽」「生徒」の3者の関係から、(1)「解釈力」、(2)「演奏力」、(3)「指導力」の3分野を、"指導者の3大スキル"として取り上げてみた(下図)。自己分析の参考にしていただきたい。また、各分野のセミナーをされている講師の先生方のコメント※の一部をご紹介する。

指導者の3大スキル

●1.「解釈力」を磨く

音楽、ピアノには、探究心を絶やすことはない奥深さがある。楽譜から、演奏から、歴史から、様々なアプローチから音楽を追求する指導者の姿勢、その「解釈力」は、生徒の音楽的な自立を促すことにもつながります。

C h e c k !
  □ 演奏の指導をする際、「なぜ」の説明をあまりしていない
  □ 自分で模範演奏をして、生徒に真似させる方が手っ取り早い
  □ 「楽曲分析」にあまり自信がないので、分析された資料を参考にしている
  □ ハイレベルな演奏になると、自信をもって評価ができない
  □ 年次が上がるにつれ、ピアノ演奏に伸び悩む生徒が多い
  □ 自分自身も、1曲をマスターするのに、非常に時間を要する


楽譜分力(アナリーゼ):嵐野英彦先生

楽譜の裏にあるものを見つけ出す能力を、指導者自身で開発していくべき

嵐野英彦先生

「指導者自身が楽譜から何かを読み取って教えるという立場にいる以上、楽譜を通して何を伝えるか、相手に何を感じさせるかということは非常に重要で す。そのためにも、自分の中に楽譜の読み方というものをきっちり持っているかということを、それぞれの指導者が自覚して欲しいと思いますね。生きた音楽を 作るためには、楽譜の裏にあるものを見つけ出し、読み取る能力が絶対に必要であって、それを養うのがアナリーゼなのです。」
「日本の教育って、だんだんと先細りしていっているシステムだと思うんですよ。何かを教わった人が、それをそのまま次の人に教えても、次の世代にはもとも とあったものの何割かしか伝わってないんです。そうやって世代を経ていくうちに、質、内容ともに薄まっていく。だから音楽指導にしても、指導する人が本質 的なものをきちんと教わった上で、自分の言葉で音楽を感じたり読み取ったりする能力を培って、それをまた次に伝えていかないといけない。楽譜はただの記号 であって、五線上に書かれたものは全てではない。だからこそ、指導者自身が楽譜の裏にあるものを見つけ出す能力を自分自身で開発していかないと、いろいろ な壁にぶつかってしまうと思いますね。」


作曲家研究:武田真理先生

演奏にオリジナルな側面を引き出すには、膨大な量の研究と知識が必要

武田真理先生

「(作曲家の時代背景や他ジャンルの人物との関わりなどを研究されたことは)レッスンをするときに色々な引き出しが出来て非常に役立ちましたし、そういったことを生徒に投げかけると、皆色々な興味を抱いたり、ハッとするようです。そのように曲に絡んだ色々なことが見えてくればくるほど、ピアノを向き合うことは楽しくなると思います。」
「曲って才能だけで書けるものではなくて、作曲家がどうしようもなく背負っている運命や、その時代の社会的な動きなどがどうしても影響してくるんです。」「私達は楽譜を作っているのではなく、楽譜から音楽を起こしている、いわば再現芸術です。だから演奏に個性なんてなかなか出こないと思いますし、そういったオリジナルな側面を出すためには膨大な量の研究と知識が必要だと思います。ミステリー小説の探偵のように、例えばベートーヴェンが3回テーマを繰り返すのはなぜか、ということを探っていくと、音の分析から始まって、そこで言いたいことはなんなのかっていう精神的な背景にたどりついて、それを表現するためのテクニックがそういった分析と一体になった時に初めて、再現芸術として成立するのです。」


芸術一般(バロックダンス):浜中康子先生

音楽を教えるということは、結局は「様式」を教えるということ

浜中康子先生

「どのような音楽の形式を教えるにしても、『音楽だけがそこに存在していたわけじゃない』ということを子供達に伝えるのは大切だと思います。どんな人が、どんな空気の中で、何を食べて、何を考えて、踊ったり演奏したりしていたのか。それが、曲の中に存在している。例えばダンスって、今では健康のためや、趣味で踊る人が多いですが、貴族の社会では違う。命がけなんです。舞踏会で大失敗しちゃって、その後宮廷に出られなくなった公爵の回想録が今でも残っているぐらい、その人の社会的ステータスや評価に関わる問題だったんですよ。(中略)なんのためにダンスや音楽が存在していたのかを知ることによって、その曲に対してすごくイメージが湧くし、楽しいですよね!」
「逆に、その音楽を生んだ楽器や文化のことを何も知らないと、バロック音楽と古典派の音楽の本当の違いなどわからないと思います。バッハとモーツァルトとベートーヴェンとショパンをそれぞれに弾けて表現できるには、体感的にも知識的にも、様式をちゃんと理解することが大切だと思います。ですから、音楽を教えるって、結局は様式を伝えることだと私は思っています。」


●2.「演奏力」を磨く

せっかく長年かけて身に付けたピアノの「演奏力」も、自己研鑽を続けなければ一方的に枯渇していしまうスキル。この種のセミナーを受けたら、必ずご自身でもピアノに向かって復習することが大切です。

C h e c k !
  □ レッスンで、楽譜に集中しがちになり、生徒の身体や頭の使い方を観察できない
  □ 生徒の教材を、初見視奏はすることがあっても、弾き込むことはない
  □ 自分自身、人前で演奏することがしばらくない
  □ 本番のステージで実力を発揮できない生徒が多い
  □ 生徒の演奏の表現力(音色やテンポ感)に乏しい 
  □ 生徒に身体的なトラブルが生じることがよくある(腱鞘炎など)


ピアノ奏法(タッチ)&楽器知識:長谷川淳先生

良いタッチ、悪いタッチを実際に弾いて見せることで、特徴や原因に深い理解を

長谷川淳先生

「やはりピアノを弾くからには、出来るだけ美しい音で、音楽にふさわしい音色が出すことが必要だと常に感じてきました。巷にはこれらに関する本やレクチャーがあふれていてどれも素晴らしいのですが、ほとんどは著名な方の経験論を元にしたノウハウや精神論など、抽象的な話が多いんですね。そこで僕は逆に、物理的、かつ合理的に色々と解明することで、"正しいタッチ"について普遍的な真理のようなものがわかってくるかもしれないと思ったんです。そして、そこには創世記の頃のピアノから現在のピアノに進化するまでの奏法の変化、そして現代ピアノの構造・メカニックなどの話も必然的に関わってくる。ピアノという複雑な楽器を扱う時に必要な動きと無駄な動き、そして音を作る一瞬の間に何を意識すればよいのかを知ることへの手がかりになるからです。あと、もう一つ追求したかったのは、"良い音"とは具体的にどういう音なのかということ。これは、生徒でも先生でも意外に分かってない人が多いんですよ。だから僕が色々と良いタッチや悪いタッチなどを実際に弾いて見せることで、それぞれの特徴や原因についてより深く理解してもらいたいと思いました。


ピアノ奏法(脱力)&身体知識:佐々木恵子先生

「力を抜きなさい」と言うだけでなく、「脱力」を具体的段階的に指導できるために

佐々木恵子先生

「ピアノを弾く時って、まずは脱力だと思うんです。音楽をどう作るとか、指をどう動かす、とか言う前に、まず体の力が抜けていなければ、その第一歩が無理なんですね。だから、そこを一番抑えたいな、と思いました。」
「私を含め、皆さん小さい頃から、『脱力しなさい』とか『体の力を抜きなさい』とか、ピアノの先生に言われて来たと思うんですね。ただ、具体的にどうやって力を抜いたらいいかということを、段階的に教えてもらうと言うことは実際少なくて、私自身もそういう意味では何も教わってこなかった。だから、そのノウハウをもっとわかりやすく砕いていったら、正しい脱力が浸透するかな、と思ったんです。もちろん、ピアノを弾き始めた一番最初の段階から、脱力をマスターしてしまえば問題ないわけですが、途中から来る生徒にも、ただ『リラックスしなさい』、とか、『力を抜きなさい』、と言うよりも、段階的に直して行けば、ちゃんとよくなるということが見えていれば、生徒にとってもどうすればいいかがわかりやすいだろう、と思ったんです。そういうことを体系的にまとめたな、と思ったのが(研究の)始まりです。」


ピアノ奏法(響き):日比谷友妃子先生

全ての表現は、響きのコントロール。
タッチ、音色の引き出しを、たくさんもって指導を

日比谷友妃子先生

「(ピアノ演奏において一番大事にしていることは)自分の感じていること、表現したいと思うことを、ひとつひとつの音の響きを通して、聴いている方に語りかけていくように、と心がけることでしょうか。ホールやピアノによって条件は様々ですが、与えられた楽器の特長をつかみ、できるだけ自分の言葉、音色でそのピアノを表情豊かに響かせられることが理想だと思います。時代による様式感、和声感、フレーズなどを表現するのも、すべて響きのコントロールです から、タッチ、音色の引き出しをたくさん持てるように指導するよう心がけています。」
「人それぞれ持っている"音"は皆違います。ダイヤモンドのような人もいれば、真珠のような人、ルビーのような人もいます。どんな石でも、磨けば素敵になりますし、磨き方、カットの仕方で、魅力も変わってきますよね。それぞれの生徒の音の、まろやかだったり、シャープだったりする特長を生かし、より多彩な響きを目指すことでしょうか。」

●3.「指導力」を磨く

指導者の身に付けている「解釈力」「演奏力」を、いかに生徒に伝えていくか・・。
学生時代までは学ぶことが少なかった分野だけに、多方面からの指導現場の実践的なノウハウは貴重です。

C h e c k !
  □ ソルフェージュやリトミックの、ピアノ演奏への効果がよくわからない
  □ 小学校高学年以降になると、ピアノをやめる生徒が多い
  □ ごく一部の教材(メソード)しか使用していない
  □ 生徒に、もっと練習してくるようにと注意することが多い
  □ 幼児や年上の保護者など、年代の離れている人との会話が苦手
  □ レッスン以外での生徒の力を伸ばす機会をあまり知らない


音楽基礎力養成(ソルフェージュ):佐々木邦雄先生

ソルフェージュ指導で目指すのは、全分野の基礎力と人間としての常識の育成

佐々木邦雄先生

「ソルフェージュは、『聴く』、『視る』、『奏でる』、『書く』という4つの要素から成り立っています。(中略)良い音楽家になるにはこの4つの能力の、少なくとも基礎的な部分は必ず持っていなければいけないんですが、例えば演奏家の人は楽譜を『書く』ことや『聴く』、『視る』を十分に学んでいないこともあります。その足りない部分の穴を埋めるのがソルフェージュなんです。」
「ソルフェージュで身につく音楽理論というのは、楽曲を取り巻いているいわば基礎部分であり、必ず勉強しなければいけない。しかし、大切な内容にも関わらず、それを学んでいない人が多いんです。その結果、楽譜に書いてある音しか弾けなかったり、コードの進行の流れを全く説明出来ない人が出てくる。これらは、ソルフェージュで学ぶ音楽のベーシック内容として絶対必要です。」
「例えばピアノを専門に勉強するんだったら、音楽を幅広く色々と勉強する中でピアノを学びなさい、そういうことをソルフェージュ指導では言いたいんです。ソルフェージュは、全ての分野でのベーシックな能力と人間としての常識を身につけるためにある。それらを身につけた人の発言とか演奏っていうのは、必ず人の心を打つんだよね。」


年代別知識(中・高校生):庄司美知子先生

年代特有の問題点に指導者が意識を高め、
手の条件、精神状態などに対応した選曲を

庄司美知子先生

「(中学・高校生の年齢特有の演奏の問題点の)ひとつは、成長に伴う身体の変化ですね。特に、小学校の終わりから中学校にかけては、手の構造も一番変わってくる時期です。それまでは指がすごく動いていた子が、急に弾きにくくなることも多いですね。そして、小さい頃についた悪い演奏の癖も障害になり始めるのも、この頃。例えば、身体を不用意に揺らす演奏や、メロディーの『中膨らみ』、つまり旋律の間に入る『フワワ~ン』という音。指導者側がこういった問題について意識を高め、生徒の年齢や手の条件や精神状態まどに対応した選曲をしてあげる必要があります。」
「この時期一番多いのは、やはり心の問題だと思います。中高生というと、親離れが必要な時。それまでは熱心な親がレッスンや練習につきっきりだったのが、親から自立して自分で何かをしたいと思うようになります。自分との葛藤や親への反抗などでピアノを辞めてしまうというパターンは多いので、自立の方法を生徒とよく話合う必要が出てきます。


練習ノウハウ:深谷直仁先生

成功率の高い練習には、
練習曲に含まれる 「練習要素」の指導者側の理解が不可欠

深谷直仁先生

「指導者がサポートできることといえば、まず練習が必要だと思わせてあげるような指導をすること、モチベーションを感じさせてあげること、そして悪い練習の癖をつけないための基礎力をつけてあげることだと思います。」
「練習不足に見えても、本当は一生懸命練習してきている生徒も実は多いんですよ。その時、生徒が苦しんでいる要因を教師が見つけ出してあげないとならないのです。(中略)曲を練習する中で、どうしても得意な部分と不得意な部分は出てきてしまうのですが、(中略)『得意-不得意』のバランスを見極めて、その時点での生徒の基礎力に合わせて最適な曲や練習曲を選んであげなければいけません。」「成功率の高い練習には何が必要なのか。それは、ひとつの曲に含まれる数々の『練習要素』を指導側が把握することです。これは曲の一部分を取り出して弾くという意味ではなく、リズム、メロディー、ハーモニーなどの、曲を作り上げている細かい『要素』のことです。これらを指導者が分析して、不得意な要素を一つ一つ掘り下げて、繰り返し練習させていくことで、テクニックの練習作業を随分効率よくすることが出来ます。練習について指導する上で、こういった分析力は不可欠だと思います。」

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