素顔のアンティーク楽譜

第04回 ラ・フォル・ジュルネ周辺企画にて

2008/05/01

 今回は5月5日(月)にラ・フォルジュルネの一貫で武久 源造さん、山川 節子さんによって演奏される曲目の楽譜を紹介します。演奏される曲目は、ラ・フォルジュルネのテーマが"シューベルト"なので、それに因んで普段演奏されることがほとんどない、そして耳にすることもまれな曲を僕のコレクションから選んで演奏してもらうことになりました。具体的には前半がシューベルトの歌曲のソロピアノ・トランスクリプション、後半が「未完成交響曲」のピアノ・デュオ版です。歌曲は全部で6曲で、5曲がH..Cramer編曲によるものです。

・Die Forelle 「ます」
・Erlkönig 「魔王」
・Ständchen v.Shakespeare.Horch,horch,die Lerch! 「きけ、きけ、ひばりを!」
・Lob der Thränen 「涙の賛歌」
・Ungeduld 「いらだち」(美しい水車小屋の娘・第7曲)

そしてもう一曲はジギスムント・タールベルク編曲によるもの

・Le Meunier et Le Torrent 「水車職人と小川」 (美しい水車小屋の娘・第19曲)
クラーマー:タイトルページ
タイトルページ

 その中から最初はクラーマー(Heinrich Cramer 1809年スツットガルト生~1877年フランクフルト没)編曲の楽譜のタイトルページと「魔王」、「ます」をお見せします。シューベルトの歌曲のピアノ・トランシクリプションと言えばまず大抵の人が有名なリスト編曲を思い浮かべると思います。このコーナーの第1回でも「魔王」のリスト編の初版譜を紹介しました。しかしそれ以外にもトランスクリプションはたくさん存在します。今年のラ・フォルジュルネでもカール・チェルニー編曲によるものが演奏されるので、僕はそれ以外のものとしてクラーマーを選びました。リストのものに比べれば平易なものですが、その分原曲により忠実といえましょう。この楽譜は19世紀後半のものです。タイトルページも中々凝っていますね、味気ない現代の楽譜とはまた一味違った趣があります。2曲ともお馴染みの良く知られた曲なので、リスト編曲のものと比べてみて下さい。

タールベルク:タイトルページ
タイトルページ

 続いてはリスト、ショパンと同じ時代に活躍していたヴィルトゥオーゾ、タールベルク編曲の「水車職人と小川」です。この編曲は「(ピアノで)歌う為の技術」L'ART DU CHANT 作品70という曲集の中の第8曲にあたります。タールベルクのリト刷りのポートレイトがタイトルページを飾る豪華本です。これはフランスで出版されたもので、この曲集には他にもベートーヴェンの「アデライーデ」、モーツァルトのレクイエムより「ラクリモーザ」などが収められています。当時有名だった曲をもとにピアノで滑らかに歌わせることを主眼とした編曲を集めた大変すぐれたものです。ピティナの皆さんにも是非とも演奏してもらいたい曲集です。タールベルクに関しては僕のコレクションに多くの優れた作品があるので、別の機会に紹介しましょう。

ライネッケ:タイトルページ
タイトルページ

 最後は有名な「未完成」のカール・ライネッケによるピアノ・デュオ編曲版です。この楽譜は1867に出版された初版で、タイトルページにも記載されているようにライネッケによるピアノ2手版も存在します。ライネッケはこれ以外のシューベルトの交響曲をピアノ・2手、4手に編曲しています。今回のラ・フォルジュルネでは時間の制約上、第1楽章のみが演奏されますが是非全楽章、といっても未完成ですから2楽章ですが、武久・山川さんのデュオで聴きたいものです。武久さん、山川さんには以前にも僕の初版譜を使用してチャイコフスキーの「悲愴」、メンデルスゾーンの「イタリア」「スコットランド」を作曲者自身のピアノ・デュオ編曲で演奏してもらいましたが、さすがに息のあった迫力のあるものでした。今回の演奏も楽しみです。皆さん是非聴きに下さい。


幅 至

1959年東京生まれ 音楽オーガナイザー、アンティーク楽譜コレクター。パリ・ソルボンヌ第3大学及び同大学院にて言語学(英語学)を専攻する。
幼少時よりイラストレーターであった父の影響を受け芸術全般に興味を示す。より広い音楽のレパートリーを開拓すべくフランス留学を機にヨーロッパを中心に貴重な初版譜のコレクションを始める。今までに収集した楽譜、音楽関係のの資料は数千点に及び、それらを用いて執筆活動、コンサートのオーガナイズ、レクチャーコンサート、またCDの解説なども手がける。また内外の著名な演奏家に貴重な楽譜の提供し、彼らとともに現在は演奏されなくなってしまった素晴らしい曲をレパートリーとして知らしめるべく活動を続けている。弦楽専門誌・ストリング、ピアノ誌・レッスンの友に定期的にコレクションの一部を紹介するコラムを担当している。最近では『プリズム出版』よりコレクションをもとに貴重な楽譜の校訂譜を出版している「マルモンテル24の性格的エチュード」「ヘンゼルト24のエチュード」「リアプノフ24の超絶技巧練習曲」など。また『ミュッセ』より「カルクブレンナーのエチュード集」の出版。

【GoogleAdsense】
ホーム > 素顔のアンティーク楽譜 > > 第04回 ラ・フォル...