ロン・ティボー国際コンクール レポート

セミファイナル1日目の演奏者たち

2007/10/24

セミファイナル1日目は、15名のうち、8名の参加者が熱演を披露しました。

10:30 (6)Jae-Won Cheung(26歳、韓国)
メシアン:鳥のカタログ第1巻より「ニシコウライウグイス」
シューマン:ピアノソナタ第1番嬰へ短調Op.11
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1番目に登場は、浜コン2次でも朝一の登場だった、韓国のCHEUNGさん。メシアンでの細部までのコントロールは見事で、テクニックも極めて安定していますが、シューマンでは集中力が続かなかったのか、特に終楽章で緩急のない冗長で平坦な進行になってしまった場面がありました。


11:10 (10)Hitomi MAEYAMA 前山仁美(20歳、日本)
デュカス: 牧神の遥かな嘆き -ドビュッシーを追憶-
シューマン:ピアノソナタ第1番嬰へ短調Op.11
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日本人セミファイナリストの1人目は、前山仁美さん。このうえなく微細なコントロールで中弱音域を静かに行き来するデュカスは、美しく神秘的な響きで引き込まれるようですが、タッチの重いピアノのためにところどころ不均一になり、惜しい面も。シューマンは、音量はないものの、深くて厚いシューマンらしい音色に、前山さんらしい意志を随所に感じさせる熱演。シューマンの生き急いでしまったような前のめりなテンポ感をうまく表出し、全身全霊の演奏でした。


11:50 (11)Antoine de Grolee(23歳、フランス)
シューマン:ピアノソナタ第1番嬰へ短調Op.11
ラヴェル:「クープランの墓」より「メヌエット」「トッカータ」
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女性2人のあと、今日早くも3人目のシューマン1番から。やはりピアノの鳴りが圧倒的に異なり、もちろん音量だけで審査されるはずもありませんが、強い印象を与えます。1次予選から個性的な解釈を説得力抜群に展開していたピアニストですが、今日はさらに細部にこだわりを聞かせ、それを確かな技術で表現していきます。非常にクレバーでスマートなピアニストは、地元フランスということもあり、午前中一番の大きな拍手を浴びました。


14:30 (13)Claire HUANGCI(17歳、アメリカ)
シューマン:ピアノソナタ第2番ト短調Op.22
ラヴェル:夜のガスパール
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午後は、浜コン奨励賞のフアンチさんから。シューマンは、1次予選のショパンに弾き続き、濃厚な表現。これが今日は曲によくはまって、説得力の高い音楽を生み出します。
ラヴェルの「ガスパール」全曲では、各曲の出来が散逸し、特に2曲目の「絞首台」での音質が単調になってしまった印象。とはいえ、凄まじいテクニックで、ぐいぐいと音楽を進めていく推進力は見事。難曲「スカルボ」の後半部では、普通は聴こえないような内部の音までクリアに全て弾きこなし、高い能力を示していました。

→浜コン出場時の音源を、過去の今週の一曲コーナーで聞くことができます。スーパーテクニックをぜひ。


15:10 (14)Tae-Hyung KIM (22歳、韓国)
メシアン:「みどり児イエスに注ぐ二十のまなざし」より「喜びの聖霊のまなざし」
ブラームス:ピアノソナタ第3番へ短調Op.5
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浜コン3位のキム・テヒョンさん。
メシアンでは、硬質でハリのある音をふんだんに用い、見事なテクニックと周到な計画性で、音楽を確実に組み立てていきます。
ブラームス3番は、浜コンでも披露した得意レパートリー。自分という存在をすべてぶつけて音楽の本質に迫っていく、まさに命を懸けたような熱演。ピアノをフルに慣らしきった第1楽章も見事ながら、後半、弱音の息を呑むような美しさは、夜の闇に吸い込まれるようで、高い能力を感じさせました。

→浜コン出場時のブラームス3番(第1楽章)を、過去の今週の一曲コーナーで聞くことができます。


15:50 (16)Jun Hee KIM (17歳、韓国)
ラヴェル:「夜のガスパール」より「オンディーヌ」
ブラームス:ピアノソナタ第3番へ短調Op.5
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韓国の17歳、Jun Hee KIMさんは、1次予選をハイドンで通過してきた本格派。まだ荒削りの音色ながら、ブラームスでは、キム・テヒョンさんの風格あふれる演奏ともまた違う、若々しい輝かしさを音楽に漲らせ、スケールの大きさを感じさせます。ピアニッシモの表現などにはまだまだ磨くところもありますが、その将来性の高さに、聴衆からブラボーの声がさかんに飛んでいました。


17:00 (17)Eri KOBAYASHI 小林えり(24歳、日本)
ドビュッシー:前奏曲集1巻・2巻より「オンディーヌ」「西風の見たもの」「花火」
ブラームス:ピアノソナタ第2番嬰へ短調Op.2
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日本人2人目の登場は、小林えりさん。ドビュッシーは、緊張のためか、やや直線的になってしまう部分もありましたが、細部まで丁寧に表現しようとする姿勢が見えます。ブラームス2番は、確かな技術で、緊張感をもって弱音を1つ1つコントロールし、もう少し立体感や音色の変化を望みたいところもありましたが、極めて誠実な演奏を聞かせました。


17:40 (18)Tristan PFAFF (22歳、フランス)
ブラームス:ピアノソナタ第2番嬰へ短調Op.2
ラヴェル:ソナチネ
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1次予選では、ショパンの1楽章(右手)や、ドビュッシーのエチュードで技巧の弱さを露呈したフランスのPfaffさんですが、今日は安定した演奏。特に、ラヴェルのソナチネが、彼の音質にも合った見事な名演。きりっと引き締まった硬質の音色で、細部までクリアに練り上げ、芸術家肌の鋭い感性の一端を示しました。


ピティナ編集部
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