ルイのピアノ生活

第55回 ピアノの文化を守ろう!/曲:ラフマニノフ 前奏曲 op.23-5

2007/12/17
♪ 演奏
ラフマニノフ:前奏曲 op.23-5  動画 動画:(5,14s)
 

今回録音した曲はラフマニノフ前奏曲作品23の5、です。そして、今回使用したピア ノは1930年に造られたフランス製の「プレイエル」というとても美しいピアノです。 実は、私は同じ曲を既に一度この連載の為にスタインウェイで録音しました。前回の 連載のラフマニノフの前奏曲作品23の4はスタインウェイで録音しています(PTNA 本部・東音ホール)が、同じ日に5番も録音したのです。私は、特にこの5番の前奏曲 はスタインウェイにぴったりの曲だと思います。でも先日、この古いフランスの素敵 な楽器を弾いた時、「是非この曲をこのピアノで録音したい!」と思い、録り直しま した。でも、実は・・・この曲はあまりこのピアノに合わないと思います。(笑)か なり激しいこの曲を弾きながら、F-1レースをクラシックカーの高級車で走っているよ うに感じました。でも、雰囲気があって上品な音色を持つこのピアノが僕は大好きで す。そして、スタインウェイでは聴きなれているこの曲を、あえてこのピアノで弾く のは少し珍しい録音になるのでは、と思いました。この曲に限らず、ピアノのCD録音 の90%以上がおそらくスタインウェイまたはヤマハを使って録音されたのではないで しょうか。

世界には色々なピアノがあります。その中でもスタインウェイは絶大な人気を誇るピ アノです。スタインウェイはアメリカの会社(工場はドイツにもありますが、音のコ ンセプトはアメリカン)です。だからやはりどこかアメリカっぽい音がするのだと思 います。ヨーロッパのピアノに比べて、音がとてもダイレクトでストレートに楽器か ら出ます。とても迫力がある響きです。タッチにも無駄がなく、すごく軽いのに音が よく出ますので、弱い音も、強くて大きい音も、とても出しやすいピアノです。

ピアノ製造の歴史を見ますと、特に19世紀、それぞれのピアノメーカーが独自の響き や音色にこだわっていました。ピアノメーカーは自分の住む地域の影響を受けて楽器 を造っていました。周りにいる音楽家・作曲家達の嗜好を聞いて楽器を造っていまし た。例えば、ある地方では音楽家たちの好みの音色が柔らか系だと、楽器メーカーは それに合わせて柔らかい響きを持つ楽器を造るわけです。プレイエルの場合は、ショ パンの影響がとても大きく、ショパンが持っていた独特の音色(リストによると銀色 っぽい音色)や和声感を出せるピアノ造りを目指しました。

興味深いのは、おそらくその場所の言葉・言語との関係もあるだろうと思われること です。例えば、北ドイツ対南ドイツ・オーストリア。言葉は両方同じドイツ語です が、言葉の「なまり」は全く違います。北の方では言葉がとてもはっきりしていて、 少しクールで理知的に聞こえます。一方南ドイツのなまりはずっと柔らかくて、旋律 的で暖かい感じがします。北ドイツはポリフォニー(多声音楽)や抽象的な音楽 (ベートヴェン)が似合う地域だと思います。南の方では音楽はもっと旋律的でもっ と暖かくて少しスケールは小さく感じます。音楽はお話を語るように聞こえます(シ ューベルト)。北のピアノメーカーは音の透明感を大事にしています。音はピアノか らはっきり立ち上がって、音が濁らずに空中で混ざります。南ドイツやオーストリア では音がもっと柔らかくて、音をピアノから出すというより、ピアノの箱を響かせる 音造りがコンセプトです。

それぞれの地域や国の「音色」を作り出す為には、メーカーが材料、使われる木から 接着剤までにこだわります。そして、もちろんに楽器の造り方も全く違います。面白 いのは、日本の「ヤマハ」。音を聴けば分かるのですが戦前と戦後ではピアノ製造の コンセプトが変わっています。戦前は北ドイツ、戦後以降は明らかにアメリカのスタ インウェイの音色を意識しているようです。なぜか、古いヤマハはあまり見当たらな いのですが、個人的には昔のヤマハの響きは味があってとても面白いと思います。

少し残念なのは、最近のピアノはその地域の個性が目立たなくなり、皆音色が似てき たということ。皆が同じ方向を向いて音造りしているように感じます。音色のグロー バル化なのでしょうか?音楽業界は個性や文化より、商売(お金)の方がもっと大事 だと思っているのでしょうか。

考えてみると車も同じだと思います。1970年代まで色々な車があって、デザインがと てもファッショナブルで個性的で、私も大好きです。でも最近の車はどのメーカーも 燃費のよさや安全性を重視する傾向で、ドイツ、フランス、アメリカや日本の車、皆 同じように見えます・・・。

私は色々なピアノがあるからこそ面白いと思っています。どれを使えば自分が一番上 手に聴こえるか、一番弾きやすいかというより、色々なピアノがあって、色々な音色 を出すのがとにかく楽しい事だと思います。結果より、ピアノの響きを味わい、楽し みながらピアノで遊ぶのです(英・仏・独語ではピアノを「PLAY」=遊ぶという 動詞を使います!)。どれが一番良い楽器ということではなく、色々な楽器があり、 それぞれの個性を楽しむ事が音楽的な発見にもつながるのです。例えば、ラフマニノ フをフランスのプレイエルか南ドイツの「ザウター」、またはイタリアの「ファツィ オリ」で弾いたり聴いたりすれば、今まで気づかなかった発見があるかも知れません。

ピアノの音造りの文化を守る為にも、是非皆さんに色々な楽器を知って頂きたいで す!実際楽器店で弾かせてもらうのが一番ですが、もっと身近なのは色々なCD録音を 聴いてみること。スタインウェイ、ヤマハ、カワイ、ベーゼンドルファー、べヒシュ タイン、ザウター、プレイエル・・・まだまだ何十、きっと世界中では何百という メーカーがあるはずです。その中で自分が「このピアノ好き!」と思えるパートナー のようなピアノに出会えたら幸せですね。

私はつい最近、第3弾の新しいCDを作りましたが、この中で使用したピアノはフラン スのプレイエルのとドイツのべヒシュタインの2台です。最後2曲は同じ曲を2台で弾き 比べ、自分で言うのも何ですがなかなか面白いCDになったと思います。美しいピア ノ作品を2台の全く違うコンセプトを持ったピアノの響き・音色を楽しんでいただけま す。2年半の間、続けているこの連載の中でもパソコンを通して色々な曲を聴いていた だけますが、一度CDの音色も聴いてみていただければうれしいです! ご興味の方は以下のリンクから「ルイのCDショップ」へ、ぜひ「足」を運んでみて 下さい!

http://www.pianonet.jp/shop/index.htm

それでは、また!

ルイ・レーリンク

ルイ・レーリンクから第3弾CD「夢のあとに」が出来ました!
ドイツのべヒシュタインとフランスのプレイエル。
ヨーロッパの名ピアノ2台をルイ・レーリンクが弾き比べました。
それぞれのピアノの個性が際立つ珠玉のCD。

第55回
http://www.pianonet.jp/pianist/cd.htm

ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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