ルイのピアノ生活

第38回 水の戯れ/曲:ラヴェル 「水の戯れ」

2007/02/02
♪ 演奏
ラヴェル:「水の戯れ」  動画 動画:(6,20s)
 

この間、駅のホームで電車を待っている時の事。小さな男の子がいました。彼は何回もホームの一番端まで走って行って、身を乗り出して電車が来るかどうかを見ていました。やっと電車が来ると、「来るよ!来るよ!」とお母さんに向かって叫んでいます。そしてとうとう電車が駅のホームに入って来ると少年はジャンプしたり、走り回ったり、大喜び。とても興奮している様子でした。

それを見た私は彼が少しうらやましくなりました。電車を見て、あんなに感動できる素直な気持ち。やっぱり大人になって「感動」を憶える機会は大分減った気がします。初めて飛行機に乗った時・・初めて高級ホテルに泊まった時・・初めてお寿司食べた時、そして、初めてベートヴェンの第7番の交響曲を聴いた時の感動!

それはアムステルダムのコンセルトへボウでした。
ピアニストのイーヴォ・ポゴレリッチとの共演のコンサートで、前半はオーケストラとの協奏曲、後半がベートーヴェン7番というプログラムだったのです。
もともとポゴレリッチの演奏が目当てのコンサートでしたが、ピアニストの演奏も曲も今では思い出す事ができません。
それほど後半のオーケストラのベートヴェンの交響曲の演奏が、素晴らしかったのです! とにかく、すごかった!オーケストラの演奏を聴きながら、私は全身に電気が走ったようにびりびりしびれていました。
ものすごい感動でした。
今では、少し寂しい気もしますが、ベートヴェンの交響曲を聴いてもその時ほどの感激はありません。
もちろん感動はするのですが、やっぱり初めて聴いた時とは少し違います。

ピアノを弾く時、何度も何度も鍵盤を押して音を聴きますね。
私は初めて楽器に触れて、ひとつの音を鳴らした時、とても感動したのを覚えています。
白い鍵盤からポーンと音が出て来る事はマジックでした!
ピアノから音が出るのは当然と思ってしまいがちですが、その時の感動を忘れてはいけません。 いくらピアノ弾いても、同じ曲を弾いても、マジックを忘れてはいけない!
いつも自分に言いきかせながら、弾いています。

今回の曲は水の戯れという曲です。水の「遊び」を表現している曲です。
「遊び」という言葉については、以前の連載に書いた事がありましたがピアノを「弾く」のは英語、ドイツ語、フランス語ではピアノを「遊ぶ」と言います。
オランダ語も全く同じで「遊ぶ」と言います。

マジックの音をピアノから引き出すのは1つの遊びです。
楽譜を見て、どんな面白い響きが書いてあるかを知るのは、お話を読んでいるのと同じようにとても楽しい事です。
楽譜を読んだり、練習したり、弾いたりするのは遊びみたいな事です。

今回弾いた「水の戯れ」は、ピアノと遊んでいることを最も実感させてくれる曲ではないでしょうか。
色々な水の音や様子をこうかな、ああかな?と想像を膨らませながら表現を探すのが楽しい、演奏の醍醐味を感じられる曲です。
『木漏れ日を浴びながら、水の精が小川のせせらぎに戯れています。
小さなせせらぎが、川へ流れ込み、次第に水の流れが激しくなって行き、勢いを増した川の流れは、滝へ吸い込まれて行きます。
水の落ちる滝の大きな音、滝の下では水がくるくると渦を巻いています。
水の精がその渦の中に飛び込むと、新しい水の中の世界が現れます。
水中で踊っている水の精の姿がとてもかわいらしいです・・』
・・・等等、本当にとても楽しい曲です。

ピアノを使って色々な音を出すのもまた楽しい遊びです。
10本の指を時々柔らかく、時によっては激しく動かしたり鍵盤を優しくなでたり、時々勢いよくつかんだりしますと色々なヴァリエーションの音色が出てきて音のマジックを体感できます。 しかし!時々激しく遊びますとケガもしますね。実は録音する前に遊びすぎて指を痛めました。 曲の途中のところの黒鍵のグリッサンドは、普段右手の2の指で弾いていますが、激しい流れを表現してみたかったのでいつもより少し腕のおもりを重く感じて、少し力を使ってグリッサンドを引っ張ったら・・指に水ぶくれができました。
録音では仕方なく手の平で弾いています。(涙)

ケガをしても、大好きな曲に変わりありません。
駅のホームで電車を見て興奮していた少年ような気持ちで、今回の曲を弾きました。 皆さん楽しんで聴いて下さい。

それでは、また!

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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