ルイのピアノ生活

第28回 ヴォカリーズ/曲:ラフマニノフ「ヴォカリーズ」

2006/08/17
♪ 演奏
ラフマニノフ「ヴォカリーズ」  動画 動画:(4,25s)
 

私は子供の頃、毎週日曜日の朝、教会に行っていました。
教会の中で聴く音楽や響きは忘れられないです。それは魔法のように色々な方向から私の耳に届いてきました。前の方からだけではなく、後ろから、上、下、左、右からも・・・音楽が聞こえます。最近流行りの「ホームシアター・サウンドシステム」ような感じかも知れません。まるで、音楽を浴びて、音楽の中で生きているようです。このように毎週、教会で音楽を聴いていて、気が付いた事があります。それは音楽に「立体感」があるという事。目の前に色々な音が現れて、色々な形になっていきます。虹色の音色が混ざって、今まで見た事がない、なによりも美しい新しい音色の輪が私の頭の周りにでき、音が天井のあたりで遊んでいて、天井に絵を描いているように見えます。音がマリアの像の回りでダンスをして、音が彼女の目から出てくる涙にかわります。オルガン、合唱、オーケストラ、それぞれの響きが教会の中で混ざり合うのを聴いたことはありますか。下の方から長くて太い「紫色」の深い低音が出て来ます。その響きを身体で感じていると、上の方から、天使が天からふわふわと降りて来るように、金色の響きが空から金の雪を降らせます。左と右からの温かい和声は、お母さんが泣いている子を優しく髪をなでて、慰めているように聴こえます。そして前の十字架から神様が悲しく歌っているように感じます。マリアが死んだJezusを手に抱こうして涙を流している絵を見ながら音楽を聴きますと、心も耳も変わります!

絵を描く画家、像を作る彫刻家、愛を語る詩人・・・色・形・言葉で感情を表現できるのが芸術です。そして更に、目で見た事のない、なによりも美しい色、手で触った事のない複雑な立体感がある物や人の形、言葉で表せない、心の一番底からの気持ちを表現できる芸術それが音楽です。

手に入れられない物を願う、会えない人に会いたいと望む、見る事のできない色を見る、触れられない物を触る、語れない事を語りたいと切望する事は、人間の原点です。「芸術」という言葉は、一見堅く、難しいようですが、私達のこんな気持ちを代弁してくれているのです。

今回録音した曲「ヴォカリーズ」は言葉で表現できない事を伝えてくれる曲だと思います。今まで見た事のない色を見せてくれます。感じた事ない事を感じさせてくれます。行ったことのない世界へ連れて行ってくれます。色んな音色を持っている和声の上、下、左右から旋律が現れて時々、和声の中から花が咲きます。ある時は、色々な音が上から降りてきて、和声が宝石や金で光っている冠をかぶっているようです。そしてまたある時は、安らぎを与えてくれる、底から祈っている低い声が出てきます。涙の粒のように音が1つ1つこぼれ落ちます。聴きながら、手で本当に触れられるぐらい、本物に見える、目の前に世界で一番美しい物が現れます。時間が止まって、1秒が、一瞬が、永遠に感じられます。1秒間だけ見えて、最高の幸せを与えてくれます。それに手を出して触ろうと思ったら、夢のように消えてしまいます。悲しい涙を見ても、そのイメージは幸福です。一瞬最高の幸せを与えてくれる曲です。

それでは、また!

ルイ・レーリンク



ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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