ルイのピアノ生活

第20回 試験/曲:フォーレ主題と変奏 op.73

2006/04/18
♪ 演奏
フォーレ主題と変奏 op.73 前半:(9,24s)   後半:(6,11s)
 

僕の通っていたアムステルダムの音楽院では4月から試験の時期になります。
この時期になると、いつもはどちらかというとリラックスした感じの校内が少しピリッと引き締まった雰囲気につつまれます。どの楽器の生徒も毎年、学年試験があります。ピアノ科も全校で最高でも70名ぐらいしかいませんので、先生方も一人づつじっくり審査することができるからでしょうか?試験のプログラムがとても多いです。バッハ、ソナタ、ロマン派、印象派、できれば近現代のものと、5,6曲は準備しておかなければなりません。試験の部屋に入ると、だいたいいつも同じ面々のピアノ科の先生方7~8人が「どうだい、元気でやっている?」緊張をほぐしてくれようと話しかけてくれます。毎年、最初の一曲は自分で選んで弾いて良いことになっています。その後は次々と指定を受けて弾きますが、演奏の間中、後ろでペンの走る音がしていて集中できず、音の多い場所やボリュームの大きな場所にくるとこれが消えるのでホッとしたりと毎年、試験ならではの緊張感を味わうことになっています。試験が終わると、「ではちょっと外に出て待っているように」との指示。先生方が審査内容を話し合っているのはほんの数分なのですが、この時間のなんと長く感じられること・・・。「今年は駄目かも・・?」胃がきりきりー痛んで来るようです。そうしているうちに「では、中に入って下さい」そこで毎回の審査結果を伝えられます。

日本の音楽学校の試験では落第の可能性は低いようですがオランダでは相当の数の生徒が学年の途中で音楽の道を断念して行きます。10人が同学年で入学して、同時に卒業するのは4、5人です。1年目の試験や、2年間進歩がないと見られると学校側も、その人のためだからと容赦なく「他の学校へ行ったほうが・・」「他の学科を選んでは・・?」と「宣告」するのです。

試験結果は前年との比較で進歩があるかどうか、が基準になっています。ここも日本の審査基準と違うようですが、全体の平均ではなく、あくまでも自分が比較の対照なのです。だから成績がよくて入学した人は、翌年さらに進歩しないと「留年」もありえます。「まあ、いいでしょう。このまま勉強を続けて。でも古典が少しロマン派寄りの表現ですね」「前年より技術はしっかりしていますが、長いラインが感じられません」「集中はよかったですが、フーガはもう少し頭を使って。」そして良かった時は「とてもよかったですね!来年また会いましょう。」という感じでしょうか。無事進級が認められれば、「おめでとう」と、ひとりひとりの先生と握手の後部屋を出ます。

うれしい言葉も、辛く響く言葉も、1年に一度だけ自分の先生以外からもらえる貴重なアドバイス、重要課題。ですから一言も漏らさずに覚えておいて今後1年の勉強の指針とするのです。試験は全行程で20分ぐらい。結果はどうあれ、何週間もの緊張からこれでやっと開放されます。

でも、試験はここで終わるわけではなく、学科試験が始まります。こちらもかなり厳しく、おまけに結果が点数と一緒に掲示板に張り出されるので、とにかく一喜一憂の激しい時期です。

卒業試験は少し遅く、オランダでもやっと本格的に暖かくなる5月下旬~6月下旬に行われます。これは公開の試験で、コンサートと同じ形式で行われます。家族や友人、それにこれを楽しみにしている外部の人達で会場はいっぱいです。1時間ぐらいのプログラムを弾き終えると、部屋に呼ばれ、審査結果を伝えられます。その後お客さんの待つロビーに出て、審査委員長の先生が試験の点数、感想と祝辞を皆の前で述べ、皆の拍手の中、卒業証書を手渡してくれます。そしてそのままロビーで先生方もお客さんも入り混じって大パーティ?となります。これも日本の学校の卒業試験とは、大分かけはなれたイメージですよね。

こうして色々な試験がすべて終わるのが6月の下旬。生徒達にとって、それぞれ最後の試験が終わった日は一年間で一番最高の日です!その後は夏休みですから、みなさんその時の開放感は想像できますよね!

それでは、また!

ルイ・レーリンク

この録音はまだ学生だった頃。初めて日本でのリサイタルでした!ものすごく緊張していました。でも思い出深いコンサートでした。

ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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