ルイのピアノ生活

第16回 エーデルワイス/曲:シューマン「飛翔」 

2006/02/07
♪ 演奏
シューマン「飛翔」  動画 動画:(3,51s)
 

私は子供の頃、両親からカセットテープを一本もらいました。タイトルは「エリーゼの為に」。たくさんの有名なピアニストの演奏する名曲集です。私はこのテープが大好きで毎日毎日聴いていました。いつも聴きながら考えていたのは「私もこの曲を弾きたいな~有名なピアニストになりたいな~」ということ。たくさん聴けば、もしかして明日の朝目が覚めた時、この曲を弾けるようになっているかも・・!といつも少し祈りながら聴いていました。実は、恥ずかしいですが・・・私はあまり努力家ではないです。タイプから言いますと・・夢に向かってそれを実現できるようにするためにめっちゃ頑張る!タイプというより、ずーっと夢を見ているだけのタイプです。できるといいな~いいな~いいな~と口だけで言い続けるタイプです。ダメですね。

小学校の時に、鉄道模型にすごくはまっていた時期があって、欲しい電車や車両がたくさんありました。そして僕はいつも夜、カタログを手に持って寝ていました。欲しい電車の写真を寝る前に長く見つめれば、次の日に朝に・・魔法のようにベッドのとなりに欲しかった電車が置いてあると深く信じていました。しかし、残念ですが・・・一回もなかった!

頑固者ですので、なかなかあきらめませんでしたが。中学校の時に、ジャズやポップスに興味を持つようになり、電子ピアノ(キーボード)が欲しくなりました。普通のピアノより、ドラム、パーカッションや色々ないかした音が出ます。近所にある楽器屋さんの窓に、それはかっこいいキーボードがあった!長く見つめれば、お店のおじさんが楽器を僕にくれるかもっ!と、この時も深く信じていました。毎週、何時間も、何時間もお店の外から楽器をずーっと見つめ続けました。しかし・・・・誰もくれなかった。

ピアノも同じでした。頑張って、努力して、たくさん練習すれば良いのに、私はテープをかけて「ピアニストになりたい」とぼーっとしながら聴いていました。しかし、弾きたい曲はいくら祈ってもできるようにはなりません。練習しないと弾けない!この言葉は何回も先生に言われた事がありました。少し面倒くさがり屋さんの私にとって、練習するのは結構大変でした。

夢を持つのは素晴らしい事です。そして夢を叶えるより、夢を持って、しっかりそれに向かって歩んで行くのはもっと素晴らしいと思います。頑張って、努力して、行きたい方向に自分の力で行く事は人間の大切な性質のひとつです。不思議な事ですが、夢が叶っても、叶わなくても、向かって行く事の方が大事です。でもできればがむしゃらにがんばったり、嫌だな、辛いな、と思いながら努力するより落ち着いて、状況を楽しみながら目標へ向かって行けたら一番いいですね。

エーデルワイス

少し山登りみたいなものだと思います。目標は山頂ですが、そのことばかり考えて、周りも見ずに一心不乱に足元だけ見ながら頂上を目指すのでは面白くないし、もったいないです。ゆっくり登りながら、周りを楽しむ。苦しいことがあっても、小さなエーデルワイスに癒されたり、草木のにおいをかいだり、遠くの景色を楽しんだり。そうする内にあっという間に山頂に着くかも知れません。でも本当は、山登りの途中で楽しい事に出会ったり美しい物やびっくりする物をたくさん見つけた事はもっと大切なのです。

山頂まで行きたい、美しい物を見たい、面白い物を発見したい。自然やハイキングが好きであれば、自然なことです。愛から生まれる気持ちです。音楽が好きでしたら、同じ気持ちが出てくると思います。曲が弾けるようになるだけじゃなくて、練習しながら美しい音を聴いたり、楽しんだり。新しい事を発見したい気持ちでピアノを弾くと、 美しい物、驚くような物、笑ってしまう物、泣いている物、すぐ見つけられる物、少し隠れている物・・・色々な発見ができるでしょう。

この前の連載で「愛」の話をしました。愛があれば、ピアノを長く楽しく弾き続けられます。でも時々ピアノを必死に練習しますと、まわりを見たり、楽しんだりする事を忘れてしまう時があります。特に毎日何時間も練習すると、毎回愛情をもって練習するのは難しくなってきます。続ける事は難しいです。どんな事でも。愛し続ける事も、時にはとても難しいです。

教育者の仕事は教える事だけではないと思います。興味を持たせる、愛の気持ちから生まれる「心」を育てる事もすごく大事です。先生は教室の窓を開けて、どんな素晴らしい世界が外にあるかを生徒に見せるべきです。その美しい世界に飛んで行きたい気持ちを育てればいいです。

電車のカタログを握って寝て・・ずーっとお店の前にキーボードを見つめて・・奇跡が起こるのを待っていた私。待っていても、何も来ないです!ピアノを練習し始めてから、少しづつ分かってきました。ピアノって、音楽って、本当に色んな事を教えてくれますね!

それでは、また!

ルイ・レーリンク

私はいつもこの曲を弾きながら、クララと結婚したいシューマンをイメージしています。彼女と結婚したいですが、クララのお父さんは大反対です。激しいところはクララのお父さんが怒鳴る声「私の娘と結婚しないで!」。歌っている部分はシューマンの声「お嬢さんと結婚させてください!」。ふたりが言い争っています。これが私のイメージです。

今回このビデオを収録したロケーションはPTNAの東音ホール(東京都豊島区巣鴨) でした。




ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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