ルイのピアノ生活

第06回 田園/曲:リスト「森のささやき」 

2005/09/13
♪ 演奏
リスト「森のささやき」 動画 動画:(5,19s)
 
ジョン・コンスタブル (John Constable) 1776-1837

外国語はとても難しいです。
私はオランダ人ですが、日本に来て日本語を学ぶ事はとても難しかった。言葉を覚えても、国によって言葉のイメージは異なります。例えば「田舎」という言葉です。英語では「Countryside」を言います。そのイメージはとても美しいです。汚れた都会から離れた美しい自然、おいしい空気、純粋な人々、やさしい色、かわいらしい動物、いい香りの草花。ヨーロッパでは「田舎」と言いますと、このような美しくてロマンティックなイメージが頭に湧いて来ます。私が初めて日本に来て、東京の都心に住んでいるお友達の家を尋ねた時のことです。都会なのに静かな住宅地ですね、という意味で「ここは田舎みたいです!」と言ったら、ムッとされてしまいした!なぜか日本では、田舎はあんまり洗練されたイメージはなさそうだと気づきました。「田舎くさい」という言葉もわたしにとって少しショッキングな言葉です。
ピアノを教える時にも、気を付けなければなりません。生徒に「田舎ぽっく弾いて」と言ってもなかなか通じないです。多分「田園」の言葉の方がイメージが近いですが、例えば都会しか知らない若い人に「田園らしく」と言っても通じるかしら?

19世紀のヨーロッパでは、田舎で暮らすことに憧れていた人がとても増えました。この時期にヨーロッパでは人口が増えて、あちこちで町は都会に変わりました。この時期、都会から逃げ出して行きたいと思っていた芸術家もたくさんいた。彼らは田舎へ行って、人間の生命の源を自然の中に探そうとした。物質的な都会にあるお金や欲望より、自然は正しい生き方を教えてくれる、見せてくれる、案内してくれる。自然を母として見て「Mother Nature」という言い方や、日本語にも母なる大地、という言葉がありますね。

フランツ・リスト(Franz Liszt) 1811-1886

都会で激しい人生を繰り広げていた、イケ面でダンディーなリストも、田舎へ「人生の目的」を探しに行った。他の芸術家たちのように、リストも田舎からインスピレーションを得ていた。ロマン派を代表する作曲家のリストは、田舎で自然の力を浴びて、その力を全身で感じてから、音楽で表現しました。そして、やっぱり自然の美しさだけではなく、自然の怖さも表現しました。ベートーベンの音楽では自然の恐れは雷ぐらいでしたが(失礼な意味ではないです)、リストの音楽では自然は恐ろしい化け物にかわります。その大自然の力は怖いと同時に頭を下げて尊敬すべき力です。彼の音楽では、自然の力の大きさ、恐ろしさ、また、それに対して人間の存在の小ささ、価値のなさを感じる事があります。 上にあるコンスタブルの絵のように単に自然を表すのではなく、リストはターナーの絵(下)のように自然と一体化した音楽を書きました。それは彼の心の底から溢れてくる音楽です。自然は私達の中にあると同時に、私達は自然の一部なのです。

ターナー(JMW.Turner ) 1775-1851

現在でも、私達は自然の力によって色々な事に気づかされます。台風、地震、津波、干ばつ。 時々地球が私達に怒っているような気がしますね。でも、その怒りの反対側に、我々がどれほど恵まれているかがわかります。感謝の気持ちは芸術では一番重要な気持ち。お日様の光、一生懸命に木を登ろうとしている小さな虫、鳥の鳴き声、風にそよぐ木の葉っぱの音。目の前にある物を感謝するためには、もしもこれが無かったら?という状況を想像すると良いです。 私の先生は、弾く前には必ず音の無い状態(Silence)を聴きなさいと言いました。 音が無い状態は音楽の基礎です。 画家が白いカンバスの上に絵の具で描くように、私達も音のない「白い」空気にピアノの音色で絵を描きます。 音の無い状態を聴いてから、最初にピアノから出てくるその音色って、なんて美しい物だ!

芸術家は見たものや感じた事を表現します。その感動を言葉、絵の具、ねんどや音楽などで表します。リストは色んな事を経験して、その感動を私達に伝えたかった。怖いもの、やさしいもの、人生の美しさや地球の素晴らしさ。すべての気持ちをひとつの曲に込めて作曲しました。森のささやきという曲はもともと練習曲ですが、でも、本当は何を練習すべきかを考えさせられますね!

それでは、また!

ルイ・レーリンク

この曲を弾く時に、自然を表そうとがんばるより、自然に音楽を感じて演奏すればいいです。風のように身体を動かしてください。すべての関節を柔らかくして、身体全身で音楽を感じて弾きましょう。細かい事より、最初に音の流れを感じましょう。そして伴奏の音をできるだけ静かに!鍵盤を下まで押さえるより、風に吹かれている雲のように、鍵盤を軽く、そして自由に弾きましょう。

今回このビデオを収録したロケーションは千歳烏山にある:ユーロピアノでした。使用ピアノ:ベヒシュタインM/P




ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

【GoogleAdsense】
ホーム > ルイのピアノ生活 > 連載> 第06回 田園/曲:...