海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

舞台芸術の力~FACPリポート(3)芸術は最新テクノロジーをどう生かすか

2014/09/26
舞台芸術の力をすべての人に ~FACPを通じて
3.芸術は最新テクノロジーをどう生かすか
8Kまでの技術開発の道のり。

テクノロジー開発は日進月歩で進み、音楽や映像業界を取り巻く環境も数年前とは変わっている。時にはバーチャルがリアルを凌駕するほどに。では将来像がどうなるのだろうか?

まずはソーシャルネットワーク(SNS)の台頭である。台湾フィルでは2007年よりSNSを始め、ウェブサイト閲覧数の増加と定期会員数の増加がほぼ相関関係にあることを紹介した。過去5年の統計では、閲覧数が7.3倍、定期会員数が約4.4倍(2008年度3375→2013年度14727人)である。また教育プロジェクトの映像をyoutubeで公開したところ、1週間で300万回を超える再生があり、若者世代への訴求力が高まったことを裏付けた。現在は聴衆の6割が20~35歳の世代だそうだ。

そして映像技術の進化も目覚ましい。今回、最先端の映像技術である8Kについて報告された(黒田徹氏・NHK放送技術研究所所長)。現在は4Kまでが市場に出ているが、8Kとは画素数が7,680×4,320とさらに高画質が進み、色域も拡張され、まるでその場に居合わせたかのような臨場感が体感できる。また画面分割をし、一度に複数の視点を見たり自分で視点を選択することができる。今回は実際にNHK放送技術研究所の見学ツアーも組まれ、約40名が参加した。

踊り手の身体の動きに合わせて映像を映し出したインスタレーション。

今後重要なのは、この最新映像テクノロジーや地球規模のネットワークをもってパフォーミングアーツは何ができるのか、という問いかけである。今回アーティスト代表として河口洋一郎氏(東大大学院情報学環教授)が自身の作品を紹介された。日本舞踊家の身体の動きに合わせてリアルタイムに映像で映し出したり、その動きを幾何学的な模様に置き換えて花鳥風月の世界観を再現したり、瀬戸大橋では神殿を再現すべく8K映像を映したり、宇宙人のキャラクターを使って未来の宇宙に旅行するという映像を放映したこともあるそうだ。河口教授は、神社仏閣や伝統産業などと連携しながら地域振興にもつなげていきたいと語る。一方では2020年東京オリンピックイヤーに向けて、8Kの技術開発がさらに進む中で、新たな作品創造に取り組みたいとした。

NHK放送技術研究所の見学ツアー中。

テクノロジーは過去の記憶を掘り起し、現在の視野を広げ、未来のビジョンを映し出す。真に迫るバーチャル映像は、音楽、芸術、歴史、グローバル市民教育でも活用できそうだ。またインタラクティブ性に注目すれば、自分が動くことによって何かが動くという体験ができると、より主体的な実体験に近づく。こちらは欧州の事例から。

1. Virtual Conductor

こちらはウィーン音楽博物館Haus der Musikにあるアトラクションで、ウィーンフィルを指揮できる(美しき青きドナウ、アイネ・クライネ・ナハトムジークなど)。指揮棒の動きに合わせてオケが反応して音楽が奏でられる(証明書も購入可)。これは独ダルムシュタット大、リンツ大、ウルム大、米スタンフォード大が共同開発したものである。

2. Mendelssohn Effektorium

ライプツィヒのメンデルスゾーン博物館内にある、バーチャルで指揮が体験できるアトラクション。デザインスタジオWhite Voidが開発。

ここからは想像の域だが、たとえば世界同時多元中継により、自分自身が世界中の演奏家や音楽愛好家とオンラインでアンサンブルやオーケストラ演奏ができるかもしれない。しかもリアルな感覚を伴って。またバッハやベートーヴェン、ショパンなど作曲家の人生を再現したドラマでは、より作曲家の心情に迫ることができるだろう。最新テクノロジーで何ができるのか、想像力を働かせて未来に問いかけたい。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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