海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

国際ピアノ協会連盟(IFPS)第2回会議が東京で開催!

2014/09/08
国際ピアノ協会連盟(IFPS)第2回会議が
東京で開催!

8月23日(土)10時半より、第2回国際ピアノ協会連盟(IFPS)会議が開催された。第1回目となる前回は2013年11月に香港で開かれ、今回は2回目となる。同週に開催されたピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナルと表彰式に合わせた形で、ピティナがホスト役となった。

会議にはメンバー6団体13名とゲスト2名が参加し、各団体の活動報告や課題への取り組みが発表されたほか、同連盟の会則についても活発に話し合われた。参加国は日本、中国(上海)、香港、シンガポール、モンゴル、インドネシアの6か国。以下に、その様子をリポートする。

ホストより自己紹介~ピティナについて

まずホストであるピティナの組織体系やコンペティション運営方法について、出席者から矢継ぎ早に質問が寄せられ、福田専務理事が解答した。主な質問事項として、会員サービス(会員種別、正会員と総会について、会員のメリット、会費の徴収方法、マイページの利用法、各会員によるプロモーション支援など)、協会全体の運営体制(収入比率)、コンペティションについて(参加料、指導者割引・会員割引の違い、級の設定、課題曲、採点方法、予選・本選・全国大会への通過率、指導者賞、コンペティションとステップの参加者数比較など)等が挙げられた。また特級ファイナルを見学したタン先生(上海)やシャラフセレン先生(モンゴル)等からは、コンクール参加者の熱演や指導者の熱意、映像・撮影やIT技術者などスタッフに対する賛辞も寄せられた。

各国参加者より自己紹介
中国・上海

2回目の参加となるタン・ジェ先生(Dr. Tang Zhe、上海音楽院副学長、上海ピアニスト協会会長)は、自身が主宰する上海音楽協会の副学長・部長と共に来日。7月11~17日に上海音楽フェスティバル(Shanghai International Piano Festival & Institute・隔年開催)を開催し、エヴァ・ポヴウォッカ先生やラン・ランの師匠など国内外から著名教授やアーティスト12名が出演し、成功裏に終わったことを報告した。ピアノは全てスタインウェイ(練習用には同系列ブランド)で、上海中心部にある宿舎付の学校を借りて行われたそうだ。 *2012 年度記事

また5月に行われた「e-コンペティション(e-competition)」は全世界の中国人を対象にしたコンクールで、中国独自のサイトyoukuを使って行われた。10,900名が参加し、最多視聴動画は1,290,000回を記録した。決勝は「上海春の音楽祭(Shanghai Spring Festival)」で行われ、決勝進出率は100分の1というハイレベルなものだった。優勝者はタン先生の門下生で、8月に行われたエトリンゲン国際コンクールでも第2位を受賞した。また8月初頭には上海で音楽試験が行われ、全10グレードで70,000人が参加。トップレベルだけでなく、音楽学習者全体のレベルアップも図っているそうだ。「アジア太平洋地域で様々なリソースをシェアできればいいですね。上海国際音楽祭は次回2016年に開催されますので、ぜひ皆さんにもお越し頂ければ嬉しいです」。

シンガポール

同じく2回目の参加となるジュリー・タンさん(シンガポール音楽指導者協会会長)はシンガポールの現状と課題を共有した。シンガポールでは政府の支援によってオーケストラやコンサートホール、大学付属音楽院もあり、トップ層はハイスタンダードだが、草の根レベルではまだ啓蒙活動の必要がある。またシンガポールでは音楽を音楽試験への準備として教えられる傾向があり、子どもたちが途中でやめてしまうことが課題。彼らは明日の聴衆でもあるからその現状を改善していきたい、と抱負を語った。その活動の一つとして、同協会ではシンガポール音楽祭&室内楽コンクール(Singapore Performers' Festival & Chamber Music Competition)を2年毎に開催している。今年6月には第5回目が成功裏に終了した。「ピティナが素晴らしい仕事をしていることを知り、是非その成功への道のりや秘訣をシェアできればと願っています」。

モンゴル

モンゴルのシャラフセレン先生(Prof. Sharavtseren Tserenjigmed、モンゴル国立音楽舞踊大学ピアノ科主任教授)も前回に続いて2度目の参加で、ピティナのコンクールと表彰式も見学し、その業績を讃えた。(モンゴルの大学カリキュラムに関しては、第1回目のリポートをご参照頂きたい)また今回はかつてのピアノの先生であり、同じピアノ科で教鞭を取るチャトラーバル先生をご紹介下さった。

初参加となるチャトラーバル先生(Prof. Tungalag Chadraabal)はピアノ指導歴35年。幼少の頃、社会主義国家であったモンゴル政府は音楽教育に力を入れており、才能ある子どもたちを旧ソ連に派遣していた。その第一世代にあたるチャトラーバルさんはイェレバン(現アルメニア)で学び、帰国後より後進の指導にあたっている。ピアノ教育の歴史は短いが大変活発であり、現在首都ウランバートルには国内・国際コンクールもある。その一つがショパン国際コンクールinモンゴルで、今年2月に開催された。(International Chopin Piano Competition "Frederik Chopin and Mongolia in the 21st Century"?)将来はアジア内でのコミュニケーションを活発にし、お互いに協力しながら、自国の音楽教育が向上していくことを願っています」と締めくくれられた。

インドネシア

2回目の参加となるアン・ウィ・リーさん(Ms. Ang Hwie Lie、Pertemuan Musik Surabaya)は、ドビュッシー生誕150周年記念年に行われたフェスティバルのDVDを紹介。ドビュッシーが影響を受けたガムランに、ピアノ、ボイスパフォーマンスを組み合わせた現代作品である(作曲はインドネシア人作曲家)。また今回同行した同僚のデッシー・ヴァレンティナ・プラノヴォさんは、米カンザス大学修士課程卒業の25歳。帰国後はピアノ指導と音楽学校の運営法も学んでいる。インドネシアにはコンクールや音楽院は多いがそれぞれ課題があるという現状に触れ、「ピアノの先生同士をもっと繋げていきたい」と抱負を語った。

ゲスト・プレゼンテーション

今回は「ショパン国際ピアノコンクールin ASIA」よりゲスト2名が出席した。まず菊池麗子先生(組織委員会上席常任委員)よりコンクール創立経緯や趣旨が説明された。第1回大会で日本人とポーランド人の審査員があるポロネーズの演奏に対して全く異なる評価を出し、審査会議室でステファンスカ先生とストンペル先生が目の前でポロネーズを実際に踊って下さったことがあった。そのエピソードから、ヨーロッパと文化の土壌が違う日本で正統的なショパンの演奏を普及させたいと考え、コンクールを毎年開催している。プログラムはショパン限定だが、ヤシンスキ先生のアドバイスにより、子どもの部門にはショパンの前に勉強すべきレパートリーとして、バッハやモーツァルトなどを取り入れている。またペダル使いを重視した教材、子どものための協奏曲集(シュロス作品集"The Schloss Concerto")やポーランド人作曲家によるソロ作品集など、教材開発に力を入れていることも紹介された。

続いて谷明子さん(エージェント・教育事業部主任)より、コンクールの概要を説明。ソロ、コンチェルト、アマチュアの3部門があり、ソロのプロフェッショナル部門は、5年毎にショパン国際ピアノコンクール(ワルシャワ)に合わせて「派遣コンクール」として開催される(ただしポーランドの予備予選(12/1締切)には別途応募の必要がある)。参加方法や仕組みについてIFPSメンバーからも細かい質問が寄せられ、アジア各国へアピールの機会になったようだ。

テーマ別
楽器構造を知ること~篠原多雅子先生

篠原多雅子先生より自己紹介を兼ねて、2年前に創設された「ラン・ランピアノスクール」を訪問したことが報告された(ラン・ランは名誉総裁で年3回来訪、創立者はクラリネット奏者のホワン氏)。

また昨年第1回IFPS会議をふまえ(ピアノ教育と個性の発達、良い姿勢について。詳しくは第1回目へ)、今回新たに共有されたテーマは、「ピアノの構造と打鍵のメカニズムを知ることの大切さ」。現代ピアノは打鍵の重さやスピードを厳密に反映した音を出すような構造になっている。そのため打鍵スピードの少しの変化が大きな音量と音質の違いとして出てくる。必要以上に大きな力を加えて音を出して身体を壊してしまうピアニストもいるが、適切な打鍵スピードと力はどのくらいなのかを知ることが、ピアノの先生方にとっても大事である。楽器構造と打鍵のメカニズムを詳しく説明した後、特級ファイナルでグランプリとなった山﨑亮汰さんの音の出し方が自然で素晴らしかった、との印象を語られた。(プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番

基礎とは?そして先生と生徒の出会い~タン・ジェ先生

タン先生が9歳の生徒さん(2014年度エトリンゲン国際コンクール15歳以下のカテゴリで第2位)の演奏映像を紹介しながら、小さい子の基礎指導について話し合われた。2年前に最初の先生から紹介された頃は技術的には弾けてはいたが、音楽性が身についてきたのはその後。小さい生徒はそれほど多くないが、基礎指導はとても大切。アジアでは「基礎」としてテクニックを重視する傾向があるが、基礎とは楽譜の読み方、楽語や記号の意味を解釈すること、作曲家について知ることなどがある。「街の先生方の生徒が、よりレベルの高い先生に導かれる機会が公平に行き渡るべきでは」との質問(福田専務理事)に対しては、「生徒と先生の出会いは運命であり、化学反応のように会うべくして会っている」とのこと。マスタークラス等で中国全土にいっているので、自然に生徒が見出されるそうである。なお生徒さんの一人が2012年度ジーナ・バックアゥワー国際コンクールに参加していたが、曲想に合った繊細かつ多彩な表現がとても印象的だった。

今後のIFPSの活動について

次回は中国・天津市にて「天津国際アマチュアコンクール」に合わせて開催される。2015年8月30日予定。またIFPSのウェブサイトを新設することが決定した。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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